2021.02.05 (Fri)

いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第2回)

働き方改革とは?内容やメリット・デメリットを解説

 「働き方改革」とは、労働者個々の状況に応じた働きやすい環境・社会をつくるための取り組みのことをいいます。現在日本では、少子高齢化による労働力の減少や、女性の就業率の増加などに伴い、働き方に多様性や柔軟性が求められています。これに対応するために、2019年4月に働き方改革関連法案が順次施行され、厚生労働省が主体となって働き方改革を推進しています。当記事では、そんな働き方改革の内容について、概要・目的・メリット・デメリットなど、いくつかのポイントに分けてわかりやすく解説します。

働き方改革とは?内容や目的のほか、施行に至った背景も併せて解説

 2019年4月、働き方改革関連法案が順次施行されました。

 まず、働き方改革とは何なのかを簡単に説明するとともに、その意義や施行に至った経緯、目的について解説します。

働き方改革の概要とは?

 働き方改革とは、従業員個々の状況に応じた働きやすい環境・社会をつくるための取り組みのことです。

 従業員がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現するため、長時間労働の是正、副業や兼業の推進など多様で柔軟な働き方の実現、正規・非正規雇用者において待遇差が生じないようするなど、従業員を守るための法案ともいえるでしょう。

働き方改革施行に至った社会的背景とは?

 近年日本では、少子高齢化により、生産年齢人口が現象の一歩を辿っているのに加えて、要介護者も増えています。従って、多くの従業員にとって仕事と介護を両立できる環境が必要となってきています。女性の就業率の増加も進み、男女問わず仕事と育児を両立できる環境も必要となっています。

 このような労働力の低下は、日本経済を縮小化する原因となり、ひいては国民の生活水準の低下につながりかねません。そのような問題を打破するためにも、働き方改革関連法案が施行されることになりました。

働き方改革の目的とは?

 日本政府は「一億総活躍社会の実現」をスローガンに「働き方改革」を推進しています。前項で解説した労働環境の改善を図り、高齢者、若者、女性、男性、障害や難病を抱えている方など、誰もが生きがいや精神的な充実感を感じながら活躍できる社会、すなわち「一億総活躍社会」を実現することを掲げています。

 「一億総活躍社会の実現」を達成するための、労働者が働きやすい環境づくりや労働生産性の向上促進のための施策が「働き方改革関連法案」です。次項より、働き方改革の詳細について解説します。

働き方改革の詳細

 働き方改革推進の大きなポイントとして、「長時間労働の抑止」、「正規・非正規の不合理な待遇差の改善」、「多様な人材の活躍促進」の3点が挙げられます。それぞれが、「従業員が働きやすい環境づくり」や「労働生産性の向上」を実現するための新しいルールであり、達成すべき重要な目的でもあります。

 各項目に関する用語のわかりやすい解説も含めて、その本質に迫っていきます。

長時間労働の抑止

 従業員の精神的な豊かさや健康を阻む大きな障害と言えるのが、長時間労働でしょう。

 働き方改革では、長時間労働の抑止のために「36(サブロク)協定」を見直し、労働環境の改善を促進しています。

 ここでは、「36協定」の概要、働き方改革により何が見直されたかについて解説します。

36協定とは

 「36協定」とは、従業員が時間外労働および休日労働をするために必要な協定のことです。労働時間は原則、1日8時間以内、かつ週40時間以内に制限(法定労働時間)されていますが、「36協定」を結ぶことにより、月45時間、年360時間までの時間外労働が認められます。

 さらに、臨時的な特別な事情がある場合には、「特別条項付き36協定」を結ぶことで労働時間を延ばすことが可能です。

働き方改革による36協定の見直し

 労働時間の制限を目的とした「36協定」ですが、上述の通り、以前は「特別条項付き36協定」に労働時間の上限がありませんでした。結果として過重労働が発生し、過労死が社会問題となりました。加えて長時間労働は、育児による負担やキャリアの中断といった側面から、女性の出産率の低下にも悪影響を与えると考えられています。

 働き方改革では、「36協定」の「特別条項」にメスを入れることにより、月100時間(休日労働を含む)、2〜6カ月の複数月の平均で80時間(休日労働を含む)、年720時間を超えないように制限が設けられたのです。

正規・非正規の不合理な待遇差の改善

 2019年に総務省が実施した「労働力調査」によると、2019年1〜3月期の非正規雇用労働者の比率は38.5%となっています。約4割も占める非正規雇用労働者は、大きな労働力であるにもかかわらず、その生産性を十分に発揮できずにいます。その原因となるのが、正規雇用労働者との待遇差です。

 ここでは、正規・非正規の待遇差の実態と、働き方改革でどのような取り組みが行われているのかについて説明します。

正規・非正規の待遇差の実態

 厚生労働省が実施した「賃金構造基本統計調査」によると、2018年の非正規雇用労働者の時給は、正規雇用労働者の64.4%でしかありません。欧州では80〜90%の水準であるため、日本における正規・非正規の社会的格差が大きな問題であることは明らかです。

 待遇差はそのまま生活水準の差を表しており、経済的に豊かでないと、従業員は充実感や幸福感を感じることも減少します。そのため正規・非正規の待遇差は、仕事へのモチベーションの低下といった側面から、非正規雇用労働者の生産性にも大きく影響します。

待遇差改善のための施策

 働き方改革では、「どのような雇用形態を選択しても、待遇に納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を『選択できる』ようにする」ことを目的として、以下の取り組みを実施しています。

 ・正規・非正規間で賃金などのあらゆる待遇について、不合理な格差を設けることを禁止
 ・待遇差に関して、非正規雇用労働者への説明義務を強化
 ・非正規雇用労働者に対するキャリアアップの支援

 特に賃金に関しては、最低賃金が1,000円になることのほか、賃金水準を欧州と同程度の80%に近づけることをめざしています。

多様な人材の活躍促進

 「生産年齢人口」の減少が顕在化している現代日本において、労働力の確保が急務となっているのは先に述べた通りです。働き方改革でも、労働力確保のために以下の取り組みが実施されています。

 ・女性の雇用拡大と活躍推進、育児支援
 ・若者の活躍促進
 ・継続雇用年齢の引き上げによる高齢者の活躍促進、再就職支援、環境整備
 ・障がい者など、個人個人の状況に応じた環境整備、活躍促進
 ・外国人材(外国人留学生や、専門的技能を有する外国人材など)の受入環境の整備

働き方改革のメリットとは?

 「誰もが生きがいや精神的な充実感を感じながら活躍できる社会」をめざし、労働環境の改善や雇用の安定、労働生産性の向上のための施策に取り組むことは、企業にとっても従業員にとってもメリットがあります。ここでは、働き方改革を実施することによるメリットを、企業と従業員の2つの観点から解説します。

企業にとっての働き方改革のメリットとは

 働き方改革が推進されることにより、企業が享受できるメリットについて解説します。

労働時間短縮による労働生産性の向上や、人件費の削減

 労働時間の上限が設定されることで、決められた労働時間内に業務を完遂させる必要が生じます。そのため、集中力が上がったり能動的に効率化に努めたりするなど、従業員の業務に対する姿勢の改善や生産性の向上が見込めるでしょう。1人ひとりの生産性が上がることにより、人件費も削減することができます。

待遇が改善されることによる、非正規雇用労働者のモチベーションの向上

 賃金などの待遇が改善されることで、非正規雇用の従業員のモチベーションやエンゲージメント(企業組織や同僚への愛着・信頼感)が高まることが見込まれます。これらの向上は仕事の能率の向上につながるので、結果的に企業にとっての利益となるでしょう。エンゲージメントが高まることで従業員の定着率を上げることにも繋がります。

従業員にとっての働き方改革のメリットとは

 働き方改革が施行されることにより、従業員が享受できるメリットについて解説します。

労働時間短縮によるワークライフバランスの実現

 ワークライフバランスとは、生活が充実し、心身の健康状態が保たれることで、仕事にも良い影響をもたらし、それがまた生活を充実させるという好循環のことです。

 働き方改革により労働時間が短縮されれば、その分プライベートに割く時間が増え、生活を充実させることができるでしょう。巡り巡って仕事の生産性の向上につながります。

待遇の改善による生活の充実化と、キャリアアップの支援による市場価値の向上(非正規雇用の従業員)

 非正規雇用の従業員は、低賃金により生活水準が低くなってしまっているのが現状です。しかし賃金が上がれば生活に余裕ができ、経済的にも精神的にも安定するでしょう。さらにキャリアアップの支援を受けることができれば、自らの市場価値を高めることも可能となります。ワークライフバランスの実現にも近づくでしょう。

働き方改革のデメリットとは?

 働き方改革のメリットについて紹介しましたが、一方でデメリットも存在します。

 ここでも、企業と従業員の2つの観点から、働き方改革を実施することによるデメリットを解説します。

企業にとっての働き方改革のデメリットとは

 働き方改革が推進されることにより、企業側の問題点について解説します。

労働時間短縮によって、スケジュール通りに業務完遂できない可能性が生じる

 働き方改革では、労働時間は短縮するものの業務量が減るわけではありません

 つまり、業務完了の時期が遅くなることで、企業の利益が減少するリスクが生じるのです。

 従業員の労働生産性を高めるために教育研修を実施する場合もあり、その分のコストも発生する可能性があります。

人件費の増加

 正規・非正規の待遇差を改善するため、非正規雇用の賃金を上げる必要が生じます。非正規の従業員を雇用している企業は、その数が多ければ多いほど、人件費の増加を免れません。労働時間短縮による生産性低下の対策として、さらなる人員を採用する必要に迫られる可能性もあります。

従業員にとっての働き方改革のデメリットとは

 働き方改革が施行されることにより、従業員側の問題点について解説します。

労働時間短縮によって業務完了が遅れ、負担が生じる

 企業にとってのデメリットでも触れましたが、労働時間は短縮しても、業務量が減ることはありません。必然的に、業務の効率化や生産性の向上が求められ、その分従業員の負担も増します。仕事によっては、スケジュールを遅らせることができないケースもあるでしょう。そのような場合、仕事ができる人員や上司、管理職にしわ寄せがいき、負担が増すことが考えられます。昼休みや終業後に業務に着手しようとする従業員が出てくる可能性もあります。

時間外労働の制限による給料の減少

 企業や役職にもよりますが、以前は働いた分だけ残業代が支給されていました。残業代は割増賃金として支払われるため、それにより高収入を得ていた従業員も少なくないでしょう。しかしそのような人は、働き方改革によって残業時間に制限が設けられた結果、給料が減り、生活資金を見直さなければならなくなる可能性があります

働き方改革の概要や目的、メリット・デメリットを把握し、適切な対応を進めましょう

 働き方改革は、労働環境や待遇を是正することによって、従業員の経済的・精神的充実感を高め、労働生産性を向上させることを目的としています。その取り組みは、大企業だけでなく中小企業にも適用され、それぞれの企業が自社の状況に合わせて対応を進めていく必要があります。

 働き方改革には、メリットだけではなくデメリットもあるということを理解しなくてはなりません。例えば、時間外労働の制限は、人件費の削減や従業員の精神的満足度を高めるだけでなく、スケジュール通りに業務が終わらないといった問題が発生する可能性を秘めています。

 政府がめざす「一億総活躍社会の実現」を達成するためには、企業・従業員ともにしっかり背景を理解する必要があります。

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