2023.03.24 (Fri)
カーボンニュートラルを実現するために(第2回)
中小企業も必須に!脱炭素のキーワード「Scope」とは
日本は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目標として掲げており、そのプロセスのひとつとして、事業者は温室効果ガスの算定・報告を行うことが求められています。
この記事では、温室効果ガスを算定・報告する際の基準となる「Scope」という考え方について解説します。
温室効果ガス排出の情報開示が求められている
企業が事業活動を行う過程で排出する温室効果ガスは、国によって規制されています。
2006年4月には、温室効果ガスを多量に排出する事業者(特定排出者)に対し、自社の温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することが義務付けられました。さらに2021年5月には、排出量情報をデジタル化し、オープンデータ化することが定められました。
こうした排出量の算定と開示は、カーボンニュートラルを実現するためのベースとなるものです。排出量を把握することで、排出量の抑制対策を立てることができ、近年加速しているESG投資の観点でも、企業価値を分析するうえで有用な情報となります。
つまり、温室効果ガスの排出量の算定・開示は、大企業など特定の事業者だけが考えるべきことではなくなりつつあるのです。
温室効果ガス排出量を正しく算定する「Scope」とは
温室効果ガス排出量を正しく算定するためには、排出量の区分である「Scope」について理解することが必要です。
温室効果ガス排出量算定・報告する際の国際的な基準としては「GHGプロトコル」という考え方があります。このプロトコルでは、Scopeについて3つの区分が示されています。
「Scope 1」は、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出を示す指標です。自社工場で燃料を燃焼したときに排出される温室効果ガスなどがこれに該当します。
「Scope 2」は、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出を示す指標です。他社から購入するエネルギーなどが該当しますが、100%再生可能エネルギー由来のものは対象外です。
「Scope 3」は、Scope1、 Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)を示す指標です。製造業の場合でいえば、原材料やその輸送、製品の配送、販売、製品の破棄などが対象になります。
近年は、Scope1や2だけでなく、Scope3も含んだサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算定して開示する動きが進んでいます。より正確に排出量を把握するためには、商品の製造だけでなく、従業員の通勤や出張、消費者が製品を破棄した際に排出される温室効果ガスまで目を向ける必要があります。
中小企業のカーボンニュートラルをサポートする施策が続々整備されている
Scope 3で挙げたような、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルをめざす企業が増えることになれば、中小企業も脱炭素化を求められる可能性があります。
中小企業の温室効果ガス排出量は1.2億~2.5億トンと推計され、日本全体の排出量の1~2割弱を占めています。多くの中小企業ではカーボンニュートラルについて具体的な方策を検討していないかもしれませんが、今後は金融機関から融資の際に温室効果ガスの排出量に関する情報を求められたり、海外の取引先からカーボンニュートラルへの取り組みに関する方針をヒアリングされるといったことも起こりえます。
国は、中小企業のカーボンニュートラル施策を促進するため、さまざまな施策を用意しています。たとえば、これから取り組む事業者に向けて、専門家によるウェブ相談会を実施したり、全国各地に設けられた「省エネお助け隊相談窓口」を利用し、現状把握から改善までサポートする仕組みも用意されています。ほかにも、排出量の算定・公表のノウハウの提供、電子報告システムの整備なども進めています。
中小企業に向けた補助金制度もあり、たとえばICT導入によりCO2排出量やエネルギー使用量を把握し、生産性の向上を図る取り組みを支援する「IT導入補助金」や、温室効果ガス削減と生産性向上に資する設備投資等を支援する「ものづくり補助金」などがあります。
企業活動における温室効果ガス排出量の算定・開示は、カーボンニュートラルを実現するためのベースとなるものです。まずはどのような指標があるのか、Scopeの考え方を知っておくことが、脱炭素社会のビジネスに遅れを取らないためには必要といえるでしょう。
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