2021.03.12 (Fri)

最初に覚えておくべきBCP(事業継続計画)のノウハウ(第4回)

災害に関するBCP策定時のポイントを解説

 BCPとは「事業継続計画」のことであり、大災害やサイバーテロなど想定外の緊急事態に直面した場合を想定して、事業資産の損害を最小限にとどめ、事業継続のための方法や手段を計画することです。BCPはさまざまな緊急事態に応じた計画を策定する必要がありますが、本記事では自然災害に焦点を当て、策定時のポイントを徹底解説します。地震や台風などの災害だけでなく、近年流行している新型コロナウイルスなど、感染症のパンデミックにおけるBCP策定についても解説します。

BCPの概要

 ここではBCPの概要と、BCPと防災の違いについて説明します。

BCPとは事業継続計画のこと

 BCP(Business Continuity Plan)とは事業継続計画を意味し、企業がテロや災害などの危機的状況下に置かれた場合でも、重要な事業・業務を継続できる方策を用意し、存続させるための戦略を計画することです。

 BCPは自然災害だけでなく、サイバーテロなどの外部からの攻撃や、オペレーションミスなどの内部的なトラブル、サプライチェーン関連のリスクなど、さまざまな要因による緊急事態に備えて策定する必要があります。本記事では、発生する可能性が比較的高い自然災害にフォーカスして、策定時のポイントについて解説します。

BCPと防災の違い

 BCPは緊急時に備える対策であるという側面から、防災と混同してイメージをもたれることがありますが、厳密にはBCPと防災は異なる意味を持ちます。防災は、災害マニュアルなどを策定し、従業員等の安全を確保、かつ施設や設備のダメージを最小限に抑えることを目的とします。一方BCPは、事業や業務を早期に復旧させることを目的としています。

 防災は直接的な被害に焦点を当てているのに対し、BCPは間接的な被害を含むリスクを網羅的に考慮している点が、両者の違いです。東日本大震災を例に考えると、地震による影響で倒産した企業の多くは、地震によって直接施設が破壊されたことが要因となったわけではありません。多くの場合、従業員が出社困難になったり、水や電気などのライフラインが絶たれたことが要因となっており、これらは地震という災害の間接的な被害にあたります。

自然災害におけるBCP策定時のポイント

 自然災害としてイメージしやすいのは地震や台風ですが、2020年に発生した新型コロナウイルス感染拡大などのウイルスのパンデミックも該当します。これら全ての災害に対して機能するBCPを策定することが必要であり、ここでは策定のポイントについて解説します。

対策本部の設置

 緊急事態発生時には対策本部を設置し、全ての対策をトップダウンで指揮できる状況を構築することが重要です。一般的に、緊急事態を経験している人や、慣れている人は少なく、個々の従業員が冷静に判断をすることは困難です。したがって、あらかじめ体制や役割、行動などを明確化した上で、対策本部の指揮を中心とした対応が重要です。

安否確認

 BCPを発動し、対策を実行していくためには、対応する人材が必要不可欠です。あらかじめ体制や役割を明確化しておいたとしても、災害による影響により出社が難しくなったり、怪我をしたりと対応できない場合も発生します。計画時に対応できる人員が不足しないようにするために、あらかじめ社員の居住地や家族状況などを考慮した体制を検討する必要があります。

 安否確認も重要な実施事項です。災害発生時は迅速に社員の安否確認を行えるシステムを構築し、BCP対応を実行できる人員と、そうでない人員を把握する必要があります。BCP対応の体制を決める際には、災害によって対応不可能となった人員の代替要員まで決定しておくことで、迅速な対応が可能となります。

被害想定の考慮したBCPの策定

 BCP策定においては、対象とする拠点において、より具体的な被害想定を行い、BCPに落とし込む必要があります。被害想定を行わない、あるいは漠然とした想定のみで策定したBCPは、有事に効果的に機能させることが困難です。

 自社の被害想定を行う場合は、地震・火災のような災害そのものから、自社への被害を想定する方法もありますが、それらの災害による間接的な被害についても網羅的に想定する必要があります。したがって、災害そのものではなく、対象拠点の立地や建物の特徴などから、自社のウィークポイントを徹底的に調べておく必要があります。

日頃の訓練が大切

 BCPは策定するだけではなく、緊急事態が発生しない期間においても、訓練や教育を実施することが大切です。日頃から訓練を行うことで、BCPを従業員に浸透させることができ、実際の災害発生時にBCPをより機能させることが可能となります。

 BCPの訓練の目的は、「策定したBCPの実効性評価」「BCPの従業員への浸透・役割の明確化」「BCPの改善点抽出」「従業員の連携向上」が挙げられます。すなわちBCPの訓練を実行することで、策定したBCPは機能するのか、あるいは改善点はないのかということを確かめることができ、従業員のB対応力を向上させることができます。

 訓練方法としては、「机上訓練」「電話連絡網・緊急時通報診断」「代替施設への移動訓練」「バックアップデータの復元訓練」「総合訓練」が挙げられます。

 「机上訓練」では、災害発生を想定したシナリオを作成し、BCPに沿って行動することで対応可能かどうかを議論します。「電話連絡網・緊急時通報診断」では、安否確認の連絡訓練を行います。「代替施設への移動訓練」では、バックアップの工場・拠点を用意している場合に実施し、復旧要員を実際に移動させて、復旧作業の予行演習を行います。「バックアップデータの復元訓練」では、バックアップしてある電子データを取り出す訓練を実施します。「総合訓練」は、BCPに策定した内容全てを通して訓練するものです。

感染症のパンデミックにおけるBCP策定

 新型コロナウイルスの蔓延により、感染症のパンデミック対策が以前よりも重要視されるようになりました。感染症パンデミックへの対策としてもBCPの策定が有効です。しかしながら、地震や火災などと比べ、パンデミックリスクによる被害が想定されていないなどの問題が浮き彫りになりました。ここでは、感染症パンデミックにおけるBCP策定に関する問題点について解説します。

パンデミックに対するBCPの未策定

 「東日本大震災発生後の事業継続に係る意識調査(第5回)」の調査結果よると、「鳥・新型インフルエンザ等によるパンデミック」を想定し、病原体のパンデミックに対するBCPを策定している企業は減少傾向にありました。新型コロナウイルスの蔓延により、多くの企業が打撃を受けたことからも、パンデミックに対するBCPの策定が必要です。

 パンデミックに対するBCP策定における注意点としては、感染防止策を講じる点と、感染者が発生した際の代行者を指定しておく点、テレワーク環境の整備などが挙げられます。BCPに策定する項目は発生事象に関わらず同様であり、各項目において、これらの注意点を考慮する必要があります。

感染フェーズごとの対応手順の策定

 BCPは緊急事態下において、いつ、どこで、誰が、どのように対策を実行するかを詳細に定める必要があります。パンデミックに対するBCPにおいては、感染フェーズによってリスクや影響が異なるため、各フェーズで適切な対応策を明確化しておく必要があります。

 感染症は種類によっても症状や感染拡大のスピードが異なります。したがって、どのような感染症がパンデミックを起こしても柔軟な対応ができるように、日頃の教育や訓練を行い、BCPを都度改善していくことが重要です。

自然災害のBCP策定事例

 BCPは、事例やシナリオ例を参考にすることによって、学べることが多くあります。BCPは各企業の事業特性や、拠点の立地などの環境によって、想定すべきリスクや対応が異なります。自社と近しい状況・境遇の企業を参考にすると、より直接的なサンプルとして役立ちます。

船橋市の地震に対するBCP事例

 「船橋市業務継続計画(BCP)」によると船橋市では災害ごとのBCPを策定しており、本記事ではそのうちの地震編について紹介します。船橋市は首都圏に位置することから、「東京湾北部地震」を想定してシナリオを検討しており、行政機関であることに重点をおいたBCPを策定しています。

 船橋市の想定シナリオでは、震度6強の地震を想定しており、死傷者数5099人、電気や水などのライフラインもそれぞれ停止するとしています。ライフラインの復旧に要する期間も詳細に想定されており、具体的な被害想定をした上での対策検討がなされています。

 民間企業とのBCPの違いとしては、行政機関として、市民の生命や財産を最重要としている点です。また、市民だけでなく、訪問者や市内に立地する企業や関係機関も対象にしています。

福知山学園の新型コロナウイルスに対するBCP事例

 福知山学園が策定した「新型コロナウイルス感染発生時におけるBCP(事業継続計画)」に記載のとおり、福知山学園は新型コロナウイルスに対するBCPを個別に作成しています。福知山学園は障がい者や高齢者に向けたサービスを展開する企業であることから、感染症発生時に福祉施設が取るべき対応に重点をおいて検討されています。

 感染フェーズをステージと表現して分類しており、各ステージにおける詳細な対応策を明記しています。基礎疾患を持つ方や高齢者の存在を考慮した対策になっている点も特徴です。

総務省のICT部門におけるBCP訓練事例

 総務省のICT部門では、BCP訓練の方針や具体的な進め方を「ICT部門における業務継続計画 訓練事例集」として発表しており、自社のBCP訓練を検討する際の参考とすることができます。

 例えば、BCPを検討するメンバーの基礎教育においては、BCP理解度向上のためのイメージアップ教育訓練が参考にできます。具体的には、就業時間外に大地震が発生したことを想定した上で、自宅から職場に向かうまでの行動や、職場に到着してからの行動を討議しています。これによって得られた気づきを、実際のBCP策定に活かしています。

ポイントを抑えて災害に耐えうるBCPを策定しましょう

 これまで、東日本大震災の経験から、災害に対するBCPが重要視されてきましたが、新型コロナウイルスの蔓延によって、感染症のパンデミックに対するBCP策定の不十分な側面が浮き彫りになりました。BCPは、起こり得ないと思っていた緊急事態が発生した場合にも適用する必要があります。災害におけるBCPについてポイントを把握した上で、不測の事態に備える必要があります。

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