製造業において、ものづくりの納期・コスト・品質を改善するためには、適切な生産管理が欠かせません。とくに生産工程が長い製品を製造する場合、業務を把握して適切な対策を行いやすくするためにも、工程を正しく可視化できる仕組みが求められます。今回は業務負荷を増やさず、生産工程を効率的に可視化するためのソリューションを紹介します。
製造企業の生き残りを左右する生産管理
すべての製造業における共通課題は、「いかに適切な納期・コスト・品質で製品を顧客に届けられるか」です。その根幹を担うのが「生産管理」です。企業によって生産管理のあり方は異なりますが、生産工程の最適化や効率化は多くの企業が日々改善に取り組んでいるでしょう。
生産工程を含め生産管理の最適化は多くの企業で喫緊の課題です。その背景にあるのが、人材不足です。経済産業省の「2022年版ものづくり白書」によると、「63.5%の企業が指導する人材が不足している」「51.6%の企業が人材育成を行う時間がない」というように、人材確保に何らかの課題を抱えていることがわかっています。限られた人材の中で高い生産性を発揮するには、製造プロセスの中にある無駄を省くことが重要です。
もっとも、生産業務を効率化するには、業務のボトルネックを特定して改善点を明らかにしなければなりません。そこで、求められる対策のひとつが「製造工程の見える化(可視化)」です。
経済産業省がまとめた「製造業DX取組事例集」の中でも、デジタル化やシステム化によって製造工程の見える化を実現した事例が多数紹介されています。
例えば、株式会社今野製作所が活用する「プロセス参照モデル」では、自社の業務プロセスやエンジニアリングプロセスを分析し、複雑化したプロセス全体をフロー図にすることで、改善ポイントが明確になりました。
多くの製造業が導入している生産管理システムの中には、プロセスを可視化する機能を搭載しているものもあります。しかし、その範囲は一部にとどまっているものが多く、細かい製造工程や仕掛中の製品の状態を細かい粒度で把握できない、といった課題に悩む企業もあります。
さらに、たとえ業務プロセスを可視化できたとしても、誰がどの工程で、どれだけロスをしているのかというところまで詳細に把握することは簡単ではありません。これでは、問題点に対するピンポイントな業務改善の施策を適切に講じることはできません。業務プロセスを改善し、生産管理を最適化するには「データの可視化」が必要となってきます。
生産管理に欠かせないデータの可視化
総務省の調査が示すように、今後のデータ活用に関して「データの量を増やしたい」という製造業の企業は約3割に、「データの質を向上させたい」という企業は約5割に上ります。
生産工程、業務プロセスがデータとしてシステム上に可視化できれば、特定の担当者でなくても業務を把握しやすくなり、ひいては業務の属人化防止にも役立ちます。ただし、そうした情報をシステムが提示できるということは、何らかの形でデータがシステムに入力されなければなりません。
データの入力には、データの粒度や運用の負荷を考慮する、つまりデータの「質」と「量」を考える必要が生じます。細かい粒度で業務を管理しようとすれば、管理者の利便性は向上するかもしれませんが、細かいデータが大量に必要になるため、入力負荷が増えることになります。
集まったデータに質が伴わなければ、生産性の向上につながらず、プロジェクトが頓挫するケースもあります。適切にデータを収集して、業務プロセスの効率化にまでいかに落とし込めるかが大きな課題だといえるでしょう。
生産工程を可視化するための技術やソリューション
生産工程の可視化は、人に負荷をかけずにデータを収集して行う方法があります。全工程の自動化は難しくとも、ある工程に適した技術を取り入れることができれば、作業効率改善につながるでしょう。その具体的な方法が以下のものです。
RFIDゲートを使った生産状況の把握
RFID(Radio Frequency IDentification)は、データが書き込まれたRFIDタグとワイヤレス通信し、データの読み取りや書き換えを可能にする技術です。一定範囲内の複数データを一括で読み取れるのが特徴です。
RFIDタグを商品に取り付けることで、商品の工場内での位置情報を記録し、現在の生産状況を把握できます。また、各工程の始まりと終わりに、RFIDタグの情報を読み取るゲートを設置すれば、それぞれの工程に商品がどれくらい存在するかが把握しやすくなります。各数値と生産計画を照合すれば、リアルタイムで製造の進捗を確認でき、在庫管理や作業進捗管理を効率化できます。
RFIDのメリットは多いですが、導入コストが発生する点に配慮する必要があります。RFIDタグの1個当たりの単価は小さくても、商品情報を管理するためには、大量のタグを用意しなければなりません。また、情報を読み取る機器、通信環境を含めた情報システムなども必要になるため、一定の初期投資が必要となるでしょう。
バーコード・QRコード/ハンディターミナルを活用した生産状況の把握
生産状況を把握する上で、手作業によるカウントではミスが発生しやすくなります。また、各数値を紙に記入する方法では、転記の手間がかかり、情報の更新にも時間がかかるでしょう。
そこで、商品にバーコードやQRコードを貼り付け、専用のハンディターミナルで読み込むという方法が考えられます。これにより、生産状況をリアルタイムに把握できるようになります。もちろんこれも、端末そのもの費用やシステム設計のコストなどが少なからず発生します。
OCRカメラを使った生産状況把握方法
OCRは画像から文字を認識して読み取る技術です。OCR対応のカメラを利用して製品に記載されている文字を読み取り、システムへの自動入力を実現します。商品に書かれている文字を人が目視で認識し、データ入力するといった負担軽減に役立ちます。
OCRは以前から存在する技術ですが、近年では文字の認識技術にAIを活用したAI-OCRというソリューションも増えており、文字認識精度や対応範囲が広がっています。
しかし、文字認識の精度には限界があるので、自社に適用できるかどうかはよく検証してから導入する必要があります。
このようなソリューションを導入することで、紙への記入やシステムへの入力など現場の作業者の負荷を削減し、物品の状態やロケーション、作業の進捗などの情報を可視化できます。リアルタイムに工程のデータを活用できれば、業務改善に向けた施策も講じやすくなり、生産管理の最適化が期待できます。
なお、いずれの方法でも安定的なデータ通信のためには適切なネットワーク環境の整備が重要になります。無線環境の整備を含めた設備投資も必要になりますが、正確な工程進捗の方法として検討してみる価値はあるのではないでしょうか。
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