地震大国と呼ばれる日本では、地震以外にも台風や豪雨などの災害が発生します。そこで重要視されているのが、BCPにおける防災備蓄です。防災備蓄とは、災害時に従業員がオフィスなどの施設内で泊まることができるように各企業が用意する備蓄のことです。現在、このようなBCP策定が重要視されている一方で、BCP策定を施していない企業は少なくありません。ここでは、防災備蓄が必須である理由と具体的な備蓄品と量について解説します。
BCPにおける防災備蓄が必須な理由
企業には、従業員や顧客の生命の安全を第一に考える責任があります。そのためには、災害時の対策として日常的に防災備蓄を行うことが重要です。防災備蓄は、災害発生から3日間は従業員を施設内に留めておく必要があるためです。
災害発生から3日間は「応急対策期」と呼ばれ、被救助者の救助・救出が優先される期間です。不要不急の外出が禁じられるため、従業員は帰宅できなくなります。企業は施設内で待機する従業員のために、3日間分の人数分の備蓄を行う必要があるのです。
必要な備蓄品と量
東京都は「東京都帰宅困難者対策条例」を施行しています。条例の中には、従業員のために3日分の備蓄が必要であることが明示されています。具体的な備蓄品について解説します。
水
断水に備えて飲料水を備蓄します。企業内の備蓄であれば、ペットボトル入りの飲料水が一般的です。なお、通常の飲料水の消費期限は2年程度です。備蓄向けのミネラルウォーターの中には、5〜10年長期保存できるものもあります。
水の必要摂取量は、1日1人当たり約3Lです。3日分であれば1人あたり9L必要であるため、トータルでは9L×人数分を備蓄する必要があります。
食料
水道やガス、電気が止まることを想定し、調理不要な食料の備蓄が必要です。一般的な備蓄食料は乾パン・アルファ米・カップ麺です。いずれも調理工程がなく、災害時でも簡単に食べられます。なお、栄養に偏りが出ないよう、あわせて缶詰などを備蓄できるとよいでしょう。
食料は1日1人当たり3食必要です。3日分であれば1人あたり9食です。企業は9食×人数分を備蓄しておきましょう。
毛布
空調が停止することを想定し、暖をとるための毛布やブランケットの備蓄が必要です。毛布は1人あたり1枚の備蓄が望ましいです。ただし従業員の数が多い企業では、大きい保管場所が必要になります。
その場合は薄めの毛布の他、保温アルミシートの備蓄がおすすめです。保温アルミシートは薄手軽量で頑丈であり、保温効果が高いのが特徴。毛布のようにかぶったり、身体に巻いたりして使用できます。あわせて、底冷えを防ぐための薄手のマットやエアークッションも備蓄できるとよいでしょう。
簡易トイレ
災害時にはトイレが使用できなくなる可能性が高いことから、簡易トイレの備蓄が必要です。とくに、排せつ物には感染症の原因となるものが含まれますので、衛生面を保つためにも簡易トイレの備蓄は入念に行いましょう。
簡易トイレの種類には「ポリマーシートタイプ」「粉末凝固剤タイプ」「タブレットタイプ」「給水パックタイプ」などがあり、便器にセットして使用するものが一般的です。1日の1人あたりのトイレ回数は5回が一般的な基準です。つまり、簡易トイレは3日間で1人あたり15個必要です。企業は15個×人数分の備蓄をしましょう。
その他
その他にも「医薬品」「懐中電灯」「携帯ラジオ」「衛生用品」「マスク」などの備蓄があると安心です。これらの備蓄品は、企業によって必要なものや数が異なります。具体的な災害を想定し、どれ位の物資の備蓄が必要なのか、しっかりシミュレーションする必要があります。
防災備蓄品を管理するコツ
防災備蓄品はただ集めておけばよいものではなく、的確に管理する必要があります。管理を怠ると、いざというときに役に立たないことがあるからです。次に、防災備蓄品の管理の方法について解説します。
保管場所
防災備蓄品は、いざというときにすぐに利用できる場所に保管しておきましょう。奥深くにしまい込んでしまうと、緊急時にすぐ利用できない恐れがあります。具体的な防災備蓄品の保管場所について、以下の2つのポイントから解説します。
見える場所に保管する
防災備蓄品は、人の目に付きやすい場所に保管してください。一部の人ではなく、多くの人から見える場所を選ぶことがポイントです。せっかく防災備蓄品を集めても、従業員が存在や保管場所を知らなければ、いざ必要なときに利用することができません。保管中の管理が疎かになり、消費期限が切れてしまうリスクもあります。
地下倉庫や普段あまり人が出入りしないような場所に防災備蓄品を保管している場合には、もっと人目に付きやすい場所に移動させる必要があります。緊急時に防災備蓄品の在処を知っている人が現場にいるとは限りません。この点を念頭に置き、防災備蓄品は、なるべく従業員の身近な場所に保管しましょう。人目に付きやすい場所での保管は、防災への意識を高めることにもつながります。
分散して保管する
防災備蓄品はなるべく分散させて保管しましょう。災害時にはエレベーターが停止したり、防火シャッターが下りたまま作動しなくなる可能性があります。防災備蓄品を集中させて保管させると、保管場所までの道が分断されたときに、まったく利用できなくなる恐れがあります。
あるいは、保管場所が水没などの被害に見舞われ、備蓄していた品が使えなくなる可能性もあります。こういった全滅のリスクを下げるために、備蓄品はなるべく分散させて保管することが求められます。できれば各フロアやグループ単位での配置が望ましいでしょう。加えて、必要なときにすぐ取りに行けるよう、従業員の身近に保管することも大切です。
備蓄の期限管理
飲料水や食料品などの防災備蓄には、当然ながら消費期限があります。いざというときに期限切れを起こさないよう、定期的に期限を確認しておく必要があります。なお、効率良く飲食物を備蓄する方法には、以下の2つの方法があります。
ローリングストック法
ローリングストック法は、備蓄品の一部を消費しながら新しいものと入れ替えていく方法です。災害の有無に関わらず、一定期間が経過したところで、利用期限の古い備蓄から順番に消費していきます。たとえば半年や1年に1回、備蓄品を消費する日を決めておくとよいでしょう。
年数回、備蓄品の消費を習慣づけることもよい取り組みといえます。
フードバンク
フードバンクとは、食料を通じた社会福祉活動です。その名の通り「食料銀行」を意味し、食べ物に困っている人に食料を届ける活動を指します。フードバンクで受け付けている食料品は、缶詰などの加工食品の他、野菜・果物・米・パンなど幅広いことが一般的です。団体にもよりますが、防災備蓄品の食料も寄附が可能です。
フードバンクに防災備蓄品の食料品を寄附することで、企業は大量廃棄のコスト削減や環境保護を行うことができます。さらに、社会活動に貢献できるメリットもあります。廃棄するものや、ローリングストックの対象となる食料品は、フードバンクに寄付するのも1つの方法です。
外部企業との協力体制を築く
災害発生時に食料品を入手する方法として、外部企業との協力があります。たとえば自動販売機を設置している企業ならば、「災害時には無料で自動販売機を利用できる」という契約を結んでおくことで、被災時に飲食物を確保できます。
あるいは、社内に外部委託の食堂を導入している場合は、事前の契約により、被災時に食堂に備蓄された飲食物を自由に分配することも可能です。このように、被災時に飲食物を確保するには、あらかじめ外部企業との協力体制を築いておくのも有効です。自社での防災備蓄品の調達と併用するとよいでしょう。
災害に備えて必ず防災備蓄をしておこう
防災備蓄品の確保は従業員の命を守るために必要です。企業は自社に必要な備蓄品の種類や数を把握し、万が一の事態に備えてしっかり確保しておきましょう。調達するだけでなく、保管場所や保管期限を的確に管理することも必要です。
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