ICTで業務を効率化(第13回)

在宅勤務は情報漏えいと紙一重!?正しい環境づくりを

posted by 久保 靖資

 働き方改革の推進により、在宅勤務を推進する企業が増えつつあります。そこで注意したいのが、社員の自宅でのネットワーク環境です。自宅から会社のサーバにある重要データへアクセスする場合などは、セキュアなネットワーク環境が整っていないと情報漏えいなどの不安を拭えません。在宅勤務で、セキュアなネットワーク環境を実現する方法の1つとしてVPNを紹介します。

働き方改革で、ネットワークのセキュリティも変化

 少子高齢化が進む日本において、労働力人口の減少をいかに食い止めるかが大きな課題として取り上げられたのは、2016年のことです。同年、安倍首相は「働き方改革実現推進室」を設置して、働き方改革の推進を開始しました。働き方改革とは「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みの1つで、女性や高齢者も含めた労働者視点で新たな働き方を創り出すことにより、将来の労働力不足を解消しようという試みです。

 すでに多くの企業がこの理念を共有し、新しい働き方を実現する施策づくりに取り組んでいます。中でも長時間労働の解消は、働き方改革の柱の1つ。その解決策として、よりストレスの少ない労働環境の整備として実践され始めているのが「在宅勤務制度」です。出社には、生産性に寄与しないのに、大きなストレスがかかる「通勤」が必要です。出社の必要がなければ通勤はなくなり、身体的・精神的に快適な状態で働けるようになります。また在宅勤務制度なら、主婦や高齢者、障がいを有する人などにも活躍の場が開けると考えられています。

 それを裏付けるように、トヨタ自動車をはじめとして、さまざまな企業がこの在宅勤務制度を実施し始めており、今後の拡がりも期待されています。

 在宅勤務を実現するには、「情報セキュリティ」への取り組みが企業にとっての課題となります。

 インターネット社会となり、企業内からの情報漏えいが社会的問題となって久しく、数年前までは端末や外部メモリなどで社外への情報データの持ち出しを禁ずる傾向が強くありました。

 しかし、近年はモバイル端末の高機能化、有効性の向上により、社員の私物スマートフォンなどを社内外で利用するBYODの実施も止むなしとされる傾向にあります。また、在宅勤務の実施においては、企業内に保管された情報データに対して自宅からアクセスすることも必然的に発生します。

 在宅勤務には、自宅から企業内情報データへアクセスした際に、セキュリティを確保したネットワークが必要となります。その対策の1つがVPNになります。

在宅勤務者も安全にアクセスできるVPN

 VPNは、Virtual Private Networkの略称です。日本語にすれば「仮想敵なプライベートネットワーク」となります。

 企業内や家庭内といった、インターネット回線などの外部から閉じられた空間で利用されるローカルネットワークは、オープンなものではありません。閉じられたネットワークであるゆえに、ネットワークを介してやり取りされる情報データのセキュリティが確保できます。

 VPNは、この閉じられたネットワークをインターネット回線上で仮想的に実現させる技術の1つです。この「インターネット回線を通じて」利用できる点がVPNの大きなメリットです。今まで、より高度な情報セキュリティを確保するためには、外部を遮断するために高額な費用のかかる専用回線を敷設する必要がありました。対してVPNは、すでに敷設されているインターネット回線をそのまま利用できるため、費用負担が少ないのも特徴です。

 在宅勤務でもVPNの利用は可能となっています。すでに家庭にインターネット回線を導入していれば、端末に専用のソフトウェアをインストールするなどでVPNを利用できるようになります。

 VPNを利用すれば、自宅のパソコンから遠く離れた企業内LAN(ローカルネットワーク)にアクセスすることが可能になります。情報データを閲覧するだけでなく、データの更新も可能なので、会社内のパソコンで行っている作業が自宅でも問題なく行えるのです。

在宅勤務だけでなく、企業拠点の拡張にも

 VPNは、基本的にインターネット回線を利用してローカルネットワーク同士を接続するものですが、その手法としては大きく2種類があります。1つは「インターネットVPN」と呼ばれる、複数の通信事業者や回線を利用して接続されるものです。2つ目は「IP-VPN」と呼ばれ、特定の通信回線事業者が有しているIP(Internet Protocol)ベースの閉じられた回線域網によって接続されるものになります。IP-VPNのほうが回線費用は高くなりますが、閉域網であるがゆえにセキュリティ性能は高まります。ただし、インターネットVPNも、仮想化する技術でデータ通信自体を暗号化するため、一定の情報セキュリティは確保されています。

 セキュアなネットワークをVPNで実現するには、ベンダーが提供しているVPNサービスを利用しなければなりません。サービスによって内容や利用金額に違いがあり、自社のネットワーク環境や利用状況などを考慮することも重要です。さらに、スマートフォンを始めとしたモバイルデバイスでも利用可能かという点も選定のポイントになるでしょう。

 VPNはローカルネットワーク同士を繋ぐ際に、セキュリティを確保できるネットワーク環境を実現するサービスの1つになります。また在宅勤務だけではなく、企業が有する支店や工場といった拠点同士の情報共有にも有効な技術です。

 専用回線ほど高額な費用をかけずに、情報セキュリティを確保するVPNなら拠点間同士で、顧客情報管理などといった個人情報をともなう業務への利用も検討できます。VPNは在宅勤務のネットワーク環境をセキュアにするだけでなく、さまざまな分野でも検討してみる価値のある回線サービスといえるでしょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年2月15日)のものです。

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久保 靖資

久保 靖資

IT系出版社にて編集業務、ゲームメーカーにてゲームディレクション業務に携わった後、エディトリアル・ウェブデザイナーとして独立。現在、コンテンツ企画から制作・運用までワンストップサービスを提供する株式会社エクスパに参加し、主にウェブコンテンツ開発・運用・コンサル等に従事。個人事業として、IT情報関連の著作、編集業務も行う。東京グラフィックデザイナーズクラブ“TGC”会員。

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