「経理業務」は、バックオフィス業務の中で最も知識と経験が求められる分野です。専任の経理担当者がいない会社では、つい後回しにしてしまい、期末の決算、税の申告時に慌てて記帳作業を進めるといったことも珍しくないかもしれません。ですが、日々の記帳や決算書の作成をおろそかにすると、銀行から融資を受けにくくなるなどのデメリットを被る恐れがあります。
そんな時は、ICTを活用することで、経理業務を効率化することが重要です。うまくいけば、銀行の評価を回復し、融資を受ける可能性をアップすることができます。
経験の浅い社員でも経理業務ができる仕組み
銀行の融資を受けるためには、財務の健全性が重要なポイントです。そしてその健全性を証明するためには、正確な記帳を行うことが欠かせません。銀行は、貸したお金がちゃんと返されるか、返す能力があるか、記帳を元に判断するからです。
記帳を行うにあたり、これまでの経理業務では、領収書や受発注書をもとにデータを手入力する作業が一般的でした。ところが、ICTの発達により、あらゆる作業の自動化が実現しつつあります。
たとえば株式会社TKCでは、同社の代表的な経理ソフトである「TKC財務会計システム(FXシリーズ)」の機能を強化して、銀行や信販会社の取引データをインターネットを通じて自動受信できるようにしました。同社では仕訳(勘定科目のふるい分け)の4割は「銀行取引に由来するもの」としています。つまり、同サービスのデータの自動受信機能を利用することで、経理業務の大幅な効率化が期待できます。
さらに、仕訳計上時にはユーザー自身で補正した内容がシステムに学習される仕組みになっています。そのため、以降の作業時には、読み込んだ取引データと学習内容を照合して、仕訳項目を提示するサポート機能が働くようになります。つまり、最初にベテラン経理担当者や税理士が作業を行いシステムに学習させてしまえば、後から経験の浅い社員が担当することになっても、簡単に経理業務ができるようになるのです。
銀行側もICTとの連携を強めている
経理業務にICTを導入することのメリットは、期末の決算作業や税の申告をスムーズにすることだけにとどまりません。先ほど紹介したTKCのサービスのように、常に最新の情報が反映されることによって、精度の高い月次試算表や資金繰り表の作成も可能となるのです。こうした情報は、銀行が財務の健全性を確認する際に利用するため、銀行との融資交渉の中で大きな武器となり得ます。
銀行側でも、ICTを活用した経理ソフトの提供元との業務提携を進めています。たとえば広島銀行では、2016年6月、融資先の試算表等をタイムリーに入手し、経営の状況をリアルタイムで把握できるようにするために、TKCとの業務提携を発表しました。
また横浜銀行では、税理士向けのクラウド型会計システムを提供するアカウンティング・サース・ジャパン株式会社と提携し、日々の銀行口座やクレジットカードの取引データをもとに融資審査を行うプログラム開発を進めています。
こういった銀行側の動きからもわかるように、いまや決算情報は、期末の決算期にまとまっていれば良いというものではなく、その時々のリアルタイムな情報を求められるという時代になりつつあるのです。つまり、経理業務にICTを導入しておくことが、銀行への最新の決算情報のスピーディな提供につながり、更には自社の評価の向上にもつながる可能性があります。
融資を受ける際に「担保」や「保証」は必要ない?
銀行がこういった動きをとる背景には、金融庁が提唱する「担保や保証に依存しない融資」の存在があります。これは金融庁が金融機関に対して行った指示のひとつです。具体的にいえば、銀行などの金融機関に対し、必要以上に事業者の保証や担保に依存した融資をせず、あくまで自分たちの目利き能力を発揮して、融資や助言を行って企業を支援することなくことを指示するものです。つまり融資審査には、担保や保証よりも、決算情報の位置づけがますます大きくなってきているということになります。
また、2016年の銀行法改正により、FinTech(フィンテック)と呼ばれる金融と情報通信技術の融合の流れは、さらに加速しつつあります。横浜銀行のような、リアルタイムでの決算情報をもとにした融資商品の開発は、これまで以上に進んでいくものと見込まれます。
これからは経営者個人の信用というよりも、日々の経理業務のあり方が融資交渉の鍵を握っていくことになるでしょう。決算情報重視にシフトしつつある銀行の融資審査に対応していくためにも、企業側でもICTを活用し、経理業務の効率化を考えていく必要があります。これを負担増加と考えるか、銀行からの評価UPのための投資と考えるかで、会社の未来も大きく変わってくるのではないでしょうか。
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