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2022.04.11 (Mon)

【特集】経営力向上セミナー(第12回)

デジタルツインの活用進む建設業界のDX リモートワークで業務効率を向上へ

posted by 野中 賢 【日経BP 総合研究所 presents「経営力向上セミナー」】

 日本の労働人口は1990年代から減少し続けている。もはや増えることはないという前提で生産性を上げていくしかない。全業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、「建設業界は未だに人手に頼り過ぎている」と警鐘を鳴らすのは、建設ITワールド代表取締役で建設ITジャーナリストの家入龍太氏だ。建設業界で進むDXの実態と、国や企業が進める支援サービスなどをリポートする。

建設ITワールド
代表取締役
家入龍太氏

日経BP 総合研究所
上席研究員
野中賢

 「生産性向上の第一歩は、ムリ・ムダ・ムラを徹底的に排除することです」(家入氏)。すぐにでもムダな移動をやめ、可能な限りテレワークに切り替えるべきだ。移動時間を生産時間に変えることで、業務効率は飛躍的に高まる。

 建設業のテレワークを考える際、避けて通れないのが「デジタルツイン」だ。建設現場の状況を丸ごと3Dデータ化し、全関係者がクラウド上で共有する。クラウドの活用はテレワークを促進するだけでなく、様々な自動処理を可能にする。

 現場をデジタルツイン化するツールは、すでに身の回りにある。

現場のデジタルツイン化に役立つツール

 「360度カメラ」は一度に周囲360度の写真が撮れ、作業記録の生産性を大きく向上させる。また、「3D赤外線スキャンカメラ」は離れた場所から物体の寸法を測れる。「iPhone 12 Pro」に搭載されているカメラでも、実用可能な精度でデジタルツインを作成できる。

iPhone 12 Proに搭載された3D赤外線スキャンカメラで作成した橋脚とトーチカの3Dデータ

 業務用の高精度な3Dレーザースキャナーや、MMS(モービル・マッピング・システム)もすでに実用化されている。MMSとは、3DスキャナーやGPSを搭載した特殊な車両。時速数十キロという速度で走行しながら周囲にレーザー光を飛ばし、当たった場所の3D座標を点群データとして回収するシステムだ。

 一方、立ち合い検査をリモートワーク化するためのシステムも登場している。エコモットが開発した「遠隔臨場」がそれだ。

エコモットの「遠隔臨場」。立ち会い検査をリモートワークで可能にする

 現場の作業者に指示して必要な場所をスマートフォンで撮影してもらい、オンライン会議によって立ち合い検査を行う。検査技師は移動する必要がないため、現場を瞬時に切り替えながら1日に多数の立ち合い検査を実行できる。

 建設機械の操縦をリモートワーク化する試みも進んでいる。スマートフォンやパソコンを使って遠隔地から建設機械を操作できるシステムが実用化されている。

ARAVが開発した建設機械の遠隔操作システム

 操縦者は建設機械に搭載したカメラ映像を見ながら遠隔で操作できる。1人の操縦者が複数の建設機械を切り替え、効率的に仕事ができる。

 また、ログビルドが開発したアバターロボット「Log Kun(ログくん)」は、現場監督のリモートワーク化を実現している。

現場監督業務をリモートワーク化できるアバターロボット「Log Kun(ログくん)」

 自走式の台車の上に、カメラとタブレットを搭載。現場監督は遠隔地から「Log Kun」を操作し、現場を自由に移動して目視で確認したり、写真を撮影したり、現場の担当者と会話したりできる。これをあらゆる現場に置いておけば、1人の現場監督が複数の現場を“瞬間移動”して生産性を高めることも可能だ。

 コンクリートのひび割れ検査の自動化は、すでに人間の能力を超えている。キヤノンが開発した「インスペクション EYE for インフラ」は、幅0.05mm以上のひび割れをカメラ映像とAIで自動検出してCADデータを生成する。目視による検査では0.2mm以上のひび割れしか管理できないため、人の4倍の精度だ。720分かかっていた500本のひび割れ検査が90分で終わる。

国や企業のDX支援サービスが続々

 MMSの登場により、広大な土地のデジタルツインを高速かつ低コストで作成できるようになった。国土交通省が2021年春に公開した3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)」では、2021年4月時点で56都市を丸ごとデジタルツイン化したデータを無料で提供している。まさに国土レベルのデジタルツインだ。

国土交通省が2021年春に無料公開した3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)」


飛島建設
企画本部 新事業統括部 新事業開発 課長
科部元浩氏

 DXを支援する企業の取り組みも加速している。例えば飛島建設の「e-Sense」は、現場の技術者が小型軽量のヘッドセットを装着し、遠隔地にいる人とコミュニケーションを取りながらフリーハンドで作業を進められる。画像や動画を共有して分かりやすく作業指示を出したり、同時通訳機能を使って外国人技術者と会話したりできるほか、トラブルを防ぐドライブレコーダー機能なども実装している。

 飛島建設 企画本部 新事業統括部 新事業開発 課長の科部元浩氏は、「顔認証による入退場管理や動画による教育、ECサービスなどを組み合わせ、総合的に生産性を上げていく視点が重要です」と語る。

飛島建設が進める多機能ハンズフリーシステム「e-Sense」

 野原ホールディングスは、ゼネコンが提供するBIMデータを起点にあらゆる建設事業者をデータでつなぎ、業界全体としてのDXを支援するサービスBIM設計-生産-施工プラットフォーム「BuildApp」の構築を進めている。

野原ホールディングスのBIM設計-生産-施工プラットフォーム「BuildApp」。建設業界の様々な企業や工程をデータでつなぐ

 ゼネコンが作成したBIMデータをクラウド上で受け取り、データを必要な解像度に自動変換して見積もりや積算での利用や建設現場で使う施工図・建材を切断するための加工データなども自動的に作成、また施工管理の可視化や建物の維持管理等にも活用し、建設プロセスをデータでつなぐことで、圧倒的な時間短縮・生産性向上を実現する。

野原ホールディングス
グループCDO 兼 建設DX推進統括部 統括部長
山﨑芳治氏

 野原ホールディングス グループCDO 兼 建設DX推進統括部 統括部長の山﨑芳治氏は「専門工事会社や建材メーカーは数が多く、それらをデータでつなぐ作業はゼネコンでも困難です。我々が70年超、建材商社として培ってきたノウハウ、業界関係者をつなぐハブ機能といった強みを生かして実現します」と語る。

 NTT東日本は東日本全域で約5000台のネットワークカメラを運用し、電設工事の遠隔支援やアドバイス、遠隔朝礼による移動時間の削減、ドライブレコーダーを活用したクレーム対応、AIによる現場の安全管理などを進めている。

5000台のネットワークカメラを活用したNTT東日本のDX


東日本電信電話
ビジネスイノベーション本部
担当部長
蛭間武久氏

 自社で進めているDXの経験とノウハウを生かし、建設業界のDXを支援している。東日本電信電話 ビジネスイノベーション本部 担当部長の蛭間武久氏は「通信会社としての強みを生かし、建設業界を中心に他業界のDXとも連携させて新たな価値を創造していきたい」と話す。

 

「カイゼン」からDXへ飛躍せよ

 従来型の「カイゼン(改善)」とDXの違いについて、家入氏はいくつか興味深い指摘をしている。

従来型のカイゼンとDXの違い

 例えば、カイゼンは今のコンセプトのままで業務を効率化する試みであり、生産性が20~30%向上すれば大きな成果とされる。一方、DXは今のコンセプトをゼロベースで見直し、変革によって生産性を数倍のレベルにまで高める。また、働き手が人であることは変わらないが、デジタルツールやAIで労働者を「超人化」する。データ活用によって生産性が高まれば、労働時間ではなく付加価値で人を評価するように変化する。

 「人的リソース不足はDXによる生産性向上で乗り越えるしかありません。建設業界のみならず、あらゆる業界をデータでつなぎ、デジタルツインで最適化していけば、生産性の向上と働き方改革の両方を大きく推進できるでしょう」(家入氏)。デジタルツインとデータ連携により、新たな価値の創造が始まっている。

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野中 賢 【日経BP 総合研究所 presents「経営力向上セミナー」】

野中 賢 【日経BP 総合研究所 presents「経営力向上セミナー」】

東京工業大学大学院社会工学専攻修士課程修了後、1992年に日経BP入社。建設専門誌「日経コンストラクション」編集部に配属後、主に建設技術、インフラの維持管理、まちづくり、景観などのテーマを担当。2012年10月から日経コンストラクション編集長。2019年4月から日経BP 総合研究所 上席研究員。

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