2024.12.27 (Fri)

カーボンニュートラルを実現するために(第11回)

GXを推進する新たな技術「ペロブスカイト太陽電池」とは

 太陽電池というと、重くて設置面積が限定されるイメージを持ちがちですが、最近では薄くて軽く、折り曲げられる太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の開発が進んでいます。

太陽光発電の発電電力量は、原子力発電を上回っている

 地球環境に対して負荷の少ない「再生可能エネルギー」の中で、特に発電量が多いのが「太陽光発電」です。

 経済産業省が2024年11月に発表した「エネルギー需給実績」の資料によると、2023年度の太陽光発電の発電電力量は965億kWhでした。同年度の水力発電は748億kWh、バイオマス発電は401億kWh、風力発電は105億kWhだったため、再生可能エネルギーではトップの数値であり、原子力発電の841億kWhも上回っています。

 同データによれば、2010年度における太陽光発電の発電電力量はわずか35億kWhでした。それから10年以上経った現在、発電量は27倍も伸びたことになります。

太陽光発電パネルを設置するための平地は、もう日本には残っていない!?

 太陽光発電がこのように伸長している一因に、その発電の容易さが挙げられます。

 太陽光発電は、太陽電池(太陽光パネル)に入射した光のエネルギーを電力に変換する仕組みのため、設置した後は屋外に置いておくだけで、特に人間が手を介することもなく、自動的に発電します。

 しかし、太陽電池1枚当たりの発電量には限りがあり、ある程度の電力量を生み出すためには、相応に広い土地が必要です。加えて、現在広く導入されている「シリコン系太陽電池」は、耐久性を持たせるためにガラスを使用していることからパネル自体が重く、設置場所は一戸建て住宅の屋根の上や広大な空き地などに限られ、都市部に設置されるケースはあまり見られない現状です。

 資源エネルギー庁が公開している資料によると、日本の平地面積当たりの太陽光発電設備容量は、主要国では群を抜いた1位となっており、すでに太陽電池を設置する場所が埋まりつつある状況です。今後も太陽電池の発電量を増やすに当たっては、どのように設置場所を見つけるのかが課題といえます。

主要国における、平地面積当たりの太陽光発電設備容量(資源エネルギー庁「次世代型太陽電池の早期社会実装に向けた追加的取組について」より引用)

曲がってもゆがんでも発電「ペロブスカイト太陽電池」の特徴とは

 こうしたシリコン系太陽電池の設置スペースという問題に対し、解決となりうる新技術が誕生しています。それが「ペロブスカイト太陽電池」です。

 ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン系太陽電池とは異なり、軽量でかつ柔軟であるという特徴を備えています。そのため、折り曲げやゆがみにも対応しており、さまざまな場所に設置できるというメリットがあります。

 加えて、材料をフィルムに塗布・印刷することで簡単に作成できるため、製造工程も少なく、コストを抑えた大量生産も可能といいます。

 さらに、ペロブスカイト太陽電池の原料であるヨウ素は、日本の生産量が世界シェアの約30%(世界2位)を占めているため、原料を輸入することなく、日本国内で安定して確保することが可能です。

 一方で短所としては、シリコン系太陽電池と比べると寿命が短く、耐久性が低い点、大面積化が難しい点などが挙げられます。

ペロブスカイト太陽電池は新幹線の防音壁にも設置できる

 ペロブスカイト太陽電池は現在、経済産業省が実施している「グリーンイノベーション基金」を通じ、複数の企業において技術開発が進められています。

 同太陽電池の開発を積極的に進めているのが積水化学工業です。同社が開発したペロブスカイト太陽電池は、2025年に行われる「大阪・関西万博」会場のバスターミナルに設置されることが決定しています。パネルが作り出した電気は蓄電池にチャージされ、バスターミナルの夜間照明として使用されます。報道によれば、ペロブスカイト太陽電池パネルのサイズは1枚当たり1×2m四方で、合計257枚がターミナルの屋根の上に敷き詰められるといいます。

 同社はさらに、JR東海と共同で、ペロブスカイト太陽電池を搭載した新幹線の防音壁の開発を行い、すでに試作品を作成したことを2024年12月に発表しました

 これは東海道新幹線の沿線に設置されている防音壁に、ペロブスカイト太陽電池を設置し、より広範囲で再生可能エネルギー由来の電気の生成を可能にすることを狙ったものです。新幹線の防音壁は、列車の通過による振動や風を受けますが、薄くて軽量、かつ柔軟なフィルムに対応できるペロブスカイト太陽電池であれば使用に耐えうると判断し、導入の検討を始めたといいます。防音壁には、メンテナンスの際に太陽電池のみが交換できるようガイドレールを設置しています。

 ペロブスカイト太陽電池が実用化されれば、狭い土地などこれまでは太陽光発電ができなかった場所でも発電できるようになり、太陽光発電の発電電力量はさらに伸びていくことでしょう。

 政府では2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を掲げていますが、ペロブスカイト太陽電池が普及すれば、その実現は2050年よりも前倒しされるかもしれません。

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