2023.09.08 (Fri)
カーボンニュートラルを実現するために(第5回)
政府が推進「GX」は企業に何をもたらすのか?
「GX(グリーントランスフォーメーション)」という言葉をご存知でしょうか。GXとは化石燃料を太陽光発電、風力発電などのクリーンエネルギーへと転換し、環境負荷の少ない社会構造をつくる取り組みのことを指します。今後、GXが進み、社会構造が変わっていくことで、ビジネスはどのように変化するのでしょうか。本記事では、GXが企業にもたらす影響について解説します。
GXは日本政府が推進している
GXとは、化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用して環境改善を図り、経済社会システムや産業構造を変革することです。たとえば日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロとする「2050カーボンニュートラル」を掲げていますが、これもGXの中心となる施策のひとつとなります。
政府はGXを積極的に推進していく姿勢を明らかにしており、2022年6月には、内閣が閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」にて、今後10年間でGXに対し、官民協調で150兆円規模の投資を実現することが明記されています。
2022年7月からは、岸田内閣総理大臣を議長とする「GX実行会議」が実施され、2023年2月には「徹底した省エネルギーの実現」や「再生可能エネルギーの主力電源化」といった基本方針が示されました。加えて、GXを推進するための国債として「GX経済移行債」も創設され、今後10年間に20兆円規模の先行投資支援を実施することも盛り込まれました。
さらに、GXへ挑戦する企業群が連係し、官・学とともに協働する場である「GXリーグ」もスタートしています。GXリーグに参画する企業には、CO2の排出を削減することや、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに取り組むなど、市場のグリーン化を牽引することが求められており、すでに679の企業が賛同しています(2023年2月14日時点)。
まとめると、GXは政府主導で推進されている取り組みであり、企業側も積極的にGXに参画していくことが求められている、ということがいえます。
GXは企業にどんなメリットをもたらすのか?
政府が企業に対し、GXへの参画を呼びかけているのは前項で触れた通りですが、それではGXに参画することで、企業にどのようなメリットがあるのでしょうか?
企業がGXに取り組む一番のメリットは、取引先や消費者に「環境問題に関心を持って積極的に取り組んでいる企業」というイメージが与えられ、自社のブランディングに活用できる点があります。本業が活性化する効果はもちろん、入社希望者が増えて人材を確保しやすくなったり、金融機関や投資家から投資を受けやすくなる可能性もあります。
たとえば、GXリーグに参画しているある大手自動車メーカーは、2030年代早期より主要市場に投入する新型車をすべて電動車両とするとともに、電動化技術と生産技術のイノベーションを進めることを宣言しました。
同じくGXリーグに参画する別の消費財メーカーでは、サプライチェーン全体のCO2を含む、GHG(Greenhouse Gus、温室効果ガス)排出量可視化基盤の構築に取り組んでいます。こうした未来の環境に対する取り組みは、顧客や就職希望者、投資家への格好のアピールとなるでしょう。
このほか、補助金や助成金が利用できる点もメリットです。カーボンニュートラルに関連した補助金には「ものづくり補助金(グリーン枠)」や「事業再構築補助金(グリーン成長枠)」などがあり、GXに取り組みながら、これらの補助金を受け取ることも可能です。前述したように、GXは国が重点投資をする案件の一つなっているため、今後はさらに補助金が増える可能性もあります。
さらに、CO2の排出削減や再生可能エネルギーの利用に積極的に取り組むことで、エネルギーコストの低減も期待できます。
中小企業のGXをサポートする補助金も存在する
GXにはさまざまなメリットがある一方で、中小企業にはまだまだ浸透していないようです。フォーバルGDXリサーチ研究所の調査によると、約8割の中小企業経営者は、GXに取り組めていないと回答しています。
こうした状況の中、自治体が中小企業を支援する制度も生まれています。たとえば静岡県浜松市は、2022年に「浜松市中小企業等グリーントランスフォーメーション支援補助金」という補助金制度が実施されました。これは、原油価格や物価高騰の影響によるコスト増に直面している中小企業が、コスト削減または省エネルギーにつながる製品を購入する際、その購入額の一部を支援金として交付するというものです。これにより、中小企業のGXを促す狙いがあります。
福岡県北九州市でも同様の取り組みが実施されました。「北九州市中小企業の競争力を生み出す脱炭素化推進事業」という事業では、脱炭素に貢献する設備を導入した中小企業に対し、費用の一部を補助しています。対象となる設備は、自家消費型太陽光発電設備、小型風力発電設備、蓄電池、最先端の省エネ機器、電動車およびV2H充放電器などです。
現時点では、GXに取り組んでいる企業の数はそこまで多くないかもしれません。しかし、政府は2050年カーボンニュートラルの実現のためGXを進めていく方針を掲げており、企業に対し、GXへの参画を促すためのさまざまな取り組みを行っています。
今後、企業がビジネスを続けていくうえで、GXは無視できない存在になる可能性があります。できるところからGXを始めるのが良いでしょう。
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