2021.02.12 (Fri)
いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第18回)
働き方改革で管理職はどう変わる?役割や対策を解説
働き方改革関連法案によって、労働時間の上限規制や有給取得の義務化が行われました。それに伴い、管理職は従業員の労働時間や有給取得率を正確に管理することが必要となりました。管理職は今後必要な業務を遂行しながら、どのような対策が求められるのでしょうか。本記事では働き方改革における管理職の役割や、管理職の負担を軽減するためのポイントについて解説します。
働き方改革とは?
厚生労働省では働き方改革を「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることをめざしています」と位置付けています。
現在、日本では少子高齢化により労働人口の低下が問題視されています。少ない労働人口で現在の社会水準を維持していくためには、より多様な人材を労働力として確保する必要があります。しかし従来の働き方では、子育てや介護などの家庭での仕事を抱える人々が働きたくても働けないというケースが多く見られます。
日本政府は働き方改革により、より多様な人材が働きやすい環境づくりをめざしています。働き方改革とは簡単に言えば、個々の労働者がそれぞれの事情に合わせた多様な働き方を選択できる社会をめざすための制度改革です。
働き方改革では具体的に、テレワークの普及や長時間労働の是正、有給取得率の向上などの働き方の変化を促しています。これらにより多様な働き方が創出されることで、個々の労働者がそれぞれの事情に即した働き方を選択しやすくなり、労働参加率が上がると期待されています。
働き方改革によって何が変わった?
働き方改革の中でも大きな柱とされるのが、「時間外労働時間の上限規制」「有給取得の義務化」「労働時間・有給休暇取得の把握の義務化」の3つです。それぞれの内容について見ていきましょう。
時間外労働時間の上限が設けられた
労働時間は労働基準法によって「1日8時間・週40時間」という上限が定められています。この法定時間を超えて時間外労働を行う場合には、労使の合意に基づき、36協定の締結と労基署への届け出が必要です。
法改正以前は、特別条項付き36協定を結べば、雇用者は労働者に無制限の時間外労働を科すことが実質可能でした。しかし働き方改革関連法案では、労働者を過重労働から守るため、時間外労働に上限規制が設けられました。
原則 | 例外(臨時的に特別な事情がある場合) |
---|---|
・月45時間 ・年360時間 |
・年720時間以内 ・月100時間未満 (休日労働を含む) ・2~6カ月平均80時間 (休日労働を含む) |
上記に違反した場合、雇用者には「懲役6カ月以下、30万円以下の罰金」という刑事罰が科されます。
有給休暇の取得が義務化された
働き方改革に伴い、2019年4月より全企業で、有給取得の義務化がスタートしています。対象となるのは年に10日の年次有給休暇が付与される全ての労働者です。10日間の有給休暇のうち、5日間は雇用者が時季指定を行って取得させなければなりません。ただし労働者側から年5日間の有給休暇取得申請があった場合はこの限りではありません。
雇用者が時季指定を行う場合は、労働者から聞き取り調査を行い、できる限り意志を尊重する形で有給を取得させる必要があります。なお、義務に違反した場合、雇用者には「懲役6カ月以下、30万円以下の罰金」の罰則が科されます。
労働時間・有給取得の把握が義務化された
時間外労働の上限規制や有給取得の義務化に伴い、企業は労働者の労働時間や有給取得有無を正確に把握することが義務付けられました。労働時間の管理については、タイムカードやパソコンを使った時間の記録など、客観的な方法を用いなければなりません。
雇用者は客観的な方法で把握した労働時間を記録などにまとめ、3年間保存しておく義務があります。同じく有給取得の有無を管理する際にも、雇用者は労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存する義務があります。
管理職は働き方改革の対象外?
働き方改革の対象には管理職も含まれています。管理職は「管理監督者」といい、労働基準法では、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と位置付けられています。そのため管理職であるかどうかは、役職名ではなく、職務内容や責任・権限、勤務態様などの実態によって判断されます。
働き方改革以前では、管理職は労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けませんでした。しかし2019年の働き方改革関連法案制定により、労働安全衛生法に基づき、管理監督者も対象に含まれることとなりました。
働き方改革における管理職の役割とは?
働き方改革では、管理職を含め多くの労働者の働き方が変化します。これに伴い、管理職がまず果たすべき大きな役割には、部下・従業員の労働状況の正確な把握があります。
労働時間・有給取得状況を把握する
時間外労働時間の上限規制や有給取得の義務化に伴い、管理職は部下や従業員が適切な労働時間や有給取得を守っているかどうかを把握することが必要です。労働時間や有給取得の有無を把握することにより、従業員の長時間労働や過重労働を防止することができます。
管理職が労働時間を管理し、長時間労働や過重労働を防止することは、従業員の心身のリフレッシュに効果的であり、仕事への意欲や労働生産性の向上にも繋がります。
業務状況を把握する
従業員が労働時間を短縮化し、有給を取得しやすくするためには、各従業員の業務状況を把握することも重要です。各従業員の業務状況を把握することで、万が一問題を抱えている場合にもスムーズにサポートや対策を取ることが可能になり、仕事時間の短縮に繋がります。
管理職の業務量は増加している?
働き方改革に伴い、管理職の業務量が増加しています。でも、働き方改革が進んでいる企業では、「管理職の業務量が増加している」と答えた管理職が62%という結果が出ています。対して働き方改革が進んでいない会社では、同じ回答をした管理職は48%程度に留まりました。
業務量増加はさまざまな問題を誘発
管理職への負担が増加すると、業務量の増加以外にもさまざまな問題が発生しやすくなります。例えば以下のような問題があります。
・残業の増加
・仕事の意欲の低下
・転職希望者の増加
・学びの時間が確保できない
・時間不足により、付加価値を生む業務ができない
管理職へのしわ寄せを解消するための方法とは?
実際に管理職の負担が増加している現状を踏まえ、企業には管理職の負担を減らすための対策が求められます。具体的な対策には以下のものがあります。
課題を洗い出す
業務量の負担を軽減するためには、まず、現在の業務における問題点を洗い出すことが重要です。なお、管理職自身の業務だけでなく、他の従業員の業務状況も鑑みながら、個人ではなく組織全体で負担軽減に取り組む必要があります。
業務の効率化を実施する
職場全体で業務負担軽減に取り組むためには、業務の効率化を図る必要があります。目先の仕事をがむしゃらにこなすのではなく、常に「効率よく仕事をするにはどうすればよいか」を意識してみましょう。
個々が「効率」を意識することで、自然と作業スピードが上がります。個々の作業効率の向上は、職場全体の効率アップに繋がり、管理職の負担を分散させることができます。具体的な効率アップの方法には、主に以下の2つの方法があります。
マニュアルの作成・活用
属人的な業務が多い職場では、特定の人物がいなければ業務を完遂することができないため、職場全体の作業効率が低下します。これを解消するために、誰もが全ての業務を行える環境づくりが必要です。たとえば業務手順を示したマニュアルの作成や活用により、特定の人しかできなかった業務を「誰でも遂行できる」業務に変えることができ、職場全体の作業効率化を図ることができます。
ICTツール導入による業務の自動化
定型的な仕事を機械に任せて自動化する「RPA」の導入により、一部の業務にかかる手間や時間を短縮することができます。たとえばでは、各種手続きで不備がある場合の本人の意思確認の書類発送業務をRPA化することにより、年間85時間かかっていた業務時間を14時間に短縮することに成功しました。
アウトソーシングを活用する
業務量負担が多い場合には、アウトソーシングを利用するのも1つの方法です。一部の業務を外部に委託することにより、費用は掛かるものの、大幅な作業効率アップを見込むことが可能です。
管理職の負担を減らし、さらなる働き方改革を実現しよう
働き方改革では労働時間の上限規制や有給取得の義務付けが行われましたが、単に数値だけを達成しようとすると、かえって働き方に無理が生じてしまいます。労働に関する負担の増加は、働き方改革の目的である「より良い将来の展望を持てるようにすること」の達成に繋がりません。
特に働き方改革では、管理職に大きな負担がかかります。働き方改革の本来の目的を達成するためにも、管理職の負担の増加について会社全体で理解し、負担軽減に向けた課題の洗い出しや作業効率化に取り組んでいきましょう。
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