2021.10.29 (Fri)
いまどきのテレワーク事情(第15回)
漁港もリノベ!大型補助金で増えるテレワーク拠点
都内ではすっかり定着しつつあるシェアオフィスやコワーキングスペースは、地方でも施設数が増えています。特に空きビルや空き家を活用したコワーキングスペースは、地域発のイノベーション拠点や地元に暮らす若者の活動拠点としても利用され、地方創生の一助となっています。ここでは、地方の空きスペースを有効活用した事例や、リノベーションに使える助成金について紹介します。
深刻化する、地方の空き家問題
日本全国の空き家数は、2018年時点で846万戸。2013年から26万戸増加し、総住宅数に対する空き家率は13.6%と、1963年の調査以来、過去最高の割合を記録しています。また、地方を中心に人口減少はとどまることを知らず、2020年10月の人口推計では、40道府県で人口が減少し、前年に比べて26道県で人口減少率が拡大。9県に関しては1%以上の人口減少率を記録しています。
空き家だけではなく老朽化したビルや空き倉庫がそのまま放置されているケースもあり、倒壊や自然災害発生時のリスク、放火・不法侵入といった治安面も含めた問題が常態化しているのです。
こうした現状の改善に一役買っているのが、空き家や空きビルをリノベーションしたコワーキングスペースです。地域の人たちがテレワーク目的で利用するだけでなく、地域のつながりを深めるコミュニティ拠点や、地域経済のイノベーション拠点、さらに地元の若者たちの活動拠点としての役割を担うケースも。地方創生を盛り上げる大きなポテンシャルを秘めているのです。
古民家や廃校舎、漁港までテレワーク拠点に
コワーキングスペースで地方創生に貢献している事例をいくつか紹介しましょう。
長崎県壱岐島にオープンした「いいオフィス壱岐」は、築40年の古民家を活用したコワーキングスペースです。もともとはオーナーの祖父母が住んでいた住居で、祖父母が亡くなってから10年ほど物置になっていました。ほぼ全面リノベーションを行い、電源やWi-Fi、デスク環境を整備。壱岐の自然や田畑を眺めながら仕事に取り組めるほか、地元の子ども向けにロボット・プログラミング教室も開講するなど、地域のIT教育に取り組んでいます。
廃校になった小学校をコワーキングスペースとして蘇らせた事例が、愛知県名古屋市の「なごのキャンパス」です。「ひらく、まぜる、うまれる 次の100年を育てる学校」をコンセプトに、名古屋の今と未来に向き合いながら次の100年を担う人・モノ・コトが育まれることをめざし、コワーキングスペースやシェアオフィスを展開しています。定期的にワークショップやイベントを開催している点も特徴。給食室をリノベーションした飲食店やスポーツ利用ができる体育館、跳び箱を利用したテーブルや椅子と、随所に“学校らしさ”を残しています。
世界有数のリゾート地として知られる北海道ニセコ町にも、ユニークなテレワーク施設が誕生しています。「ニセコ中央倉庫群」と呼ばれるその場所は、かつて“でんぷん工場”として栄えていました。ニセコが繁栄していたころの象徴を残そうとプロジェクトが立ち上がり、テレワークオフィスへと生まれ変わったのです。2階のメインオフィスに加えて、1階にフリースペースとカフェを作り、無料で使えるWi-Fiや複合機、ディスプレイを完備。快適なテレワーク環境を用意すると同時に、天井のはりには当時使われていた巨大なでんぷん製造機の一部を再利用し、ニセコの歴史を後世につなぐ役割も担っています。
ほかにも、築90年超えの旧呉服店をリノベーションし、地域に必要な仕事やコミュニティの輪を広げることをめざす茨城県結城市の「いいオフィス結城 by yuinowa」や、古家をリノベーションしたコワーキングスペースで地元住民の子育て×仕事を応援する「TOCOTOCO」、静岡県焼津市の漁港空き倉庫を宿泊・飲食機能を備えたテレワーク拠点にリノベーションするプロジェクト(2024年完成予定)と、全国各地でユニークなコワーキングスペースが登場しています。
最大9,000万円交付の大型補助金に注目
最後に、コワーキングスペースの開設を強力にサポートする助成金を紹介します。
内閣府地方創生推進室が創設した「地方創生テレワーク交付金」は、地方公共団体に対して、地方でのサテライトオフィス開設やテレワークを活用した移住・滞在の取り組みを支援するもの。設備投資・運営の事業費に最大9,000万円、プロジェクト推進の事業費に最大1,200万円と、大きな交付額が話題になっています。
最近は都市部の企業が地方や郊外にサテライトオフィスを設置する動きも活発になり、人口減少や過疎化が進む地域の再興に貢献しています。その取り組みを支援するのが、東京都の「サテライトオフィス設置等補助金」です。都内の市町村や西多摩地域および島しょ地域でサテライトオフィスを設置する際、最大2,000万円の設備・改修費と最大800万円の運営費が交付されます。
いずれも細かい条件や審査があるものの、該当する企業や地方公共団体であれば使わない手はありません。都市部の企業が地方にも拠点を構えるようになれば、地元企業との共創や新たな人の交流が生まれ、地方創生をさらに盛り上げていくことができるでしょう。ほかにも各省庁や各自治体で独自の助成金を設置しているケースもありますので、興味のある人は調べてみることをおすすめします。
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