農業とICT技術というと、最もかけ離れているように思われがちですが、近年、農作業への導入が進み、2020年には600億円市場規模になるといわれています。これは、2013年の約9倍の数値です(株式会社シード・プランニング予測)。また、政府は農業の成長産業化に向け、ICTなどの最新技術の活用を促進すると発表し、100社を超える企業から提案が上がっています。農業を衰退産業ではなく成長産業とすべく、官民一体となって協力していくのです。
具体的には、GPSを用いた農業機械の自動操縦、センサー技術による農場の自動管理などがあります。2009年の農地法改正により、株式会社でも農地を借りることができるようになり、今後ICT技術を応用した参入が増えるものと見込まれています。農業とICT技術のいまをみてみましょう。
農業のICT化で、労働を楽にする
TPP(環太平洋経済協定)の締結で、日本の農家は海外との競争にさらされ、農業は大きな転換を求められているといわれます。しかし、農業従事者の平均年齢は66歳で、高齢化が進んでおり、変革はなかなか実現しづらい状況です。また、農業は作業がたいへんで、収入が安定しないなどの理由から後継者も不足しています。これでは若い世代が農業に魅力を感じ、農業を志すことは少ないでしょう。また、高齢者が多いので、作業をいかに軽くするかは今後の農業にとって重要な課題です。
そこで考えられたのが、ICT技術とセンサーを使った作物の成長管理です。
例えばビニールハウスでは、ハウス内に設置したセンサーで温度・湿度や日射量などのデータを取得し、これらの情報をクラウドに送信・記録します。これにより農家の人はパソコンなどで、ハウス内の様子を遠隔から把握できるのです。わざわざハウスに出向く手間を省くのはもちろん、作業内容を数値化して生産工程の改善を図ることにより作業の軽減につながります。
農業は自然相手のため24時間休む暇もないといわれていますが、ICT技術を活用することで作業の自動化が進み、作業の軽減化とともに時間の融通も利くようになるでしょう。
また、GPSの位置情報を使い、トラクターなど農業機械の自動運転をする研究もされています。あらかじめ登録してある農地の形状などを元に、農業機械のハンドルや耕作装置などを自動制御。そして、無人で農地を耕し、肥料・農薬の散布まで行うのです。耕作機器の操作は複雑で、ハンドル操作など技術はもちろん、体力もいる作業ですが、自動運転によりつらい労働から解放されることでしょう。また、コンピューターに作業手順を入力しておけば、キーボードの操作だけで農作業ができるこということも夢ではありません。フルオートメーションの農業の時代がそこまで来ているともいえます。
農業経営にもICT化の技術を使う
ここまでは農作業のハード面からのICT化をみてきましたが、ソフト面での農業のICT化も進んでいます。ソフト面とは、農業経営のICT化のことで、経営分析、生産技術、販売、物流などをクラウド技術で効率化・最適化するものです。ICT技術は農業分野への応用が最も遅れているともいわれ、それゆえ今後の展開が期待されています。
農業とクラウドが結びつくことで、農作物の生産・収穫のデータに加え、収穫した農作物の流通や販売管理も可能となります。最近では収穫した農作物を農協に卸すことはせず、直売している農家も多いといいます。ICT技術を使えば、出荷業務、売上管理などPOSシステムのような管理が構築でき、農協に頼らずとも生産・販売ができるのです。
また、このデータを蓄積することで、従来、経験で伝承することが多かった農業技術のノウハウを新たに参入する企業や若い個人に伝えることができ、後継者不足の解消になると期待されています。
参入障壁が下がり、日本の農業が活性化するか?
農業のICT化で、農業技術が蓄積されれば、新規参入の障壁が低くなります。農地法の改正で多くの法人が農業分野に参入しており、ICT技術の活用で今後はさらにいろいろな分野からの新規参入者が増えることでしょう。
農家の人々はICT技術の導入に積極的です。よくよく考えてみれば、農業は気温や湿度、日照時間など多くのデータを扱う産業なのです。つまり、ICT技術とは親和性が高いといえます。いままで蓄積した経験を数値化し、ICT技術で共有することで日本の農業は一歩先に進むことができるでしょう。そしてこれこそが、TPPの脅威から日本の農業を守る方法のひとつなのです。
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