2024.11.22 (Fri)

カーボンニュートラルを実現するために(第8回)

2024年10月スタート「水素社会推進法」で何が変わるのか

 2024年10月、「水素社会推進法」という法律が施行されました。同法は水素をエネルギーとして使うことを推進する法律ですが、CO2排出量が多い一部の水素は対象外となるようです。

10月施行「水素社会推進法」とは、どんな法律なのか?

 2024年5月、「水素社会推進法」という法律が成立し、10月に施行されました。

 水素社会推進法は、正式名称を「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」といい、CO2(二酸化炭素)の排出量が少ない水素「低炭素水素等」の使用を促進し、社会の脱炭素化を進めるための法律です。

 同法では、低炭素水素等の供給・利用を早期に促進するための基本方針や、水素を供給する事業者・利用する事業者の計画認定制度の創設、認定を受けた事業者に対する支援措置や特例措置などが定められています。

 しかし、なぜ政府は「水素」の利用を促進しようとしているのでしょうか? そして、なぜ水素の中でも「低炭素水素等」に限定しているのでしょうか?

水素を燃やすと、水を排出するがCO2は排出しない

 政府が水素の利用を促進しようとしている背景には、カーボンニュートラルの存在があります。

 カーボンニュートラルとは、CO2など温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出量を“実質ゼロ”とする考え方のことです。日本でも採用されており、政府は2050年までのカーボンニュートラルと、中間目標として2030年度までの温室効果ガス46%削減(2013年度比)を掲げています。

 環境省の「脱炭素ポータル」というサイトによれば、2020年度時点のCO2の排出量は、省エネや省CO2対策の効果により2.6トン削減されているといいます(2013年度比)。2030年度の中間目標を達成するためには、削減対策をより進めて、さらに3.5億トンのCO2を減らす必要があるといいます。

 CO2を今後も継続して減らしていき、カーボンニュートラルを達成するためには、これまで石油など化石エネルギー中心だった産業・社会構造を、太陽光発電や風力発電など温室効果ガスをほとんど排出しないグリーンエネルギーへと転換していくことが求められます。このようなエネルギーの転換、およびそれに伴う社会システムの変革のことを「GX」(ジーエックス。グリーントランスフォーメーションの略)と呼びます。

 水素は、再エネ(再生可能エネルギー)や石炭・天然ガスなどの資源から製造でき、かつ燃える際に水しか出ず、排ガスやCO2は発生しないクリーンなエネルギーです。そのため、政府では水素もGXを実現するためのエネルギーとして定義しています。

 エネルギーとしての水素の用途としては、鉄鋼・化学における「hard to abateセクター」(CO2排出削減が困難な領域)や、自動車やバスなどのモビリティ分野、ガス火力発電の水素火力発電への転換などが挙げられます。


水素の使用用途の例。資源エネルギー庁
「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」4ページより引用

水素を作る際に、CO2が発生してしまうことがある

 とはいえ、すべての水素が水素社会推進法の対象となるわけではありません。同法はあくまでも「低炭素水素等」に限定したものとなります。

 同法が定める低炭素水素等の基準とは、【1】その製造に伴って排出されるCO2の量が「3.4kg-CO2e/kg-H2」の値以下の場合、【2】CO2の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が我が国のCO2の排出量の削減に寄与する、という2つの条件をクリアした水素(およびアンモニア、合成メタン、合成燃料)に限られます。

 この「3.4kg-CO2e/kg-H2」という数値は、天然ガスや石炭などの化石燃料を燃焼することによって作り出された水素「グレー水素」のCO2排出量である11.4kg-CO2eq/kg-H2の約30%に当たります。グレー水素は、水素自体はクリーンであるものの、水素を作る工程でCO2が発生してしまっているため、同法が定める「低炭素水素等」としては認められません。

 一方、「グリーン水素」と「ブルー水素」のように、生産時のCO2排出量が少なく、CO2排出量が基準値を下回る場合は、低炭素水素等として認められます。グリーン水素とは、再生エネルギーで作られた電気で水を電気分解することで生まれた水素のことです。ブルー水素はグレー水素と同様、天然ガスや石炭などの化石燃料を燃焼しますが、その過程で発生したCO2を回収・貯留するため、グレー水素よりもCO2排出量が抑えられます。

2050年までには2,000万トンもの水素が導入される?

 水素社会推進法は10月に施行されたばかりの新しい法律ですが、資源エネルギー庁が2024年9月に発表した「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」という資料によると、今後は同法に基づいて、既存の化石燃料との価格差を埋めるための金銭的な支援や国内事業者の拠点整備費の一部支援や、水素を製造・輸送・貯蔵する施設の保安検査を、都道府県ではなく国が実施することによる事業の迅速化を目指すとしています。

 同資料では今後の国内における水素等の導入量について、現在の200万トンから2030年には300万トン、2050年までには2,000万トンまで増やすとしています。さらに、今後10年程度の目標として、水素等に官民合わせて7兆円を投入し、国内のCO2排出量を累計で約6,000万トン削減することを掲げています。

 本稿でも触れたように、水素エネルギーは日本国内で生産ができる数少ないエネルギーです。水素の製造・貯蔵・利用のサプライチェーンを構築し、効率よく循環することができれば、カーボンニュートラルを2050年よりも前倒しで達成することも可能でしょう。

 事業のDX化(デジタル化)に取り組んでいる企業は多いでしょうが、2050年に向けたGXも始まりつつあります。その鍵を握るのが、水素なのです。

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