2024.11.22 (Fri)

カーボンニュートラルを実現するために(第9回)

自治体の4割が「GX」に取り組めていない。推進の鍵とは

 化石エネルギーから、太陽光発電などのクリーンエネルギーを中心とした産業・社会構造への転換をめざすことを「GX(グリーントランスフォーメーション)」といいます。GXは2050年のカーボンニュートラルに向けた取り組みのひとつであり、企業だけでなく、地方自治体もGXを推進・支援することが求められています。「自治体GX」はどのように推進すべきなのでしょうか?

カーボンニュートラルの実現には、地方自治体の力が必要

 日本政府は現在、GXを積極的に推進しています。たとえば内閣官房では、2022年7月から2024年10月までに、計13回の「GX実行会議」を開催。2024年10月に首相に就任したばかりの石破総理大臣も、10月31日に開催された第13回目に出席しました。

 GXが誕生した背景には、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の存在があります。日本政府は2020年10月、2050年までにカーボンニュートラルを実現することと、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを発表しており、その実現のためにGXを推進する方針を打ち出しています。

 たとえば2023年7月に発表された「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」もそのひとつです。GX推進戦略の中では、エネルギーの安定確保を前提としたGXに向けて、「徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換(燃料・原料転換)」「再生可能エネルギーの主力電源化」「原子力の活用」「水素・アンモニアの導入促進」など、14項目にわたる脱炭素の施策を行うことが明記されています。

 このGX推進戦略では、GXを実現するためには地方公共団体の協力が不可欠であり、地域特性に応じたGXを推進することの重要性が繰り返し強調されています。

 たとえば脱炭素の電源として重要視される再生可能エネルギーの主力電源化においては、公共施設、住宅、空港、鉄道など、適地への太陽光発電や風力発電の最大限導入をスムーズに進めるためには、地域主導による関係省庁と連携した取り組みが必要である、としています。

 さらに、2025年までに日本国内に少なくとも100 カ所の「脱炭素先行地域」を選定し、地域金融機関や地元企業との連携のもと、地域特性をふまえた産業・社会の構造転換や脱炭素製品の需要創出を推進し、GX の社会実装を後押しするとしています。

GXの重要性を理解している自治体は多いが、4割が実行していない

 このように政府が地方自治体によるGX戦略に期待を見せる中、自治体はGX推進についてどのように捉えているのでしょうか。

 公共コンサルタント企業が実施した「地方自治体のGXに関する実態調査」(エネがえる運営事務局調べ)によると、2050年カーボンニュートラルの実現や地域脱炭素に向けたGXの重要性について、85.2%が「実感している」と回答しています。一方で、GX実現に向けた取り組みができているかという問いでは、「できている」が60.2%と、現時点では4割の自治体がGXに取り組んでいないようです。

 具体的な取り組みが進まない理由としてトップに挙がったのは「GX関連の技術や専門知識が不足しているから」(40.0%)で、次点は「自治体と企業・金融機関をはじめとする関係機関との連携が進まないから」(37.5%)でした。一部の自治体では、GXを推進するための十分な知識や情報がなく、関係団体との連携もうまくできていないようです。

 GX実現に向けて現在推進中の具体的な取り組みとしては、第1位が「企業と連携した太陽光パネルなど再生可能エネルギー発電設備の導入」(53.8%)でした。GXの取り組みが「進んでいない」と回答した自治体でも、80.0%が太陽光や蓄電池、電気自動車(EV車)の導入に興味を示しており、まずは再生可能エネルギーの主力電源化の関心が高いようです。

公用車をエコカーに、発電装置を市内に。現在進行中の自治体GXとは

 すでにGXの取り組みに着手している自治体は、どのような取り組みを行っているのでしょうか? その事例を紹介します。

 群馬県伊勢崎市では、市が進める全ての施策や事業に「環境配慮」を取り入れる「いせさきGX」を、2024年7月より始めています。具体的な施策としては、家庭用の太陽光発電設備および蓄電池設備の補助事業や、公用車への次世代自動車の導入計画などがあります。公用車については、2035年までに電気自動車30%、ハイブリッド車65%、プラグインハイブリッド車5%の割合にすることを目指しています。

 同市は再生可能エネルギーの「地産地消」をキーワードとした民間企業との連携にも取り組んでいます。2023年11月にはかんとうYAWARAGIエネルギー株式会社と、2024年4月には伊勢崎ガス株式会社および株式会社INPEXと脱炭素の実現に向けた連携協定を締結。再生可能エネルギーの導入拡大や、低酸素エネルギーの調達および公共施設への提供をはじめとした、地域共生による脱炭素の施策を進めています。

 滋賀県米原市では、農山村の脱炭素化と地域活性をめざした「ECO VILLAGE 構想」を推進中です。同市は地域のエネルギーを域外の大規模電源に依存していることから、市内に再生可能エネルギー設備や蓄電池など“自家電源”を導入する方針を掲げています。たとえば市内に脱炭素先行地域を設定し、農山村部の耕作放棄地に再生可能エネルギー設備、駅前促進区域に大型蓄電池を導入することで、常時・非常時どちらにも活用できる地域のエネルギー源を確保するとしています。

 さらに、ソーラーシェアリング(ソーラーパネルを設置した農地で作物を育てることで、農業だけでなく売電で副収入が得られる農地のこと)や環境配慮型のグリーンハウスで地域産品を生産することにより、女性や若者が活躍できる魅力ある雇用を創出するとしています。

 地方自治体におけるGXは始まったばかりではあり、カーボンニュートラルを達成する2050年も、まだまだ先の話ではあります。しかし、カーボンニュートラルの中間目標である2030年はあと約5年しか残されていません。「GXは分からないから後回し」ではなく、「GXを地域活性化の呼び水にする!」といったような、積極的なGXへの取り組みが地方自治体には求められているといえるでしょう。

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