BCP(事業継続計画)の策定は、自然災害などの緊急事態が発生した場合に、事業への損害を最小限に抑え、早期復旧が可能となることから、多くの企業で導入されています。近年では、取引先や顧客からもBCP策定を求められるケースが増えていることから、その必要性は高まっています。本記事では、BCP策定手順をはじめ、受けられる支援などに関しても詳しく解説します。本記事を読むことでどのようにBCPを策定していけばよいのか、必要なステップを理解することができます。
BCP策定とは
「BCP」とは「Business Continuity Plan」の略で、「事業継続計画」のことを指します。BCPは企業がテロや災害などの危機的状況下に置かれた場合でも、重要な業務が継続できる方策を計画することです。
BCPは台風などの自然災害やテロなどの対外要因だけでなく、ストライキや不正発覚などの内的要因に対しても策定する必要があり、対策を怠ると自社が大きな損害を受けるだけでなく、取引先や社会にまで影響が波及する可能性もあります。
BCPの策定率
内閣府が提出した令和2年版防災白書によると、日本における令和元年のBCPの策定率は「大企業は68.4%、中堅企業は34.4%」であり、年々割合は増加しています。しかし、日本政府は2020年までに「大企業でほぼ100%、中堅企業で50%」というBCP策定率の目標を掲げており、目標到達には遠く及んでいない現状です。
他にも同白書では「東日本大震災以降に被災経験のある大企業と中堅企業」に対して、「被災時にBCPが役に立ったかどうか」という質問しています。
結果としては「とても役にたった」、「少しは役に立ったと思う」と回答した企業が全体の60%以上だったことから、BCPを策定することは有効であることがわかります。
BCPを策定していない企業の理由としては、「スキルやノウハウがない」ことや、「策定する人材が確保できない」といった理由が多く、策定のハードルが高いと感じる企業もあるようです。
BCP策定の必要性
BCPは緊急事態に被害を最小限に抑え、企業や地域の機能低下を回避するために必要となるものです。
総務省の調査によると、2011年の東日本大震災の際に、データが消失した企業が33%、業務システムが被害にあった企業は36%にのぼり、ネットワークの被害については70%以上の企業が被害を被ったと回答しています。
このように緊急事態が発生した場合、通常通りに業務が行えなくなる可能性が高いことや、従業員が被災することで、対応できるメンバーがいないなど、損害は確実に発生するといえます。
被害を最小限に抑えるためにも、緊急事態に直面してから対応するのではなく、あらかじめ計画しておくことが重要となります。
策定のメリット
BCPの作成は「企業」と「国や地域」それぞれにメリットがあります。
企業へのメリットとしては、「災害時の被害を最小に抑えることができる」のはもちろんのこと、「社会から信頼を得られる」ことが挙げられます。
BCPを策定することで、万が一の災害時にも被害を最小限に抑え、顧客や消費者にモノ、サービスを早期に安定供給できるようになることから、社会から信頼を得られることや社外に安定性をアピールすることができ、企業価値の向上に繋がります。
さらにBCPは策定して終わりではなく、訓練を実施することが必要になるため、緊急事態への意識向上や対応力向上が見込まれます。
国や地域へのメリットとしては、「連鎖的損害の拡大を防げる」ことが挙げられます。
ある企業がBCPを策定しなかった場合、取引先への供給は停止してしまいます。取引先がBCPを作成していたとしても、業務に影響が発生します。その影響が連鎖的に波及すると国や地域全体としての損害も大きくなるため、BCPの策定は損害拡大の防止に繋がります。
内閣府のガイドライン
BCPを1から作成するのは大変です。特に前述の調査結果にもあった通り、ノウハウがないことや、人材が不足していることがBCP策定のハードルを高くしています。
その対策として、内閣府ではBCP策定のガイドラインを発行しています。本ガイドラインにはBCPの概要から、盛り込むべき要件、策定後の訓練や教育、見直しや改善方法について記載されており、あらかじめ把握しておくことで、より効果的なBCPを策定できます。
BCPの策定手順
BCPは手順に沿って策定することで、効率よく策定を行えます。BCPの策定手順としては「基本方針の設定」、「リスクの洗い出し」、「リスクへの優先づけ」、「対応策の具体化」となります。
基本方針の設定
計画を行う際は、最初に基本方針を立てることが大切です。方針を立てずに解決策から検討してしまうと最重要項目の内容が薄くなり、それ以外の項目に重きが置かれてしまうことにも繋がるため、必ず最初に基本方針を作成しましょう。
基本方針として検討すべき内容としては「想定する緊急事態の絞り込み」と「BCPの推進体制の決定」が挙げられます。
全ての緊急事態に対してBCPを作成できることが最善ですが、時間と労力には限りがあるため、限られた中で最大限効果を発揮させるBCPの策定が重要となります。例としては、自社として発生しやすいリスクに絞ることや、発生した際の損害が大きいリスクの内容を厚くするなどが挙げられます。
推進体制については、全従業員がBCPの策定に参加することが最善ですが、効果的なBCPを作成するにはBCPの作成に注力する人材を割り当てることであり、推進体制をあらかじめ決定することが重要となります。
リスクの洗い出し
次に企業にとっての中核事業を洗い出し、それに対して何が起きると損害を被るか、リスクの洗い出しを行います。
中核事業とは「最も利益をあげている事業」であったり、「市場の評価や企業・団体への信頼を維持するために重要な事業」を指します。つまり、企業にとって停滞させたくない事業です。
その中核事業に対して、停滞するリスクは何であるかを明確にします。リスクは自然災害や人的災害、政治経済情勢などあらゆる場面を想定して洗い出します。
リスクへの優先順位づけ
想定した全てのリスクに対して、十分に対策を検討することが最善ですが、限りある時間と労力で最大限効果を発揮するBCPを作成するためには、発生するリスクに優先順位をつけて、優先順位の高いリスクから重点的に対応策を検討することが重要となります。
優先順位のつける際の判断軸としては、「そのリスクが発生した際の損害の大きさ」や「リスクが発生する頻度」などが挙げられます。
対応策の具体化
対応を検討するリスクの順位付を行ったら、具体的な対応策を検討します。検討する際のポイントとしては、「体制と要員が明確になっていること」です。
緊急事態下では普段と状況や対応が異なることから、従業員全員が冷静に判断を行うことは難しく、リーダーがトップダウンで指揮をとることが重要となります。あらかじめリーダーを決めることや、各人の役割を明確にしておくことで、いざというときにスムーズに対応することが可能になります。
さらに各業務の復旧に必要となるスキルを明確にし、緊急事態でも出社可能な従業員を対応要員として任命することが大切です。
BCP策定に対する支援
BCPの策定には時間とコストがかかるため、特に中小企業にとってはハードルが高くなります。それに対して国や地域がセミナーや補助金支給などを行っています。
セミナー・講座の開催
公益財団法人東京都中小企業振興公社では「BCP策定支援事業」を行っており、その一環として、「BCP策定のセミナーや講座」を開催しています。
BCP策定支援事業は大きく「知る」「つくる」「動かす」の3つの事業から成り立っています。
「知る」については、普及啓発セミナーを実施しており、BCPに取り組む重要性を理解できます。「つくる」については、BCP策定講座で基本方針を決定したり、専門のコンサルタントによる自社のBCP作成を支援してくれます。
「動かす」については、BCP策定後のフォローアップセミナーを実施しており、訓練などの企画を行うことができます。
補助金・助成金
前述の東京都中小企業振興公社では、中小企業に対して助成金を支給しています。他の地域でも補助金を支給しているケースがあるため、調べることをおすすめします。
補助金や助成金を受けるには経済産業省の認定を受ける必要があるなど、条件があります。
コンサルティング会社によるアドバイスも
国や地域ではなく、コンサルティング会社を活用してBCPを改善することも有効となります。
一定の費用は発生しますが、BCPが未策定の場合や、効果的なBCPではなかった場合に、被る損害や社会的なイメージダウンを考慮すると、最終的にはコストカットにつながる可能性もあります。
ただし、コンサルティング会社は多岐に渡るため、BCP策定に強みを持っているかなど、あらかじめ調べる必要があります。
BCP策定は取引先や顧客から求められる時代に
東日本大震災や新型コロナウイルスのパンデミックにより、BCPの存在はより重要視されるようになりました。緊急事態による損害は自社への影響だけでなく、取引先や地域、国にも波及する可能性があることから、自社だけでなく、社会を守るためにもBCPの策定は重要となりますし、今後は取引先や顧客からもBCPを求められる時代となります。
セミナーでBCPについて学んだり、支援制度を使用して、効果的なBCPを策定しましょう。
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