2023.03.30 (Thu)
カーボンニュートラルを実現するために(第4回)
どうすれば日本のEV普及率は向上するのか?
2020年10月、菅義偉首相(当時)は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しましたが、その中で「2035年までに新車販売(乗用車)で電動車100%を実現する」という目標も示されました。
電動車とは、電気で動く自動車のことです。電動車にはさまざまな種類があり、電気とガソリンを併用するハイブリッド車や、水素を動力源とする燃料電池車もありますが、中でも電気のみで動くEV(電気自動車)は、2022年には過去最高の販売台数を記録しており、今後の成長が期待されています。
本記事では日本におけるEV普及率や海外の動向、普及に向けた課題と今後の展望について解説します。
2022年は「日本のEV元年」だった!?
日本における電動車は、これまで1997年に発売されたトヨタ自動車「プリウス」のようなハイブリッド車が主流でした。2022年内の乗用車販売台数の割合を見ると、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)が全体の約50%を占めています。
一方、動力源の100%が電気となるEVは、走行時に二酸化炭素を排出しないことが大きな長所ではあるものの、本格的に市場投入されたのは2009年以降と歴史が浅いこともあり、ハイブリッド車の後塵を拝する形となっています。
しかし、EVの販売台数は年々増加しています。2020年にはEV購入を促進する「CEV補助金」の上限額が大幅に引き上げられ、さらに2022年は、日産自動車「サクラ」や三菱自動車「eKクロスEV」といった、予算200万円台で購入できる軽EVが発売され、フォルクスワーゲンやフォードなどの海外メーカーからも新型EVが続々と登場。2022年は国内で過去最高のEV販売台数を記録し、業界で「EV元年」と呼ばれるほどの盛況となりました。
なぜ日本のEV普及率は低いのか?
とはいえ、EVが乗用車の主流になっているというわけではありません。同年中に販売された乗用車のうち、EVの割合は1.4%程度にとどまっています。世界のEVシェア率を見ると、2022年のアメリカは5.8%程度、EU全体では11%程度、中国は19%程度となっており、日本のEV普及率は世界的に見ても低い状況です。
EVの本格的な市場投入が始まった2009年から10年以上たった今でも、日本でのEV普及が思うように進まないのはなぜでしょうか。EV普及における課題として、いくつかの要因が考えられます。
まずは、価格が高いことです。EV購入促進のため、国はCEV補助金を交付しているほか、一部では独自で補助金制度を設けている自治体も存在し、補助金制度は徐々に拡充されています。しかし、そうした補助金制度を活用したとしても、購入価格はガソリン車やハイブリッド車よりも高額になりがちです。
次に、1回の充電で一度に走行できる航続距離が短いことも課題のひとつといえるでしょう。たとえば日産自動車「サクラ」の場合、一充電あたりの航続距離はカタログ値で180kmとなっています。ガソリン車の軽自動車の多くは500km以上であることと比べると、明らかに航続距離が短いです。近年はバッテリーの高性能化で、ガソリン車と同等の航続距離を実現した車種も登場していますが、その分価格帯も上がるため、手ごろな価格で購入することは困難です。
さらにいえば、充電ポイントが少ないことも懸念点となります。
EVの普及が進むにつれ、集合住宅や高速道路のサービスエリアなどに充電器が整備されつつあります。しかし、全国で整備されているのは2022年3月時点で約3万基に留まっており、充電インフラのさらなる整備が望まれます。加えて、ガソリン給油は数分で完了するところ、EVの充電は普通充電で8時間、急速充電で30分もの時間が必要となります。
「社用車EV化」がカーボンニュートラル実現のカギとなるか
このように現時点におけるEVは、消費者にはあまり選ばれていない傾向がありますが、日本政府は2035年までに電動車販売台数割合を100%とする目標を掲げており、その達成のためにさまざまな施策を打ち出しています。
まずは、EV購入補助金の拡充です。2020年度までのEV購入補助の上限額は40万円となっていましたが、2021年度以降の補助金事業においては、最大85万円まで増額されています。
次に、充電器設置台数の拡大です。日本政府は2030年までに、EV用の充電インフラを15万基設置する目標を掲げ、ガソリン車並みの利便性を実現する方針を掲げています。
ビジネスシーン向けの施策としては、「公用車・社用車の電動化促進」も掲げられています。特に公用車に関しては、政府実行計画の中で「2022年度以降の新規導入・更新、および使用する公用車全体も2030年度までに全て電動車とする」と明記されており、千葉県や名古屋市など地方自治体においても、EVの導入方針が定められています。
リモートワークの普及により、社用車のニーズおよび稼働率は減少傾向にある状況です。しかし、製品の運搬・納入や営業活動などの用途から、社用車の出番がなくなることはありません。そのため、カーボンニュートラル実現を見据えて社用車を整備していく必要性もあり、EV導入の取り組みは各企業で続々と行われています。たとえばリコーや三井住友海上火災保険では、全社用車をEVなどに切り替える方針を発表しました。このほかNTTビジネスソリューションズや三菱オートリースでは、自治体・法人向けのEV活用サポートサービスを展開しています。
日本におけるEVの普及率は、現在は非常に低い数値となっていますが、政府は今後「2035年までに電動車100%」を達成するために、今後もさまざまな施策を打ち出すことが予想されます。もし自社に適した施策がスタートした場合は、積極的に活用していくことで、安価にEVを導入することが可能になります。結果的に、自社のカーボンニュートラルに対する取り組みも進んでいくことでしょう。
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