2021.02.05 (Fri)

いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第6回)

守らないと罰金?働き方改革の罰則や対象者について

 働き方改革関連法案では、従業員の長時間労働やパワハラに対して罰則が設けられました。働く環境をより良くするために罰則を設けざるを得なかったのです。この記事では、なぜ罰則が必要なのか、どんな罰則なのか、誰が罰則を受けるのかについて解説します。

なぜ働き方改革に罰則が必要なのか

 働き方改革関連法案では、時間外労働の上限規制や有給取得義務化のほかに、規定を守らなかった場合の罰則も盛り込まれました。なぜ罰則を設けてまで働き方を変えなくてはならないのか、その理由や背景について見て行きましょう。

本来は残業してはいけない

 そもそも労働基準法には、労働時間に関して「1日8時間、1週間に40時間以内」という決まりがあります。つまり、基本的に残業は禁止されていたのです。しかし厳しい罰則はなく、さらにさまざまな抜け道があったため、働き方改革関連法案の施行前は、労働基準法に定められた法定労働時間が守られているとは言い難い状況でした。

36協定の必要性

 労働基準法の法定労働時間を遵守している企業では、法定労働時間内では仕事をさばききれない場合もあります。その場合、36(サブロク)協定を結ぶことで雇用者は従業員に時間外労働をさせることができます。

 36協定とは簡単に言えば、時間外労働に関する事柄を定めたものです。雇用者が従業員に法定労働時間を超えて労働させる場合には、両者間で36協定を締結し、その内容に従って時間外労働を行う必要があります。

 36協定は雇用者に対し、従業員を適切な条件下で時間外労働や休日出勤させることを求めます。つまり36協定とは労働基準法と同じく、立場の弱い労働者を守るためのルールです。

36協定の弊害

 36協定は従業員を不当な時間外労働から守るために制定されたにも関わらず、大きな抜け道がありました。厚生省の告示により、36協定では1カ月の時間外労働を45時間,1年間の時間外労働の限度を360時間と定めています。

 しかし法的拘束力はなく、さらに特別条項を設ければ時間外労働時間を延長させることできました。つまり、36協定を結びさえすれば、実質雇用者はいくらでも時間外労働を従業員に強いることができたのです。そのため36協定は法令文上は青天井だと言われていました。

 実際に長時間労働を強いられる従業員は少なくなく、過重労働が原因で精神疾患や自殺・過労死に追い込まれるケースもありました。

働き方改革で長時間労働を抑制

 働き方改革では、長時間労働による過労死や自殺などの弊害を食い止めるべく、新たに時間外労働時間の上限規制に刑事罰が設けられました。36協定では守り切れなかった従業員を、雇用者に対する罰則という形で守るように強化されたのです。

働き方改革の罰則がある“5つ”の条項

 働き方改革のうち、罰則規定が設けられた項目は5つあります。それぞれの内容と罰則規定について解説していきます。

条項1:時間外労働の上限

 働き方改革では、労働時間に対して以下のような上限を設けています。

原則 臨時的に特別な事情がある場合
・月45時間
・年360時間
・年720時間以内
・複数月平均80時間 (休日労働を含む)
・月100時間未満 (休日労働を含む)

 原則である「月45時間、年360時間」については働き方改革の前後で変更はありません。大きく変更されたのは臨時的に特別な事情がある場合の時間外労働についてです。特別な事情がある場合には、雇用者と従業員間で「特別条項」を設けることで、上記の規制内で時間外労働時間を延長することができます。

 36協定が青天井と呼ばれていた理由に、特別条項の自由度の高さがあります。今回、働き方改革で特別条項にも規制を設けることで、従業員を過重労働から守ることが可能になりました。なお、上限規制に違反した場合は、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰が科されます。

条項2:60時間を超える時間外労働について5割以上の割増

 働き方改革では、60時間を超える時間外労働時間に関して賃金割増率の引き上げが行われました。賃金割増率の引き上げは、大企業ではすでに2010年よりスタートしていましたが、中小企業では猶予期間が設けられ、施行開始時期が曖昧でした。

 今回の働き方改革では猶予期間を撤廃し、中小企業でも60時間を超える時間外労働には50%増の賃金の支給が定められました。なお猶予期間の終了時期は2023年4月です。違反した場合は、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑事罰が科されます。

条項3:有給休暇最低5日取得

 働き方改革では、年次有給休暇の時季指定取得が義務付けられます。対象者は年に10日以上の年次有給休暇が付与される従業員です。10日間の年次有給休暇のうち、5日間を時季指定により取得させる必要があります。

 雇用者が従業員に対し、有給休暇を取得させる背景には、従業員側から有給申請がしにくいというものがあります。有給休暇の取得義務については、2019年4月より全企業でスタートしています。なお、違反した場合には「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則があります。

条項4:フレックスタイム制の清算期間延長

 フレックスタイム制とは、始業時刻と終業時刻を従業員自身が決定する制度です。フレックスタイム制は以前より導入されていましたが、今回の働き方改革に当たり、清算期間が1カ月から3カ月に延長されました。

 清算期間を3カ月に延長することで、より個々の事情に合わせた柔軟な働き方が可能になります。なお、働き方改革に伴い、1カ月を超える清算期間を設定する場合には労使協定を締結し、労働基準監督署への届出が義務づけられました。この義務に違反した場合の罰則は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。フレックスタイム制の改正は全企業で2019年4月にスタートしています。

条項5:医師による面接指導

 働き方改革では、時間外労働が月100時間を超えた労働者に対する医師の面接指導が義務付けられました。そのため、企業は、労働安全衛生法により産業医を選任する必要があります。産業医による面接指導の目的は、メンタルヘルスケアを行うことで、長時間労働による過労死やうつ病の発症を防止することです。

 医師の面接指導に従わないなどの違反行為があった場合、「50万円以下の罰金」という罰則が科されます。

罰則の対象者は?

 働き方改革では、長時間労働の是正に向けて厳しい罰則が設けられています。これらの罰則の対象者について、簡単に見ていきましょう。

罰則の対象者は”企業”、罰金を払うのも”企業”

 罰則の対象者となるのは企業です。たとえ従業員が企業に無断で過重労働を行った場合でも、罰則や罰金の支払いは企業に科されます。つまり、企業側は従業員の労働時間について正確に把握し、違法な過重労働にならないように 適切に監督する必要があります。

罰則が適用されない場合もある

 一部の業種や企業では、上限規制を超えても罰則の対象とならない場合があります。それは、一部の業種では今すぐの長時間労働の是正が困難であると判断され、猶予期間を設けられているからです。あるいは、適用そのものが除外される業種もあります。

 現在、労働時間の上限規制に猶予期間が設けられている業種や、適用が除外されている業種は「建設事業」「自動車運転の業務」「医師」「鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業」「新技術・新商品等の研究開発業務」の6種です。

 猶予期間が設けられている業種について、猶予期間の終了は2024年3月31日が予定されています。なお、猶予期間が終了しても、ほかの一般企業とは異なる規制が適用される業種もあります。

事業・業務 猶予期間中の取扱い (2024年3月31日まで) 猶予後の取扱い (2024年4月1日以降)
建設事業 上限規制は適用されない ・災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用

・災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労 働と休日労働の合計について、 月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規定は適用されない

自動車運転の業務 上限規制は適用されない ・特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間
・時間外労働と休日労働の合計について、 月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制は適用されない
・ 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月までとする規制は適用されない
医師 上限規制は適用されない 検討中
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 時間外労働と休日労働の合計に ついて、 月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内 とする規制は適用されない 上限規制がすべて適用される
新技術・新商品等の研究開発業務 上限規制の適用から除外  

 上限規制の適用が除外されているのは、新技術・新商品等の研究開発業務です。ただし新技術・新商品などの研究開発業務においては、1週間で40時間を超えた分の残業時間が合計で月100時間超になった場合には、罰則付きの産業医による面接指導が義務付けられています。

働き方改革で“パワハラ”も規制

 不当な労働による過労死や精神疾患の主な原因は、長時間労働だけでなく、上司や取引先のパワハラも含まれると考えられています。そこで働き方改革では、労働時間の規制だけでなく、パワハラを規制するための内容も盛り込まれています。

6種類のパワハラの型

 パワハラの定義は、以下の3つの条件を満たす行為とされています。

・職場において優越的な関係を背景とした言動
・業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
・労働者の就業環境が侵害されるもの

 以上の3つの条件を満たすことを前提とすると、パワハラ行為はさらに6つのタイプに分けることができます。それぞれの特徴を以下の表にまとめました。

類型1 身体的な攻撃 (暴力的な行為)
・殴る
・物をぶつける
・蹴る
類型2 精神的な攻撃 (脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
・人格を否定するような発言
・長時間の厳しい叱責
類型3 人間関係からの切り離し ・仕事を外す
・別室での長時間の隔離
・無視
・仲間外し
類型4 過大な要求 (業務上不要な雑用・遂行不可能な業務の強制)
・私的な雑用を強制的に行わせる
・雑用の強制による本来の業務の妨害
類型5 過小な要求 ・管理職に誰でもできる仕事を強制させる
・能力・経験とかけ離れた程度の低い仕事を強制させる
・仕事を与えない
類型6 個の侵害 ・職場外での継続的な監視
・私物を写真撮影する

パワハラ防止は企業の義務

 2020年6月1日から、改正版「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(改正労働施策総合推進法)」が施行されました。なお、中小企業での施行は2022年4月1日より開始されます。この法律は通称「パワハラ防止法」と呼ばれています。

 パワハラ防止法の成立に伴い、企業にはパワハラを防止することが義務付けられました。パワハラ防止法には、他の項目のように刑事罰の罰則が設けられていません。ただし、厚生労働大臣が必要であると判断される時には、事業主に対する助言・指導・勧告を行うことができます。

 さらに、規定違反への勧告に従わない場合にはその旨が公表される可能性もあります。現在はコンプライアンスを重視する風潮や、SNSでの個人の発信が強い影響力を持つ時代です。一度の軽微なパワハラが、企業への信頼の失墜や従業員の離職を招く可能性もあります。

 パワハラの防止は、個々の従業員だけでなく、企業や従業員全体を守るためにも必要です。企業は長時間労働の是正だけでなく、パワハラの防止にも努め、職場環境をより良く整備することが求められます。

ペナルティを受けないために必要なこと

 働き方改革で定められたさまざまな規定に違反すると、厳しい罰則が科されます。罰則を受けずに済むためには、企業・上司・従業員それぞれに以下のことが求められます。

企業がすべきこと

 長時間労働を是正するために、企業には長時間労働をさせない環境づくりが求められます。たとえば「ノー残業コール」のほか、基幹業務システムの刷新などの根本的な見直しも必要です。また、立場の弱い労働者を守るために、責任ある地位の職員に対するパワハラ防止の啓蒙活動も積極的に行っていく必要があるでしょう。

上司がすべきこと

 上司は現場を監督する責任があります。たとえば長時間労働をさせないために、個々の社員の労働時間を正しく把握しておかなければなりません。必要があれば、個々に声かけを行ったり、1人に集中している業務を他社員に割り振ったりするなどの対策が必要です。

 また、パワハラを発生させないために、職場の雰囲気づくりも大切です。自身がパワハラを行わないことはもちろん、同僚間でパワハラが発生しないように声かけを行ったり、個々に面談を行ったりして、職場の実態を把握しておくことが求められます。

従業員がすべきこと

 働き方改革を成功させるには、雇用者や上司側だけでなく、一人ひとりの従業員協力も必要です。たとえば長時間労働になりがちな場合は、自分の仕事のやり方を根本的に見直すなどして、適正な労働時間になるように自己管理を行います。

 パワハラは自分がしないことはもちろん、パワハラを受けている同僚がいるなら周囲に相談するなどして、パワハラ防止のための具体的な行動を心がけましょう。

罰則に頼らない一人ひとりの“働き方改革”が必要

 働き方改革における罰則は企業に対するものです。だからといって企業側のみに努力義務があるわけではなく、従業員にもさまざまな努力が必要です。

 働き方改革を推進し、より良い労働環境をつくるためには、企業側と従業員側の双方の協力が必要です。そのためには一人ひとりが意識改革を行い、主体的に働き方を変えていくことが求められます。

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