2024.12.20 (Fri)
いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第23回)
有給休暇の取得率向上には、さらなる休みが有効!?「特別休暇」のすすめ
年次有給休暇の年5日取得が義務付けられたこともあり、年次有給休暇の取得率は年々向上しています。中には企業が独自に付与する法定外の休暇「特別休暇」を採り入れる企業も登場しています。ユニークな特別休暇を導入した企業の事例を紹介します。
病気やけが、急な用事の備えで有給休暇を消化しない労働者が多い
日本国内の全ての企業では、労働者に対し、1年間に5日の年次有給休暇を取得させることが労働基準法により義務付けられています。厚生労働省が公表する「令和5年就労条件総合調査」によると、労働者1人あたりの年次有給休暇取得率は年々上昇しており、2023年調査(2022年の状況)では62.1%と、前年調査の58.3%より3.8ポイント増加しています。
その一方で、年次有給休暇の取得を抑えている労働者も多いようです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2024年2月に公開した「『仕事と生活の調和』の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査」によると、年次有給休暇を80%以上取得したいと考えて“いない”労働者は調査全体の約6割に及んでおり、その理由については、「病気やけがに備えるため」「急な用事に備えるため」という回答が上位に挙がりました。介護休業や育児休業といった法律で定められた法定休暇もあるものの、それだけではカバーできない実情があるようです。
年次有給休暇の取得を促進するための支援策として厚生労働省が提示しているのが、法定外休暇である「特別休暇」(特別な休暇制度)の導入です。
厚生労働省は特別休暇について、特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度のことを指し、就業規則により会社が任意に定めた休暇と定義しています。特別休暇を導入するメリットとして、労働者の健康保持や増進、ワークライフバランスの調和、業務へのモチベーション向上に有効であることが挙げられています。
どんな特別休暇が労働者に求められているのか?
特別休暇の設定は、特に法律で義務づけられているものではありません。設定する場合は、労使による話し合いで休暇の目的や取得形態を決めていきます。それでは、どのような特別休暇を設定するのが望ましいのでしょうか?
厚生労働省が公開している「代表的な特別な休暇制度の例」のページや「特別休暇制度パンフレット2023(令和5年度)」の資料では、特別休暇の代表的な例として、下記のような特別休暇が紹介されています。
まずは病気や怪我、更年期症状などによる体調不良といった理由により取得できる特別休暇です。年次有給休暇の残日数とは別にこうした休暇を設けることで、治療を受けながら就労する労働者の負担軽減につなげられます。
従業員の多様な活動を支援する特別休暇も挙げられています。代表例としては、「ボランティア休暇」や「ドナー休暇」といった休暇です。災害地へのボランティアや、ドナー提供への参加には、ある程度まとまった期間が必要です。特別休暇制度を整えることで、従業員の社会貢献活動への参加が促せます。
「裁判員休暇」や「犯罪被害者等のための被害回復休暇」など、予測できない事情に備えた特別休暇や、特に理由を限定しない「リフレッシュ休暇」という特別休暇を設け、労働者の心身の疲労回復を支援するケースもあるようです。
特別休暇は、有給休暇の使い果たしを懸念する従業員の“保険”になり得る
企業によってはユニークな特別休暇を設定して、労働者の多様な働き方や生活を支援する事例も登場しています。
まずはSCSKの事例です。同社では、年次有給休暇取得促進のための施策として、「バックアップ休暇」という有給の特別休暇を導入しています。バックアップ休暇は、年次有給休暇を使い切ったあとに使用できる特別休暇で、労働者本人や家族の病気や事故など、予期せぬ事情が生じた場合に取得可能です。
広島県内で一般・産業廃棄物の収集・運搬業務などを行うオガワエコノスでは、同社では、生理痛や不妊治療、女性特有の疾病治療など、女性従業員の健康課題を広くサポートする「1/f休暇」という有給の特別休暇制度を導入しています。
この休暇は、女性のみで構成される事務系部門の管理職に運用が一任されており、女性従業員の個人情報保護の徹底を図りながら、健康状態に応じて取得事由を柔軟に判断しています。加えて、「女性の健康課題のための休暇」として制度化することで、周囲の従業員から取得事由が分かりにくくなるようにしています。これにより、周囲には言いづらいデリケートな健康課題があっても、気軽に特別休暇を取得できるようになり、女性従業員からは「安心して働ける」という感想も寄せられているようです。
こうした特別休暇の導入が一つのきっかけとなり、年次有給休暇の取得促進にも良い影響が出ています。SCSKの場合は9割以上、オガワエコノスの場合は7割以上と、高い取得率となっています。
有給休暇の取得率の高さは、企業が優秀な人材を集めるためのアピール要素のひとつです。企業としてはできれば取得を促したいところですが、もし「早々に使い果たすと、何かが起きたときに怖い」と考える従業員が多い場合は、こうした特別休暇を用意しておくことで、従業員も心おきなく有給休暇が消化でき、ワークライフバランスを考えながら快適に働き続けることが期待できます。有給休暇の“保険”として、従業員に特別休暇を提供してみてはいかがでしょうか。
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