2019年7月16日に「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律」通称「中小企業強靱化法」が施行されました。この法律には、国が企業のBCPを認定するという制度やBCPに基づく活動を行うための支援措置についてなど、企業のBCP策定を後押しする内容が盛り込まれています。なぜ日本政府はBCP策定を推進しているのでしょうか。背景やBCP認定制度・支援措置について、詳しく解説していきます。
中小企業強靭化法について
2019年に施行となった「中小企業強靭化法」により、BCPにおける国からのさまざまな支援が打ち出されました。まずはBCPの策定が必要な理由や、現状の企業の取り組み状況を解説します。
成立に至る背景
日本では「西日本豪雨」や「令和元年東日本台風」「北海道胆振東部地震」など、多くの大規模な自然災害に見舞われました。さらに自然災害は毎年日本のどこかで起こっており、加えてテロなどの人為的な事件の勃発も否めません。
大規模な自然災害やテロの発生は、中小企業の事業縮小や倒産を引き起こします。このリスクの可能性が年々高まる昨今では、個々の中小企業は災害対応能力を高めることが課題となっています。これを受け、成立したのが「中小企業強靭化法」です。
中小企業強靭化法とは
中小企業強靭化法は、正式名称を「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を快晴する法律」と言います。中小企業強靭化法は、自然災害の発生や高齢化などにより、事業の経営環境が厳しい状況に置かれても、中小企業が事業を継続して行えるよう、国が支援を行うための法律です。たとえば、金融や税制面からの支援が打ち出されています。
中小企業強靭化法には2つの側面があります。1つ目は、自然災害やテロなどの被害の影響を受けやすい中小企業に対し、リスクマネジメントを求めるBCPとしての側面。2つ目は、少子高齢化による労働人口不足が深刻化する日本において、各企業が後継者を確保するという事業継続の側面です。
BCP策定は義務化されているのか
日本政府はBCP策定を推奨しているものの、企業にBCP策定を義務付ける法律はありません。つまり、BCP策定は義務化されておらず、努力義務にとどまっています。たとえばBCPと関連する法令に、2013年に施行された東京都の条例「東京都帰宅困難者対策条例」があります。
この条例は「多数の帰宅困難者が生じることによる混乱及び事故の発生等を防止する」ことを目的に、都が企業に対し「災害発生から3日間(72時間)の間、従業員を職場に止めておく」ことが求められています。義務化はされておらず、努力義務にとどまります。そのため具体的な対策や策定の有無の判断は各企業に委ねられます。
しかし、BCP策定や防災対策を行わないと、法務やコンプライアンスの面でのリスクが高くなります。たとえば防災対策が十分でないまま災害が発生して事業停止や従業員への被害が出た場合、企業はリスクマネジメントの低さを訴えられることもあり得るからです。
BCP認定制度について
中小企業強靭化法における具体的な制度には、BCP認定制度があります。その内容や意義、認定を受けるための方法について解説します。
BCP認定制度とは
「BCP認定制度」とは、中小企業のBCPの内容が適切であることを国(経済産業大臣)が認定する制度です。BCPが適切だと国に認められることにより、各中小企業はBCPに関連する支援措置を受けるために必要な資格を有することができます。
国が中小企業のBCPを認定する意義
国が企業のBCPを認定することは、その企業のBCPが適切な内容であることの証となります。BCP内容が適切であると国から認められることは、その企業のリスクマネジメントが適切であるという判断材料になり、取引先などからの信頼度が高くなります。
認定までの流れ
認定を受けるまでには、3つのステップがあります。1つ目のステップは、中小企業による国への申請です。2つ目のステップは、BCP内容の審査です。自社のBCPが事業継続力強化のために適切であるかという点について、国からの審査を受けます。
3つ目のステップは認定です。審査を受けた結果、事業継続に関して適切であると認められれば、中小企業は国からの認定を受けることができます。なお、中小企業強靭化法における各支援を受けるには、BCP認定を受けた後に、関係各所にて手続き申請を行うことで可能になります。
支援措置について
BCP認定を受けた中小企業への国からの支援には、財政的な措置と非財政的な措置の2種類があります。それぞれの内容について解説します。
BCP認定企業への財政的措置
財政的支援には「税制上の優遇措置」「金融支援」「補助金の優先採択」の3種類があります。「税制上の優遇措置」としては、防災・減災設備への投資に対する20%の特別償却の適用があります。
防災対策への投資とは、具体的には「100万円以上の機械装置(たとえば自家発電機や排水ポンプなど)」「30万円以上の器具備品(制震・免震ラック、衛星電話など)」「60万円以上の建物附属設備(止水板、防火シャッター)」になります。
「金融支援」には計画に必要な設備資金などに対し、日本政策金融公庫による低利融資が受けられます。「補助金の優先採択」とは、中小企業庁が所管する補助金採択にあたって加点が行われます。
BCP策定に取り組む企業への非財政的措置
非財政的措置には「BCP策定に向けたワークショップの開催」「専門家によるハンズオン支援」「商工会・商工会議所による小規模事業者の事業継続力強化の支援」の3種類があります。
「BCP策定に向けたワークショップの開催」では、国が中小事業者向けのワークショップを開催し、BCPの策定方法について専門家による講義やノウハウの紹介を行っています。「専門家によるハンズオン支援」では、各事業所に専門家を派遣してBCP策定を支援し、その費用の全額を国が負担するものです。
「商工会・商工会議所による小規模事業者の事業継続力強化の支援」は、とりわけ経営資源が乏しい中小企業や小規模事業者に対して行われます。商工会・商工会議所が市町村と共同して「事業継続力強化支援計画」を策定し、都道府県知事の認定を受けることで、BCP認定による特別措置を受けやすくするという支援です。
支援措置を受けるための要件
支援措置を受けるには、まず経済産業大臣からのBCP認定が必要です。中小企業は認定された後、希望する支援措置を受けるための手続きを行います。なお、経済産業大臣から認定を受けるためには、以下のポイントを盛り込んだBCPを策定する必要があります。
・自然災害が事業に与える影響の認識
・体制の構築
・事前対策の内容
・事前対策の実効性の確保に向けた取り組み
BCP策定に関する行政の活動
BCP策定を支援するために、行政ではどのような活動を行っているのでしょうか。内閣府と経済産業省の活動について紹介します。
内閣府の活動
内閣府では「事業継続に関するガイドラインの作成や更新」「実態調査やその結果の公表等」を行っています。さらに現状BCPの普及が進んでいないことを踏まえ、BCPに関する中小企業向けセミナーの開催や、中小企業向けのBCPガイドブックの作成を行っています。
経済産業省の活動
経済産業省はBCPの所轄官庁であり、BCPが実効性を伴うものになるための支援を行っています。
具体的には「危機対応演習」「事業継続能力評価指標」「初動対応及び事業継続対応演習テキスト」「模擬災害演習」といった委託事業を展開することで、中小企業に対しBCP策定の必要性を身近に感じてもらう活動を行っています。
「危機対応演習」は平時から演習を積んでおくことで、想定外の非常時に対して冷静な対応を促すためのものです。とくに「シナリオ非提示型シミュレーション演習」に重きを置き、各中小企業向けにイベントを行っています。「事業継続能力評価指標」は関連企業全体でBCPに取り組むため、事業継続能力の理解を共有する取り組みです。
「初動対応及び事業継続対応演習テキスト」は、各中小企業がより効果的な「シナリオ非提示型訓練」を行うために、訓練方法を検討・標準化し、各企業における訓練の質を高めるためのテキストです。「模擬災害演習」では「初動対応及び事業継続対応演習テキスト」に基づいて全国でイベントが開催されています。
支援を活用しBCPを策定することで有事の際に備える
中小事業の継続を目指し、BCP策定への支援制度が充実しつつあります。各企業はBCPを策定することで、万が一の事態にも素早く事業を再開し、業界シェア率の低下や顧客の流出を防ぐことができます。
リスクマネジメントが適切であることは、取引先などの関連企業からの信頼を向上させるというメリットもあります。自社の安定した事業継続のためにも、ぜひ適切なBCPに取り組んでください。
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