2021.02.12 (Fri)

いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第17回)

働き方改革でドライバーの労働時間はどうなる?

 2019年4月1日より、働き方改革に関わる法案が随時適用されました。運送業界はドライバーの労働時間が長いことで有名ですが、どのように変わったのでしょうか。本記事では、働き方改革による運送業の現状と今後を解説します。ぜひ参考にしてください。

働き方改革とは?

 働き方改革とは、多様化する働き方を、個々の労働者が自由に選択できる社会をめざすための取り組みです。少子高齢化により労働人口が減っている現在、定着率や生産性を上げるため、「労働時間の短縮」や「有給休暇の取得」などの働き方改革を行い、労働者にとってより働きやすい環境づくりが進められています。

働き方改革により運送業はどう変わった?

 働き方改革では長時間労働の是正や年次有給休暇の取得などさまざまな対策が打ち出されています。しかし、中には働き方改革の推進が難しい業種もあります。そのうちの1つである運送業について、働き方改革により、どのような変化がもたらされるのかを見ていきましょう。

時間外労働の上限規制

 働き方改革により、時間外労働の上限規制が設けられました。しかし、業種によっては時間外労働の時間削減が難しいものもあります。その1つが運送業です。実際に、運送業については、他の一般的な業種とは別枠で時間外労働時間の規制が設けられています。

【時間外労働時間の上限規制】

  法定時間外労働時間 臨時的に特別な事情がある場合
の特例措置
一般則 ・月45時間
・年360時間
・月80時間
・年720時間
運送業 ・月80時間
・年間960時間

以上のように、運送業の法定時間外労働時間は、一般業種の特例措置よりも240時間長く取られていることがわかります。なお、時間外労働の上限規制の対象となるのは、正社員・アルバイト・派遣社員などすべての業務形態です。ただし、業務委託のドライバーは労働基準法には準じないため、原則として対象外です。

適用には5年の猶予期間

 働き方改革による時間外労働の上限規制は2019年の4月より施行されました。しかし、運送業においては5年間の猶予が設けられ、時間外労働の上限規制の施行開始は2024年4月となります。運送業における長時間労働の是正は、運送業界だけでなく、荷主の理解を得る必要があると判断されたことが理由です。

 2024年の施行開始後、雇用主はドライバーの時間外労働時間の上限規制を遵守する必要があります。もし上限規制を超えて過重労働を強いた場合、厳格な行政処分の対象となります。

有給5日以上取得義務規制

 2019年4月から、全ての業種において1年に最低5日の有給休暇の取得が義務付けられています。運送業も同様です。なお、有給取得義務規制の対象者となるのは年に10日以上の年次有給休暇が付与される労働者です。

 10日間の有給休暇のうち、5日間は雇用者が時季指定して労働者に有給休暇を取得させる必要があります。これには労働者側から有給休暇の申請を行いにくいという背景があります。なお、違反した場合には30万円以下の罰金が科されます。

同一労働同一賃金

 働き方改革の大きな柱の1つに、同一企業における正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇差の解消があります。これは「同一労働同一賃金」といい、正規雇用・非正規雇用に関わらず仕事ぶりや能力が適正に評価されることをめざしています。

 特に運送業は正規雇用者と非正規雇用者の待遇の差が大きく、実際に正規雇用者と非正規雇用の待遇を巡る訴訟も相次ぎました。これらの訴訟において裁判所が下した判決を簡潔にまとめると、正社員と同一の業務を行っている非正規雇用者についても、運輸業界に多い無事故手当やなどの各種手当を支給すべき、となります。

 運送業の中には日給ドライバーなどの非正規雇用者が多数存在しますが、各種手当などの支給において、正規雇用者と差別があります。中小企業においては2021年4月より同一労働・同一賃金の施行が開始されるため、非正規雇用者への各種手当てや賃金制度の見直しが求められています。

運送業の問題点

 運送業における働き方改革の推進が難しいといわれる背景には、運送業が抱えるさまざまな問題があります。運送業における代表的な問題点について見ていきます。

ドライバー不足

 運送業が抱える最も大きな問題の1つが慢性的な人手不足です。運送業は他産業と比べると賃金が約2割ほど低く、かつ長労働時間を強いられる業種です。そのため、労働者が定着しにくいのです。

 働き方改革では定着性を高めるために、長時間労働の是正がめざされています。しかし、運送業ではドライバー不足が深刻化しており、この状態のまま労働時間の規制が実施されると、果たして人手が足りるのかという問題も懸念されています。

労務管理の難易度

 働き方改革では長時間労働の是正のために、管理者による労務時間の管理も求められています。しかし、運送業は各ドライバーが社外で仕事をするという形態であるため、個々の労務管理の正確な把握が難しいという問題があります。

 ドライバーの労務管理の方法として、「運転日報」や「デジタルタコグラフ」「チャート紙」「ドライブレコーダー」などの利用がありますが、実際に各ドライバーの労働の様子を監督する人がいないため、労働時間を100%正確に把握するのは不可能と言われています。

割増賃金率の引き上げ

 2023年4月より、全中小企業における時間外労働の割増賃金率の引き上げが行われます。具体的には、労働者が1カ月間で60時間を超える時間外労働を行った場合、雇用者は、超過分の時間外労働に対して賃金を50%割増して支払う必要があります。

 長時間労働が日常化している運送業では、多くの企業が割増賃金の支払いを行う必要があります。すなわち人件費がかさむ可能性が大きく、会社の負担になるという図式があります。

運送業の今後と対策

 働き方改革の推進が難しいとされる運送業において、改革を成功に導く鍵は一体何なのでしょうか。最後に、運送業が行うべき今後の対策について解説します。

「働き方改革実現に向けたアクションプラン」とは

 今まで見てきたように、運送業における働き方改革の前にはさまざまな壁が立ちはだかります。そこで、全日本トラック協会が「働き方改革実現に向けたアクションプラン」の策定を行いました。

 働き方改革実現に向けたアクションプランは、運送業におけるさまざまな課題を自立的に解決し、運送業の魅力を挙げることを目的としています。「働き方改革実現に向けたアクションプラン」では2024年4月までに年間時間外労働960時間超の事業所ゼロをめざすべく、以下のような対策を打ち出しています。

労働生産性の向上

 限られた人手で時間外労働の上限規制に対応するには、労働生産性の向上が期待されます。労働生産性の向上はドライバーや運送会社の努力だけでなく、荷主の理解を得ることも必要です。具体的に以下の対策が提言されています。

・荷待ち・荷役時間の削減
・高速道路の有効活用
・市街地での納品業務の時間短縮
・長距離輸送の改革
・最新車両技術の導入

 以上の対策の実施により、荷物の受け渡しがスムーズになり、各ドライバーの労働時間の短縮が見込まれます。また、これらの対策を打ち出すことには、荷主の無理な依頼を防ぐ効果もあります。

適正な取引環境の確保

 運送業での定着率を上げるためには、ドライバーの賃金等の処遇改善が必要です。安価な取引などはドライバーの低賃金化の大きな要因であるため、荷主と元請けが協力して適正な取引関係・取引料金を確保することが必要です。 

多様な人材の確保・育成

 運送業で人手不足が起こりやすい要因の1つに、現状では働き手が限定されるという問題があります。運送業は力仕事に偏りやすいため、女性や高齢者などの力の弱い労働者が集まりにくいのです。

 人手不足を解消するためには、若年層や女性、高齢者などの多様な人材の確保が必要です。そのために求められる対策や環境設備には、以下があります。

・荷積みの機械化
・第二種免許の受験資格の見直し検討
・サービスエリア、パーキングエリアにおけるマス不足の改善
・男女別ロッカーの設置
・育児子育て休暇制度などの職場環境整備
・短時間業務の創出

働き方改革は運送業にとって辛い部分もある

 運送業では働き方改革の推進が難しいことから、働き方改革実現に向けたアクションプランにより具体的な対策が示されました。しかし人手不足による長時間労働化や、荷主との兼ね合いなどから、なかなか改善が進まないという現状があります。

 今後、運送業における働き方改革を推し進めるためには、多くの課題をクリアするための確実な対策を講じる必要があります。

 

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