クラウド導入はじめの一歩(第19回)

クラウド技術の基本とこれまで・これからについて

 導入に必要な機材やコストが比較的少なく済む「クラウドサービス」には、色々な機能を有したものがあります。適切に取り入れることで、利便性の向上や業務の効率化が期待できます。しかし、クラウドとはどういうもので、クラウドサービスにはどのような機能があるのでしょうか。自社に適したものを導入するには、クラウドやクラウドサービスについて知っておく必要があります。そこで、この記事では「クラウド」や「クラウドサービス」について詳しく解説していきます。

クラウドについて

 現在はさまざまなクラウドサービスが展開されており、個人から法人まで幅広いユーザーに利用されています。クラウド化した各種サービスを利用することのメリットとデメリットを解説します。

クラウドとは

 「クラウド」とは、インターネット上にあるサービスを利用できる仕組みのことです。従来のサービスはソフトウェアのインストールやインフラの整備が必要でしたが、クラウドの技術を利用すれば、インターネットに接続するだけで各種のサービスが利用できます。

 クラウドを利用したサービスでは、ユーザーはクラウドサーバーにアクセスすることでサービスを利用することができます。つまりクラウド化されたサービスの利用は、目に見えないオンライン上のサービス基盤へのアクセスが前提となっています。

 そのため、クラウド化されたサービスを快適に利用するためには、クラウドサーバーへのアクセスが担保されていなければなりません。クラウドサーバーを有効活用するためにも、ユーザーは、接続方式や必要帯域、物理的な距離による影響を考慮し、柔軟なネットワーク環境を構築する必要があります。

クラウドのメリット

 クラウドによるサービスを利用する場合には、企業は自社でサーバーの設置を行う必要がありません。ICTリソースはすべてクラウドサービスの提供会社によって調達・整備されています。このことは、主に3つのメリットをユーザーにもたらします。

 1つ目のメリットは、「初期費用を抑えられること」です。クラウドを利用すれば多額の機器の購入や管理スタッフの確保が不要であるため、ランニングコストをカットすることができます。これは、2つ目のメリットである「購入したICT機器の資産管理が不要」という点にもつながります。

 3つ目のメリットは「調達に時間がかからないこと」です。クラウドサービスを利用する場合、ユーザーは利用料金を支払えばすぐにサービスを利用開始できます。以上のように、企業がクラウドを利用することは、経済的・時間的・物理的といったさまざまな面でメリットがあります。

クラウドのデメリット

 クラウドにおける代表的なデメリットを3つ紹介します。1つ目のデメリットは、「企業にはハードウェアの管理権限がないこと」です。前項で述べたように、クラウド化されたサービスの利用にあたっては、企業はサービス提供会社が用意したICTリソースを使用します。

 ハードウェアに関するさまざまな設定やトラブル対処はサービス提供会社に責任があり、ユーザ―側の企業には権限がありません。2つ目のデメリットである「カスタマイズの自由度が低いこと」も、この仕組みに起因します。企業にはICTリソースやサービス内容に関する決定権がないため、場合によっては自社のビジネスに必要なサービスを受けられないこともあります。

 3つ目のデメリットは、「パフォーマンスが他ユーザーに左右されること」です。クラウドサービスのベンダー側は、1つのサーバーやネットワークを利用して複数のユーザーと契約していることがほとんどです。そのため、とあるユーザーが負荷の大きい作業を行うと、他のユーザーのパフォーマンスに支障が出るおそれがあります。

クラウドサービスについて

 現在はクラウド技術を使用したさまざまなサービスが展開されています。クラウドサービスの種類と、企業によく利用されているクラウドサービスについて解説します。 

クラウドサービスとは

 クラウドサービスとは、クラウド技術を利用したサービスのことです。クラウドサービスの提供会社は、自社のネットワーク上にシステムを設置します。ユーザーはそのシステムにアクセスすることで、各種のサービスを利用することができます。

 代表的なクラウドサービスには「Gmail」や「Yahoo!メール」があります。従来のウェブメールでは、メールソフトのインストールやメールサーバーの設置が必要でした。しかしクラウドサービスである「Gmail」や「Yahoo!メール」では、オンライン上でアカウント登録を行うだけで、すぐにウェブメールの利用を開始できます。

 以上のように、「オンライン上のどこかにある」メールサーバーやメールソフトを利用してウェブメールの送受信を行うのが、クラウド化されたメールサービスです。クラウドサービスには、メールサービス以外にも、文書管理システムや会計システムなど、企業がビジネスに必要とするさまざまな種類のサービスがあります。

クラウドサービスは主に4種類

 クラウドサービスは、形態別に「SaaS」「PaaS」「HaaS」「IaaS」の4種類に大きく分類できます。それぞれの特徴について解説します。

SaaS

 SaaSは「Software as a Service」の略です。SaaSとは、パッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由で利用する仕組みです。ユーザーはソフトウェアを各端末にインストールすることなく、インターネット上でサービスを受けることができます。

 ユーザーは必要な時に必要な分だけソフトウェアを利用できるのが、SaaSの特徴です。特定の端末にソフトウェアをインストールしないため、インターネットに接続さえすれば、対応端末でサービスを利用できるというメリットがあります。さらにパッケージ版と異なり、自身でバージョンアップの管理をする必要がなく、いつでも最新版のシステムを利用できるのもメリットです。

 SaaSを利用した代表的なクラウドサービスには「Gmail」や「GoogleWorkspace」のほか、各種の地図サービスや乗換案内サービスなどがあります。

PaaS

 PaaSは「Platform as a Service」の略で、SaaSで提供されるアプリケーションの開発環境を提供するサービスです。SaaSのようにパッケージされたソフトウェアではなく、プログラム開発に必要なインフラ・プラットフォームを利用できるのが特徴です。

 PaaSではアプリケーション開発に必要な環境がすべて用意されています。そのため、アプリケーション開発者は既存のシステム設計に則って作業することができ、業務を効率化できるというメリットがあります。

 PaaSを利用したサービスの多くは月額制か従量課金制をとっており、企業だけでなく個人向けにも展開されています。代表的なサービスには「Google App Engine」「Microsoft Azure」「IBM Cloud」があります。

HaaS

 HaaSは「Hardware as a Service」の略で、インターネット経由でハードウェアを利用できるサービスです。具体的には仮想サーバーをインターネット上で提供しています。仮想サーバーは、「CPU」「メモリー」「ストレージ容量」などから目的に応じて選択できます。

 自社でサーバーなどのハードウェアを用意する必要がないため、運用コストを抑えられるというメリットがあります。さらに、ネットワーク管理やデータ保存はサービス提供会社のサーバーが行うため、万が一自社が被災した場合でも、システムや保存データを担保できるというバックアップ機能もあります。

 HaaSサービスの多くは月額制です。代表的なサービスにはAmazon社の「Amazon EC2」やキヤノンS&Sの「HaaS・ホスティング」などがあります。

IaaS

 IaaSは「Infrastructure as a Service」の略です。情報システムの稼動に必要な仮想サーバーやハードディスク、ファイアウォールなどのインフラをインターネット上で提供するサービスです。SaaSやPaaSと異なり、仮想のパソコンをクラウド上で操作するイメージです。

 IaaSを利用すれば、企業は自社にとって柔軟なシステム構築できるというメリットがあります。一方、カスタマイズの自由度が高い分、利用の際にはICTやセキュリティ対策に関する専門知識を有している必要があります。さらに、開発者が負う責任範囲が広いというのも注意すべき点です。

 IaaSの代表的なサービスには「Amazon Web Service」、「Microsoft Azure」「Google Compute Engine 」などがあります。

ビジネスに活用されるクラウドサービス

 クラウドサービスとは、データやファイルをオンライン上に保存できるサービスです。保存されたファイルやデータは、アクセス権限さえあれば、誰でも閲覧・編集できます。つまりクラウドサービスとは、さまざまな情報を簡単に共有できるサービスだと言えます。

 クラウドサービスでは、保存されている情報は、日時・場所・使用端末を問わず誰でも利用可能です。この点を活かし、クラウドサービスはテレワーク推進としてもよく利用されています。たとえばクラウドサービスの導入により、従業員はオフィスに出社しなくても、自宅のパソコンからサービスにアクセスし、業務にあたることが可能になります。

 クラウドサービスの中でも、「ファイル共有サービス」はテレワークとして利用度の高いサービスです。以下では、ファイル共有サービスについて解説します。

ファイル共有サービスについて

 ファイル共有サービスは、多くの企業に利用されているクラウドサービスです。ファイル共有サービスの内容やメリット・デメリットについて解説します。

ファイル共有サービスとは

 ファイル共有サービスは「オンラインストレージサービス」あるいは「クラウドストレージサービス」とも呼ばれます。名称のとおり、オンライン上にあるストレージを利用して、データの保存を行うサービスです。

 ユーザーは、オンライン上のストレージに書類や画像などのファイルをアップロードすることで、簡単に任意の相手とデータを共有できます。クラウドストレージサービスは多くのベンダーから無償・有償を問わずさまざま展開されています。代表的なサービスにはたとえば「Googleドライブ」「DropBox」「OneDrive for Business」などがあります。

基本機能

 「ファイル共有サービス」の代表的な基本機能を5つ紹介します。1つ目は「ファイルの共有」です。クラウド上にファイルをアップロードすることで、多くのユーザーとファイルを共有することができます。

 2つ目の機能は「アカウントの一括管理」です。ファイル共有サービスはシステムにログインすることでデータを利用できます。多くのサービスにはアカウントの一括管理機能がついており、個別にアクセス権限の設定を行うことができます。

 3つ目の機能は「データのバックアップ」です。ほとんどのサービスは自動バックアップ機能を有しており、手動でバックアップする手間を省くことができます。

 4つ目の機能は「暗号化」です。クラウドストレージはネットワーク上に情報を保存するため、セキュリティに懸念を抱くユーザーも多いでしょう。しかしクラウドストレージサービスではデータを暗号化することにより、ネットワーク上でも安全に機密情報を保護しています。

 5つ目の機能は「オンライン会議やチャット機能」です。クラウドストレージサービスの中には、ファイルの保存だけでなく、テレワークに便利なチャット機能やオンライン会議機能を搭載したものも多くあります。

ファイル共有サービスのメリット

 「ファイル共有サービス」の代表的なメリットを5つ挙げます。メリットの1つ目は「時と場所を選ばずデータにアクセスできる」ことです。ファイル共有サービスによって保存されたデータは、アクセス権限を有するユーザーなら誰でも利用が可能です。

 つまり、インターネットに接続でき、かつ、システムにログインできる環境であれば、場所や日時、使用する端末を選びません。オフィスのパソコンを使用しなくとも、24時間アクセスが可能であるため、業務の効率化の面で大きなメリットがあります。

 この点は、「情報の共有が簡単である」という2つ目のメリットにもつながります。さらに、従来のメール添付での共有と異なり、大容量のファイルも一括でアップロードできる点は、ファイル共有サービスならではのメリットと言えます。

 3つ目のメリットは「自社でのサーバーの管理が必要ない」ことです。ユーザーは、サービスの提供会社が用意したサーバーを用いて、サービスを利用します。サーバーやバージョンアップ、トラブル対応はすべてベンダー側に責任があり、ユーザーはサーバー管理の負担を軽減することができます。

 4つ目のメリットは「自社でのデータのバックアップが不要」なことです。ほとんどのファイル共有サービスには自動バックアップ機能がついています。情報は自動で上書きされるため、ユーザーはいつでも最新の情報にアクセスできます。さらに、災害などによりローカル端末が故障したとしても、オンライン上のバックアップデータを取得すれば、すぐにデータやシステムの復旧ができます。

 5つ目のメリットは「ランニングコストを抑えて導入できる」ことです。前述のように、ファイル共有サービスでは、自社でのサーバーの購入や設置の必要がありません。そのため、自社でサーバーを構築して運用するオンプレミス型に比べて初期費用を安く抑えることができます。多くのサービスではストレージの容量にあわせて利用料金を設定できるため、自社に最適な料金プランを選択できる点も、コスト削減につながります。

ファイル共有サービスのデメリット

 ファイル共有サービスにはさまざまなメリットがある一方、デメリットも存在します。代表的なデメリットを3点紹介します。

 1つ目のデメリットは「パッケージ化されたサービスである」ことです。企業がサービス内容をカスタマイズすることはできないため、100%満足できるサービス内容にならないこともあります。

 2つ目のデメリットは「自社でトラブルに対処できない」ことです。前項でも述べたように、サーバーやサービスの管理はベンダー側に責任があります。ユーザー側がサービスを管理することはできないため、なんらかのトラブルが起きたときは、サービス復旧を待つ必要があります。

 3つ目のデメリットは、「人的セキュリティ対策は自社で行う必要がある」ことです。ファイル共有サービスではもちろんセキュリティ対策に万全を期していますが、基本的には、セキュリティ対策の責任はユーザー側にあります。

 ファイル共有サービスではアカウント権限を持つユーザーしかデータを利用できません。これは裏を返せば、ログイン情報を持つユーザーであれば誰でもデータを閲覧できるということです。たとえば退職者や異動者がログイン情報を有していれば、データと現在関連のない人でもアクセスが可能です。こういった社内のアカウント管理はユーザーがおこなう必要があります。アカウント管理やアクセス管理を行い、セキュリティ体制を強固にすることが求められます。

具体的なファイル共有サービスを紹介

 ファイル共有サービスは無償から有償までさまざま展開されています。無料で利用できるサービスは「DropBox」「Google Drive」「Box」などが代表的です。これらは一定のストレージ容量までは無料で利用でき、容量を超える場合には課金によって容量を増やすことができます。一方、有料サービスとして代表的なのは「MEGA」「セキュアSAMBA」「Fileforce」などです。

有料サービスと無料サービスの違いとは

 有料版と無料版のファイル共有サービスでは、容量や機能面に違いがあります。とくに一番大きく異なるのがセキュリティ面です。有料版は無料版に比べ、暗号化方法や認証システムがより複雑であり、ネットワークへのアクセス管理やアカウント権限をきめ細かく設定することもできます。

 セキュリティ対策の内容は、サービスによって異なります。そのため、企業は各サービスのセキュリティ対策や認証方法をあらかじめ吟味し、最適なサービスを選択することが重要です。

クラウドとは反対のオンプレミスについて

 ここまではクラウドの仕組みやクラウドサービスについて解説しましたが、クラウド化を進めるためにも、従来の仕組みについて把握する必要があります。クラウド型と対をなし、従来の企業で多く使用されていた仕組みが「オンプレミス型」です。クラウドと比較を進めるためにオンプレミス型のメリットやデメリットについて解説します。

オンプレミスとは

 「オンプレミス」とは、サーバーなどのハードウェアを自社で用意し、管理・運用する方法のことです。従来はこのような「自社運用」方式が当たり前であったため、特別な名称はありませんでした。しかし「クラウド」の登場により、区別が必要となったため、「オンプレミス」という名称がつけられました。

オンプレミスのメリット

 オンプレミス型は自社でインフラを構築し、運用する方式です。そのため、「自社に必要なサービスを自由にカスタマイズできる」という点や、「インフラを自社だけで占有できる」という点がメリットとして挙げられます。

オンプレミスのデメリット

 オンプレミス型のデメリットは、「自社で物理的なICTリソースを確保しなければならない」点です。たとえば機器の購入や設置にあたっては、ある程度の出費が伴います。運用を開始したあとも管理やトラブル対応は自社で責任を持たなければなりません。そのため、ICT技術に関する知識の習得や、専門スタッフの確保が課題となります。

2025年の崖解決に向け避けては通れないオンプレミス環境

 オンプレミスには自社でシステムを構築し、運用するという仕組みから「2025年の崖」という問題が発生しています。「2025年の崖」に関する問題点をさまざまな角度から解説します。

2025年の崖とは

 「2025年の崖」という名称は、経済産業省が2018年に発表したレポート「DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」内で使用されました。「2025年の崖」問題とは、簡単に言えば「多くの企業におけるデジタルトランスフォーメーション推進の遅れにより、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失の可能性がある」という問題です。

 「2025年の崖」の背景には、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存の企業システムの根強い残存があります。経済産業省はこの現状に警鐘を鳴らしており、各企業においてはデジタルトランスフォーメーション推進のためのさまざまな取り組みがニュースになっています。デジタルトランスフォーメーションについては、後程詳しく解説します。

経営面における問題

 経営面においては、構築した自社システムを大幅に変更することが課題となり、ビジネスモデルを柔軟に変更できないことにより、多くの企業がデジタル競争に負ける可能性が指摘されています。多くの企業は、基幹のICTシステムの運用や維持に多くのコストや人手を割かれており、デジタルトランスフォーメーションに投入できる人材や予算がありません。

 この根本的な構造を変えなければ、デジタルトランスフォーメーションを推し進めて新しいビジネスモデルを確立することは不可能です。ビジネスシステムにおけるICTは今後ますます高度化するにも関わらず、対応する能力がないために、多くの企業では情報流失やシステムトラブルのリスクへの備えが低くなり、競争力の低下は免れえません。

人材面における問題

 経済産業省の調査により日本では2025年までにICT人材が43万人不足することが予測されています。つまり、多くの企業がICT戦略に注力するための人材を確保できません。さらに、現在活躍中のICT人材の高齢化や退職に伴い、古いプログラミング言語への対応が難しくなります。

 ICT人材が不足するにも関わらず、基幹の企業システムにそれらが投入されれば、若い世代のICT人事が最先端の技術を学ぶ場所が奪われてしまい、デジタルトランスフォーメーションの推進がますます遅れるという悪循環も引き起こします。

技術面における問題

 既存システムは老朽化やブラックボックス化により、各システムは部門ごとに分断されています。一方、今後はますますデジタル技術活用の重要性が高まるのに比例し、各部門や領域の結びつきはより強固になります。つまり、システムが分断されたまま領域同士のつながりが強くなるという矛盾を抱えることになります。

2025年の崖とオンプレミス環境

 「2025年の崖」問題を解決し、各企業が競争力を維持・強化するためには、「デジタルトランスフォーメーション」の推進が必要です。デジタルトランスフォーメーションとは、「企業がクラウドなどの新たなデジタル技術を活用して、ビジネスモデルを変革させる取り組み」です。略してDXとも表されます。

 デジタルトランスフォーメーションの推進にあたっては、ブラックボックス化した「オンプレミス環境」が足枷となっています。この問題の解決策の1つに、「ハイブリッドクラウド」があります。以下では、「ハイブリッドクラウド」について解説します。

クラウドとオンプレミスを合わせたハイブリッドクラウド

 業務の効率化にあたり、企業の注目を集めているのが「ハイブリッドクラウド」です。ハイブリッドクラウドの仕組みやメリットについて解説します。

ハイブリッドクラウドとは

 「ハイブリッドクラウド」とは、「パブリッククラウド」と「プライベートクラウド」を組み合わせるクラウドのことです。複数のサービスを組み合わせて運用することで、それぞれのデメリットを互いに補完し合える点が最大の特徴です。

パブリッククラウドとは

 パブリッククラウドは、クラウド事業者などのベンダーが提供するクラウドサーバーのことです。同一のクラウドサーバーに複数の企業が相乗りする形で利用されるのが一般的です。自社でサーバーの設置や運用をする必要がないというメリットがあります。

 サーバーの運用がベンダーに一任されるため、トラブル発生時には、ユーザーはサーバー復旧を待つ必要があります。

 代表的なパブリッククラウドサービスには、Amazon Web ServicesやGoogle Cloud Platformなどがあります。

プライベートクラウドとは

 「プライベートクラウド」は、自社専用のクラウドサーバーで、「オンプレミス型」と「ホスティング型」の2種類があります。「オンプレミス型」はサーバーの設置からシステムの構築まで、企業がすべて自社で行い自社内のみのクラウドを構築する方式です。一方、「ホスティング型」はホスティング事業者が提供するクラウド環境内に、自社専用クラウドを構築する方式です。

 いずれの場合も、自社専用のクラウドを構築でき、カスタマイズが自由にできる点や、トラブル発生時に自社ですぐに対応できるというメリットがあります。さらにクラウドが自社内で完結しているため、セキュリティの面でも安全性が高いです。

 デメリットとしては、導入や運用にコストがかかる点があります。さらに複雑なネットワークを構築する必要であるため、利用開始までにある程度の期間を要することや、ストレージの増減に柔軟に対応できない点もデメリットです。

ハイブリッドクラウドのメリット

 ハイブリッドクラウドには主に3つのメリットがあります。

 1つ目は「カスタマイズの自由度が高い」点です。たとえば社外秘の情報はプライベートクラウドに保存し、それ以外の情報はパブリッククラウドに任せるなど、柔軟な設定が可能です。あるいは、プライベートクラウドでは難しいストレージの増量も、パブリッククラウドを組み合わせることで可能になります。

 2つ目のメリットは「負荷・リスクの分散」です。たとえば繁忙期などはパブリッククラウドへのアクセスが集中してパフォーマンスが低下しやすくなります。それぞれのクラウドを組み合わせて使うことで、負荷の分散を行うことが可能です。あるいは、不正アクセスによって1つのサーバーが攻撃されても、それぞれのサーバーに情報を分散させておけば、システムをすぐに復旧させることができます。

 3つ目のメリットは「コストパフォーマンスが高い」ことです。一般的にプライベートクラウドは運用コストが高く、パブリッククラウドは運用コストが低いです。そのため、それぞれを柔軟に組み合わせることで不要なコストをカットすることができ、結果として高いコストパフォーマンスを得ることができます。

ハイブリッドのデメリット

 ハイブリッドクラウドは、複数のサービスを組み合わせて使用します。そのため、システム構成が難しくなる点や、運用の負担が大きい点がデメリットとして挙げられます。利用する際は、パブリッククラウドとプライベートクラウドの双方に精通しておく必要があります。

ハイブリッドクラウドの組み合わせを具体的に紹介

 ハイブリッドクラウドを利用する際は、各サービスの内容をしっかり理解し、自社に最適な組み合わせを考えることが必要です。実際に利用されているハイブリッドクラウドの組み合わせ例を紹介します。

パブリッククラウドとプライベートクラウド

 代表的なのがパブリッククラウドとプライベートクラウドの組み合わせです。プライベートクラウドは機密性の高い情報を保存するのに向いており、パブリッククラウドはコストを抑えて利用する点にメリットがあります。保存するデータを柔軟に分散させることで、コストを抑えつつ自社情報を守ることができます。

パブリッククラウドと物理サーバー

 パブリッククラウドと、物理的な専用サーバーを組み合わせる方法です。物理サーバーは処理能力や機密性の高さに利点があります。高度で正確な処理が必要なデータは物理サーバーに任せ、ストレージの増減が必要なデータはパブリッククラウドに委ねることで、高い柔軟性と処理能力を備えた運用が可能となります。

パブリッククラウドとオンプレミス

 社内システムであるオンプレミスと、パブリッククラウドの組み合わせ例です。社内システムにクラウドサービスを連携させるという形態であり、クラウドサービスを自社システムの一部として運用できます。

 そのため、機密性の高い情報はオンプレミス方式で管理し、広い範囲で共有したいデータはパブリッククラウドに任せることで、高いセキュリティ体制とコストパフォーマンスを両立させることができます。

クラウド技術の歴史を知る

 現在は、クラウド技術を駆使したさまざまなサービスが展開されています。クラウド技術発展の沿革の概要を紹介します。

提唱から普及・現在に至るまで

 「クラウド」あるいは「クラウド・コンピューティング」という言葉は2006年にGoogle社のCEOによって提唱されました。これを契機としてクラウドは急速に認知度が高まり、クラウド関連技術は急速に普及していきました。それに伴い、クラウド技術を応用した製品も多数展開されていきます。

 コンピューターの歴史は、「1950~1990年頃のメインフレーム時代」「1990~2000年頃のクライアント/サーバー時代」「2000~2010年頃のウェブコンピューティング時代」、そして現在に至る「クラウド・コンピューティング時代」の4つの時代に分けることができます。

 時代が下るにつれ、コンピュータやネットワークの精度は飛躍的に向上していきました。しかしその一方で、サービスの増加により多くのサーバーが乱立する事態になりました。「クラウド・コンピューティング」は、多くのサーバーを統合し、一元的に管理することを目的に開発されたシステムです。

 クラウド・コンピューティングは、1台の物理的なサーバー内に、仮想的に複数のサーバーを立ち上げる技術です。この技術の登場により、物理的には1台分のサーバーのスペースで複数のサーバーを運用できるようになりました。現在ではクラウド技術を応用したクラウドサービスが発展を遂げ、さまざまな製品が多数のベンダーから提供されています。

自社に適したクラウドサービスを取り入れる

 クラウドサービスは、今や事業の拡大に欠かせないツールの1つです。企業はクラウドやクラウドサービスの内容について理解を深め、自社に最適なサービスを選択することで、業務に大きなメリットをもたらすことができます。あわせて、自社のネットワーク環境を定期的に見直し、時代の変化に合わせて柔軟に変化させることが、事業を安定させるうえで重要です。

※この記事は2021年3月時点の情報を元に作成しています

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