2020年を前に、日本では大きな商機が生まれようとしています。2012年に836万人だった訪日外国人旅行者数は、2018年には3119万人に達し、同じ期間の旅行消費額も1兆846億円から4兆5189億円にまで拡大しています。日本政府は、2020年に訪日外国人旅行者数を4000万人、訪日外国人の旅行消費額を8兆円にまで拡大すべく、さまざまな施策を講じています。
目の前に迫った商機を企業がつかむには、どうすればよいのでしょうか。今回は、決済方法、働き方改革、情報セキュリティという3つのポイントについて、過去の事例や先進的な企業の取り組みを交えながら学びます。
世界各国でキャッシュレス決済はどの程度普及しているか
訪日外国人の消費意欲を取り込むうえで、鍵となるのが「キャッシュレス決済」です。日本では、店舗などでの決済方法は、昔ながらの現金決済が主流となっています。しかし、世界を見渡すと現金を持ち歩く国は減りつつあるようです。
経済産業省が公開している「キャッシュレス・ビジョン」によると、2015年時点におけるキャッシュレス決済比率は、日本が18.4%となっています。対して、最も比率の高い韓国が89.1%。次いで中国60%、カナダ55.4%、イギリス54.9%、オーストラリア51%と続きます。つまり多くの国々は、キャッシュレス決済へと舵をきっているのです。
なかでも中国は、2008年に北京で国際的な大イベントが開催されたのを契機に、キャッシュレス化が進みました。国が旗振り役となり、「銀聯(ぎんれん)カード」と呼ばれるキャッシュカードの導入を推進したのです。その後、中国では「QRコード決済」が普及。それによってタクシー、レストラン、電車だけでなく、個人商店や屋台まで実に幅広いシーンにおいて、スマートフォンで支払いが済むようになりました。
現金を持つ必要がなく、支払いもスピーディーにできるキャッシュレス決済。それに慣れた訪日外国人にとって、現金決済だけしかできない店舗と、キャッシュレス決裁に対応した店舗、どちらが利用しやすいのかは火を見るよりも明らかでしょう。
2020年の混乱を働き方改革推進のきっかけに
2020年には、観光客の移動時間が、通勤時間などと重ることが多くなり、交通機関に深刻な混雑が発生する可能性があります。そうした混乱を企業が避けるためには事前準備が必要ですが、それが働き方改革を推進する良いきっかけになるかもしれません。
東京都の資料によると、2020年7月24日~8月9日の期間は、約780万人の観客が首都圏に集まると予想しています。短期間に人が首都圏に集中することで、道路や公共交通機関に深刻な混雑が発生。それによって、始業や商談、打ち合わせ、納品が時間通りに進まず、業務に支障が出る恐れもあります。
そうした混乱を避けるために、東京都は、交通需要の抑制・分散・平準化を行う「交通需要マネジメント(TDM)」を推奨しています。企業に対しては、イベント会期中の夏期休暇制度やボランティア休暇制度の導入、時差出勤制度の実践などを呼び掛けています。その中で、特に注目をしたいのが「テレワーク」の導入です。
生産性の向上、ワークライフバランスといった観点から、テレワークをはじめとしたオフィスにとらわれない働き方に注目が集まっています。しかし、その有用性を認めながら、旧来のワークフローや人事評価システムが壁となって導入が進まないケースも少なくありません。
2020年の混乱は、見方によってはテレワークを推進する絶好の機会ととらえることができます。移動時間の削減を通じた生産性の向上、ワークライフバランスの実現につながれば、企業の大きなアドバンテージとなることでしょう。既に、テレワークの導入によって、従業員満足度の向上や経費削減に成功している企業もあります。
総務省の「平成28年度テレワーク先駆者百選 取組事例」によるとエフスタイルは、東京で広告の企画制作などを手掛ける編集プロダクションです。同社は、妊娠、家族の転勤などで通勤が困難となった社員が仕事を継続できるようにテレワークを導入。マイクとイヤホン、モニターを使って気軽に交流ができるテレワークシステム、資料を共有するためのクラウドシステム、業務時間を算出する勤務管理システムを活用しています。
同社は、遠方地から通勤していた社員2名がテレワークに移行することで、ひとりあたり約15万円/3カ月の通勤費が0円に、年間で120万円を節約できたといいます。また妊娠によってキャリアに悩みを抱えていた、優秀な人材を引き留めることにも成功。それが他社員のモチベーションアップにもつながりました。さらに、台風時に社員全員がテレワークを実施したところ、交通機関の運休などにかかわらず、通常と変わらず業務が遂行できたといいます。
狙われる日本企業、とるべき行動とは
QRコード決済を導入するうえでも、働き方改革を推進するうえでも欠かせないのが、情報セキュリティ対策です。
近年、国際的な大イベントの開催国がサイバー攻撃の脅威にさらされる傾向にあります。2012年にイギリスのロンドンで国際的な大イベントが開催された際には、2億件の悪意のある接続要求をブロックしました。1回のDDoS攻撃につき、1秒あたり11,000件の接続要求が確認されたといいます。
日本企業もこうしたサイバー攻撃の標的になる可能性があると考えたほうがよいでしょう。このリスクを低減するためには、不正通信の検知・遮断や、ウイルス感染時の駆除・復旧支援といった情報セキュリティ対策が大切です。さらに、重要な情報資産を信頼性の高いデータセンターに保管するといったこともポイントになります。
また、2020年に向けてサイバー攻撃の脅威が高まるなかで、国内では情報セキュリティ分野における人材不足が深刻化しはじめています。自社で十分な情報セキュリティ人材を確保できない場合には、専門的なスキルを持つ企業にアウトソーシングするのもひとつの選択肢です。
企業の情報資産を守るためには、「不正アクセスを防ぐ」「重要な企業情報・データを守る」「パソコンやスマートフォンなどの端末を守る」「社員教育」といったポイントがあります。そうしたなかから、優先度を決めて、必要に応じてアウトソーシングし、情報セキュリティを堅牢にすれば、決済方法やワークスタイルなどにおいてより一層の積極的な手が打てるようになることでしょう。
2020年に訪れる変化。それは、企業が受け身になることでリスクになる可能性もあれば、能動的に取り組むことでチャンスにもなります。ぜひ能動的にICTの整備に取り組み、来たるべき商機をその手につかみ取ってください。
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