2024.09.24 (Tue)
いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第21回)
暑い日は休んだ方が良い?生産性を高める働き方と休み方
日本には四季が存在しますが、夏から秋にかけての暑さは年々厳しさを増しています。こうした季節の変化は、時として従業員が快適に働くための妨げとなり、パフォーマンスの低下を呼び起こしますが、企業の中には、従業員が休みやすい制度を設けたり、休みが多く取れる「週休3日」制を導入している企業も多いようです。
暑さが原因で、2030年までに8,000万人相当の労働力が消失?
9月に入っても、暑い日々が続きます。暑さは働く人の体力消耗や仕事でのパフォーマンスの低下の要因となるため、企業としても無視はできません。
Job総研が行った「2023年夏の働き方実態調査」によれば、社会人の約9割が暑さによって「やる気が減少する」と回答し、さらに5割以上の人が、夏バテによる仕事への影響を経験したことがあるといいます。アフターコロナで出社回帰の傾向も強まる中、多くのオフィスワーカーが夏バテによる仕事への悪影響を感じているようです。
暑さによって悪影響を受けるのは、オフィスワーカーだけではありません。国際労働機関によれば、屋外での業務が中心の農業や建設業、熱気にさらされることの多い製造業や運輸業、観光業などでも作業効率が大幅に落ちるとされています。暑くて日中働けない人が続出し、作業効率が落ちることで、2030年までに世界の2.2%の労働時間が失われるとしています。
これをフルタイムの労働換算に換算すると8,000万人の雇用に相当します。暑さによって、世界の経済損失は全体で2兆4,000億ドルに達すると推測されます。なお、これはパリ協定で定められた気温上昇1.5度以内におさめた場合の数字であり、もし今後、気温上昇がさらに続けば、さらなる経済損失が生まれる可能性も考えられます。
金曜日は早上がり/休みにする企業も登場
暑さによる生産性の低下を防ぐためには、空調の効いた職場環境の整備が求められますが、近年では従業員の勤務時間を短縮して休暇を増やすといった形で、労働者のパフォーマンスの維持に取り組む動きが見られています。
その一つが、米国でテック業界を中心に55%の企業が導入している「サマーフライデー制度」です。
サマーフライデー制度とは、5月末から9月頭にかけての夏季期間中の毎週金曜日を全休や勤務時間の短縮とする制度です。もともと1960年代に生まれた制度ですが、コロナ禍を機にワークライフバランスの改善を求める声が高まったことで、採用する企業が増えつつあります。
例えばデータ分析会社Teradataでは、毎週金曜の終業時間を正午と定め、労働時間を短縮。午後の余暇時間は、従業員が自由にセルフケアや学びの時間に充てられるようになっています。
国内でも似たような制度として、暑さのピークを迎える8月の金曜日を中心に、5日程度の年休取得を奨励する「エコ年休」を実施している企業もあります。
鉄鋼大手の日本製鉄もその企業の1つです。日本ではとかく「周囲に迷惑がかかるから」「後で多忙になるから」といった理由で有給休暇取得をためらいがちな中、同社では当該日には会議の設定を控えることで、従業員全員が休みやすい状況をつくっているといいます。
上記の休暇制度は、特別休暇とするか年次有給休暇の消化に充てるかという点での違いはあるものの、土日の休日にプラスワン(+1)して週休3日制にするという考え方は同じです。米Monster社の調査によれば、サマーフライデーなどの休暇制度を経験した労働者のうち66%が「生産性の向上を感じた」といい、27%の人がこれらの制度がなくなったら転職を考えるという結果も出ています。
「週休3日制」を採用する企業も。減った労働時間はどう確保する?
夏季の休日制度と同様に、欧州はじめ世界各国で広がり始めているのが、通年での「週休3日制(週4日勤務制)」です。各国で行われているトライアルでは、従業員のウェルビーイング向上や離職率低下の効果が次々と実証されています。
この波を受けて日本政府も「働き方改革」の一つとして、従業員が希望すれば週に3日間休める「選択式週休3日制」の普及を推奨しており、一部の企業で導入されました。
例えば、テック大手の日本IBMが導入する「短時間勤務制度」は、もともとは企業が育児・介護休業向けに設定していたものを、全従業員が利用できるように変更。1週間に働く時間をフルタイムの6割または8割に留めることで、従業員が週休3日、もしくは週休4日で働くことが選択できるようになりました。
労働時間が短縮されるため、そのぶん給与も減額されますが、同制度を利用した従業員は、スキルアップや自己啓発のために利用しているといいます。
神奈川県の温泉旅館「陣屋」も、週休3日制を導入し、残業時間の軽減に成功した例のひとつです。同社は定休日を週3日に変更する一方で、1日の実働時間を10時間に増加し、少人数の2交代制にすることで、週休3日制を可能にしています。同時に従業員の副業も認め、柔軟に働き方を選択できる余地を広げたことで、高い従業員満足度につながっているそうです。
ここまで挙げてきたように、週休3日制は労働時間を短縮したり、逆に1日の労働時間を長くするなど、その空いた1日分の労働時間をどのように補完するのかがポイントです。たとえ週休3日制にしても、1日の労働時間が増えたり、支給される給与が減額されることで、従業員のストレスも増える恐れも十分に考えられます。
灼熱の残暑が終われば、すぐに凍えるような寒い冬がやってきます。従業員が暑さや寒さなどの外的環境の悪影響を受けないよう、企業が従業員に対し快適に働ける環境を用意することは、季節を問わず高い成果を出すという観点で非常に重要な要素といえるでしょう。
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