2023.10.04 (Wed)

カーボンニュートラルを実現するために(第7回)

そのエコは本物?カーボンクレジットを証明する方法

 温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ」社会の実現に向け、企業やNGOなど民間団体が温室効果ガスの削減効果を「クレジット」として取引する「カーボン・クレジット」の動きが加速しています。さらに、見せかけの環境配慮である「グリーンウォッシュ」にならないよう、正しいデータに裏打ちされたクレジットの品質を確保する動きも出てきています。本記事では、クレジットの品質をめぐる企業のデジタル活用事例を紹介します。

その環境配慮は、見せかけの「グリーンウォッシュ」かもしれない

 「カーボン・クレジット」とは、CO2など温室効果ガスを削減したという価値(クレジット)を、他者と売買することを指します。このうち、特に企業やNGOなどの民間団体が主体となってカーボン・クレジットを行うことを「ボランタリー・クレジット」と呼ばれます。

 2020年に設立されたボランタリー・クレジット市場の管理組織「TSVCM」では、2015年のパリ協定で示された1.5℃目標(気温上昇を、産業革命以前に比べ1.5℃に抑える目標)を達成するためには、同市場を2030年までに15倍に拡大する必要があるとしています。

 脱炭素化を加速するためには、企業の取り組みも重要なポイントとなります。企業が自ら温室効果ガスの排出削減に取り組みつつ、削減が難しい部分については、植林事業や再生可能エネルギー発電などへの出資によるカーボン・オフセット(クレジットを購入し、排出量の相殺・埋合せをすること)を補完的に活用することも重要になります。

 ただし、このカーボン・オフセットについては「グリーンウォッシュ」(見せかけの環境配慮)であるという批判も存在します。たとえばある企業が植林事業を行い、『この植林が、年間◯◯万トンのCO2を吸収する』と謳ったとしても、実際にはそこまでの効果が期待できないものもあります。

 こうした偽りのカーボン・オフセットを疑問視する消費者やステークホルダーの声が高まったことで、中止する大手企業も出てきています。カーボン・オフセットを偽りではなく、信頼性のあるものに変えていくためには、クレジットの品質を担保するプロセスや制度を整備することが求められます。

クレジットの品質を高めるためには、ITが必要になる

 それでは、クレジットの品質を担保するためには、どうすれば良いのでしょうか?現在、 IoTやブロックチェーンなどのデジタル技術を活用し、クレジットの品質を管理していくための仕組みが構築されつつあります。

 たとえば、ボランタリー・クレジット市場が先行する海外事例では、米アグリテック企業Indigo Agricultureが、微生物とデジタル技術を活用して農産物の収穫量の向上に取り組むかたわら、環境保全型農業の導入による農地への炭素貯留量を、第三者認証付きのカーボン・クレジットとして売買する仕組みを構築しています。農家の収益向上とコスト軽減の両立をめざしたプラットフォームを提供しています。

 ソフトウェア企業CIBOが提供する、農地のカーボン・クレジットの計測・販売プラットフォーム「CIBO Impact」では、衛星画像などのリモートセンシングや気象・天気予報・土壌図・区画記録などのオープンデータ、AIなどを駆使し、遠隔でCO2排出量の削減および炭素隔離の成果をモニタリングし、数値化するシステムを構築。農家はマップ上に農地を登録し、クレジット販売価格などの設定をするだけで、企業にカーボン・クレジットの販売が可能となりました。

 日本では、NTTコミュニケーションズとヤンマーマルシェが、水稲栽培において「中干し」という期間を、通常より7日間延長することで、温室効果ガスのひとつであるメタンの発生量を3割削減できることを確認。その削減量をIoTセンサーによる水位データなどから自動計算し、国の認定制度「J-クレジット」に申請できるサービスを提供しています。

 ボランタリー・クレジットの事例では、農業専門の人材派遣などを行うLife Labが、温室効果ガスの排出削減や除去の運用と、衛星画像や地理情報システムを活用して生態学的な影響をモニタリングするカーボン・オフセットの提供を開始。良質なクレジットの生成を目指しています。

クレジットの市場はどれを使えば良いのか?

 現在日本国内には、ボランタリー・クレジット以外にも、国が認証するJ-クレジットやJCM(二国間クレジット)、など、多様なカーボン・クレジットがあります。しかし経済産業省では、その違いが不明確のため、これらをどのように活用すればよいのか判断できず、利用を躊躇する企業が多く存在していると指摘しています。実際、ボランタリー・クレジット市場は、海外の団体が発行するものが主流で、国内の取引はまだ限定的というのが現状です。

 今後、デジタル活用がさらに発展し、たしかな技術によって保証された良質なカーボン・クレジットの利用が活発化することで、グリーンウォッシュが減り、ネットゼロの社会の実現も夢ではなくなってくることでしょう。

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