エシカル消費に向けたさまざまな取り組みが始まっている。米欧に比べその歩みは決して早くはないが、少しずつ着実に始まっている。代表例の一つがLoop Japan(横浜市)が手掛ける容器再利用システム「Loop(ループ)」の展開だろう。イオン店頭での協業開始からもうじき1年を迎える。Loop Japan代表のエリック・カワバタ氏によれば、「消費者動向の分析から分かってきたことも多い」という。そこに、先行する米国での利用者アンケートの結果も重ね合わせると、循環型ショッピング定着のヒントが見えてくる。
食品容器などプラスチックの国民一人あたりの廃棄量は、米国に次いで日本が世界2位との事実をご存じだろうか。実に、年間900万トンに及ぶと計算されている。
そんな日本市場に、循環型ショッピングシステムのLoop(ループ)が上陸して、この4月でちょうど1年が経つ。2021年5月、国内小売り最大手であるイオンとの協業がスタートした時、ループは大いに関心を集めた。循環型消費に向けた様々なトライアルから、実に色んなことが分かり始めている。
容器代はデポジット、あとで戻ってくる
まず、少しおさらいをしておきたい。関東を中心としたイオンの店頭では、ループというシステムに対応した商品の取り扱いを開始している。ループ専用の商品棚があり、普通の商品と同じように買うことができる。ただ少し違うのが、返却ボックスが設置されているところだ。
カワバタ氏によれば、「利用者は商品を買う時に、容器代もデポジット(預り金)として支払います。使い終わった容器を返却する際、発行されたQRコードのシールを容器に貼って、専用のアプリで読み込むと容器代が返金される仕組みです」。
購入できる商品はまだ限られているが、大手メーカーが参画している。ロッテのガムやプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の洗剤、エステーの消臭剤などだ。現在も多くのメーカーと追加の交渉を進めている。
リユース容器のデザイン性の高さが人気
ループで扱う商品で売れ行きがいいのはどんな商品か。そうカワバタ氏に問えば、「一つは、デザイン性がいいものです」と答えた。部屋にそのまま置いておいても、違和感のない小物みたいな容器であれば、再利用も楽しみの一つとなる。
「例えばロッテのガムの容器は、美しいステンレス製でとても人気の高い商品です。蓋の開け閉めのしやすさや、自動車のカップホルダーに収まるサイズにしたことなど、細かなこだわりをもってロッテは開発していました」とカワバタ氏は言う。
ループを使う理由、それは「便利だから」
日本に先行する米国では、興味深い調査結果がまとまっている。米国のループ利用者に対して、「なぜループを使っているのか」などを聞くアンケートを実施した。ゴミを減らしたいとか、環境に優しいライフスタイルを目指したい、といった回答が上位にくると思われた。が、答えは意外なものだった。
一番多かったのは、「便利だから」だった。使い捨てでは、結局ゴミを処理しなければならない。再利用なら、そうした手間がかからない。不便だけど少しがまんして、と思って実際に使ってみたらむしろ便利だった。
次に多かったのが、「デザイン性が高い容器が気に入った」、そして3位が「家の中のゴミが減った」という結果だった。情けは人のためならず。環境のためではなく、自分のためになることが主な理由だったのだ。
まだ開発途上のシステム
もっともカワバタ氏は日本でのループの現状に満足してはいない。「日本は廃プラスチック量こそ多いが、街にそれがあふれているわけでもないので、危機意識は高まりづらい。だからもっと、ループを使いやすく工夫する必要があるのです」。
使い勝手をよくするためカワバタ氏が取り組んでいるのが、使った容器の回収場所を増やすことだ。「使い捨てと同じような感覚で便利に使えることが目標です。どこでも買えて、どこでも返却できる。そうしたいと考えています。マンションやオフィスビル、役所や駅など、多くの人が利用しやすい場所に設置していきたいですね」。
オフィスビルで効率収集、そしてホテルで業務用も
21年2月まで東京都と取り組んだ、オフィスビルでのテイクアウト弁当に再利用の容器を使った実証実験では、容器の返却率は100%だったという。「オフィスビルなら、利用者も容器を返却するのが簡単だし、容器を集める側も効率的にできる」とビルへの関心を寄せる。1件ずつ1000カ所から容器を集めるより、1000人のオフィスビル1カ所の方が集めるのが簡単という理屈だ。
また、21年11月から22年2月末まで、ホテルやレストラン、カフェなどで使われる業務用の容器についても、東京都と実証実験を行なった。ホテルのシャンプーなどの容器だ。「ヘアケア用品や洗剤などで、再利用の容器で循環できるか試してみました。利用者アンケートからニーズを把握し、その実現可能性を模索中です」とカワバタ氏は説明する。
コストを抑えて中小企業も参加しやすく
21年8月には、自社でEC(電子商取引)サイトを立ち上げて、こちらでも実証実験を進めている。「ゼロ・ウェイスト」をうたったサイトで、捨てるという概念を捨てることを標榜する。
味の素、キッコーマンなど大手メーカーが参加しており、実際に商品を購入できる。オンラインでは購入時に、再利用の容器のほかに配送用トートバッグに対してもデポジットの料金を払う。このトートバッグは容器の返却時にも利用する。
「物流管理のコストが高いことや、取り扱い品目を増やしていかないと成立しないので、現在は、既存のプラットフォームとの提携を視野に入れています」とカワバタ氏は言う。リアル店舗でのイオンと同じく、ネットでも既存の通販大手と組み、その中にループコーナーを設ける形態などを考えているとみられる。
今はまだ、ループに参加する企業は大手が目立つが、中小企業も参加しやすいプラットフォームだとカワバタ氏は説明する。「共通で使える再利用の容器も用意しているので、いちから容器を開発してもらう必要はありません。今はまだエリアは限定されていますが、ゆくゆくは地方限定で販売している商品を全国展開するといった目的でも利用してもらおうと考えています」。
草の根のコミュニティーが普及のカギ
最近のエシカル消費の流れは、ループを後押しするのだろうか。カワバタ氏にそう聞けば、「様子は確実に変わってきています。日本人はそこに大きな問題があると理解すれば、みんなで解決する国民性があると思います。初めは、自分の周りの小さなコミュニティーを巻き込むことが大事になってくるでしょう」と答えた。
1990年代後半以降に生まれたZ世代を中心に、このエシカル消費への関心が高まり始めている。少し高価でも、社会や環境に配慮した商品を選ぶ消費のことを指す。
エシカル消費やごみ削減の取り組みは、徳島県の上勝町や京都府など行政サイドも力を入れる。一方、個人の関心も高まりを見せる。カワバタ氏が指摘したのは、その間に位置する、コミュニティーの重要性だ。それが循環型ショッピングの大きなピースになっていくのかもしれない。
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