BCPは「事業継続計画(Business continuity planning)」の訳です。BCPは、自然災害やシステム障害などが発生した時に、企業が損害を最小限に抑えるために備えておくべき計画を意味しています。BCPの目的は従業員を守り、その上で事業を守るところにあります。病院においてもBCPを策定することは非常に重要です。病院には身体が弱っている人や自分で動けない人もいるために、非常時の動きについてあらかじめ定めておくことが患者を守ることにつながります。この記事では、災害が病院に及ぼす影響に加えて、病院、とりわけ災害拠点病院でBCPを作成するにあたって見落としてはいけない重要なポイントについても解説します。
病院におけるBCPとは
病院は身体の不自由な人が多く居る場であり、かつ医療機能を停止することが許されない場です。よって、緊急事態が生じた際の対応は非常に重要となります。以下、災害拠点病院がもつBCPの特徴を説明します。
災害時でも医療機能を維持する
病院におけるBCPで最も重要なことは、災害などの予期せぬ事態が発生した場合にも医療機能を維持できる計画を立てることです。医療機能のごくわずかな停止時間も、人命を大きく左右します。災害時に備えて、重要業務や医療機能が停止しないよう、あるいは医療機能が停止してしまった際には短い時間で再開できるように計画を立てておかねばなりません。
また、災害発生時には、入院患者だけではなく負傷した人たちを可能な限り受け入れ、手当しなければなりません。そうした事態を予測し、計画を事前に立てておくことも大切です。緊急時にも冷静に対応するためには、具体的に何をし、どのような手順で手当・作業を行うのかをまとめたマニュアルやサンプルを作成し、病院内で共有しておくことが大切です。
災害拠点病院とは
災害拠点病院とは災害時に初期応急医療体制の強化を目的とし、定められた病院です。災害拠点病院における主な条件とは24時間体制、ヘリコプターを使用した重症患者の受け入れ・搬送、ヘリコプターに同乗する医師がおり、大きな医療体制と情報収集システムを持つなどです。
平時において災害拠点病院は入院患者や外来患者に医療の提供を行いますが、災害時には負傷者の受け入れ・対応、医療チームの派遣などを行います。災害拠点病院は一般病院とは異なるBCPを策定しておく必要があります。例えば、近隣の医療機関との役割分担、緊急時の役割分担、複数人の指揮命令系統の選定、業務のプライオリティを事前に決め、日頃から把握しておくことは特に大切です。
災害による病院への影響
災害時には予期せぬ事態が次々に発生する可能性があります。例えば、自然災害は二次災害や、長時間に渡る交通機関の混乱を引き起こすことも珍しくありません。
災害によって院内も大混乱します。災害が病院にどのような影響を与えるのか解説します。
指揮命令系統が混乱する
災害時において災害拠点病院は近隣病院との連携や医療スタッフの派遣を行います。そのため、指揮命令者のみならず、権限のある者や決定権のある者が院内に居ないという可能性もあります。決定権のある人を複数名あらかじめ決めておくとスムーズです。
業務の大量発生や、医療スタッフの負傷などにより人員が不足すると、現場が大混乱します。混乱状態のなかで、自分が行うべき適切な業務を判断することは非常に難しいはずです。こうした事態に備えて、指揮命令系統を決めておき、細やかな役割分担を事前に行っておくと混乱を最小限におさえることができます。
ライフラインが停止する
災害により水・ガス・電気などのライフラインが停止する可能性があります。病院のライフラインが完全に停止すると患者が亡くなる恐れがあるため、病院は水道・ガス・電気などを非常時にも使用できるように準備しておきます。
ライフラインが復旧するまでは、備蓄された水や、非常用発電機で電力を維持していく必要があります。災害の規模もライフラインの復旧時期も事前に分かるものではないため、ライフラインは可能な限り多く確保しておかなければいけません。また、食料、飲料水、医薬品などを3日分貯めておくことが好ましいと一般的にいわれています。
設備・建物が損壊する
災害により、建物や医療機器が損壊する恐れがあります。病院側は耐震性の確認を行い、対策を日頃から行わなければいけません。地震による衝撃などで倒壊・崩壊する危険性が高いとされる基準(構造耐震指標0.3未満)を超えるように、耐震改修しておきます。
地震などの揺れによって建物が崩壊しかけている状況においても、入院患者の多くは自力で動くことができません。耐震性のない建物は非常に危険であり、かつ人命にかかわる問題です。
医薬品の不足
災害時には、災害拠点病院には多くの負傷者が搬送されてくるため、医薬品や診療材料を多めに購入しておくことが好ましいです。医師と薬剤師などが中心になり、医薬品・医療資器材備蓄リストを作成しておけば、数や置き場所を念頭に置きながら非常時にも行動できます。すでに入院している患者が常飲している医薬品は、3日分あると安心です。
また、医薬品がどうしても不足してしまった場合は、近隣病院の協力を仰ぐことになります。そのため、平常時から病院間で良好な関係を築くことはとても大切です。
人員の不足
災害拠点病院において、災害時には患者が通常の数十倍ほど増えるケースもあります。また、医療スタッフを院外に派遣する事態や、医療スタッフの負傷などを考慮すると、院内で必要な人員を確保することはとても大変です。
マニュアルの事前作成・配布、ならびにアクションカードを用意しておくことで、限られた人数で緊急支援を効率よく行うことができます。また、役職者不在の場合に備えて、決定権を持つ人を複数名決めておくことも大切です。
BCP策定方法マニュアル
BCPを策定することに併せて、マニュアルを作成しておくことは非常に大切です。災害が発生してから、誰がどこに行くのか、何をするのか考えていたら、この間に被害は拡大し、負傷者の対応も遅れてしまいます。
マニュアルは被害を最小限に止め、院内スタッフ、ないし医療従事者が冷静な判断を行い、かつ迅速に正しい行動をとるために必要なものです。
BCP策定組織を設立する
BCP策定をする組織を設立します。具体的には、委員長などの権限を持った責任者とメンバーを選出します。その際に病院内の各部門から偏りのでないように選出するとよいです。
組織の設定後、予算決定、BCPの作成、さらにはスタッフの教育を行います。BCPを上手に活用するポイントは、院内スタッフ全員にBCPを事前把握させるところにあります。
現状の体制を把握する
病院が現状どのくらい災害の体制が整っているかを確認します。具体的には指揮系統があるか、災害時の稼働可能な人員、医療機器・スペースの量、搬送手段、資材の量、ライフラインの耐震性・バックアップ、建物の耐震性などです。
不足している物が明らかになったら予算を工面し、必要な 物を用意していきます。人員や医薬品・医療機器については、近隣の病院に「不足時には支援してもらえるか」確認しておくことも大切です。
災害による被害の想定をする
災害による被害の想定は難しいですが、過去に起きた災害からどのような災害が起きる可能性があり、どの程度の被害が及ぶかはある程度想定することができます。また、医療機器やライフラインにどのような影響があるのかも、事前に想定しておきます。
災害時には院内スタッフの安否確認も重要となるため、連絡網を作成しておきましょう。この時に、電力が止まった際の職員間での連絡方法も決めておくと安心です。
災害の優先業務を設定する
災害時の優先業務を設定します。まず災害時に必要な業務をすべて洗い出し、行うべき業務から順に優先順位をつけていきます。できるだけ細かく優先順位をつけることがポイントです。緊急時の動きを想定することは難しいですが、役割分担や指揮命令系統を決めておくと、混乱を最小限におさえられます。
災害発生時において、災害拠点病院では緊急性の高い患者や重傷者を中心に受け入れ、一般病院では軽傷者を中心的に受け入れるため、地域の病院との連携が鍵になります。
各業務の概要を設定する
各業務の概要をあらかじめ設定し、日頃から把握しておく、もしくは緊急時に各業務の概要を見ながら行動を行うことができれば、現場の混乱を最小限にできます。業務の概要を作成するにあたって、まずは基本方針と目的を決めます。次に、起こりうる業務を書き出し、各業務にプライオリティを付け、それぞれにどのくらいの時間を使用できるのか決めておきます。
必要な人員・資源について、把握しておくことも、各業務の概要作成において忘れてはいけません。概要が完成したら、院内のスタッフにしっかりと浸透させていきます。
医療機関もBCPを策定し災害対策をする必要がある
病院においてBCPを策定することは院内のスタッフのみならず、入院患者や負傷者の命に関わるため必要です。一般病院においても緊急時に備えて、建物の耐震強化や食料・医薬品などの貯蓄、さらには医療スタッフの行動マニュアルを設定しておくことはとても大切です。
災害時の緊急拠点病院においては、重傷者が多く運ばれるだけではなく、院内スタッフはさまざまな派遣先で医療手当を行うことが求められます。業務は多様化し、かつ複雑化するため、緊急時に備えて計画を立てておくことは不可欠といえます。
現状把握や過去の事例をベースにしながら、非常時の混乱を和らげ、負傷者を効率よく手当するために必ずBCPを策定しておきましょう。
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