テレワークの急速な浸透に伴って、「働く場所は、会社内でなくてもよい」という価値観が広がりを見せています。そこで注目を集めているのが、旅先や帰省先などでテレワークを行う「ワーケーション」。単なるリフレッシュや気分転換ではなく、地域創生やビジネスの創出の場としても期待されています。その現状や魅力とは? 主な関連サービスも含めて紹介します。
旅行とテレワークの組み合わせで柔軟な休暇取得が可能
「ワーケーション」は、「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語です。避暑地や観光地などに滞在しながらテレワークを行うことで仕事と休暇が両立できるため、注目を集めています。
国内でいち早くワーケーションを採り入れたのが、日本航空株式会社(JAL)です。2017年7月、休暇期間中にテレワークで働くことを認め、制度としてワーケーションを導入しました。これによって「休暇期間中に急な会議などが入った場合、日程を変更しないで対応できる」「会社が協賛する地域のイベントなどに参加できる」などのメリットが生まれ、社員から「地域と共創するきっかけができた」という声が聞かれるようになりました。2017年夏期推奨期間の利用人数は11人とわずかでしたが、2018年は通期で174人に増加。ワーケーションを組み込んだツアープランの販売も始まったといいます。
株式会社アドリブワークスが実施した「『ワーケーションサービスの利用動向』に関するアンケート調査」によると、20代回答者のうち73.9%が、ワーケーションを通して「多拠点を短時間で巡り、多くの地域の魅力に触れたい」と考えていることがわかりました。また、30代のうち64.3%が「じっくり旅して、地域に眠る資源やチャンスを見つけたい」と、40代のうち66.7%が「各地域の事業に参加し、自分自身のスキルを試したい」と回答しており、若手世代は「地域理解」、ミドル・ベテラン世代は「地域ビジネス」を意識しているこがうかがえます。
こうした意識調査やJALの事例からもわかる通り、ワーケーションは、単なるリフレッシュや骨休めにとどまらず、ビジネスを創出する足掛かりになる可能性を秘めているのです。社員の気分転換や優秀な人材のつなぎ止めのためだけでなく、時代に合った新規ビジネスを生み出すためにも、いま、経済界から、ワーケーションに視線が注がれています。
ワーケーションに関連したウェブサービス
ワーケーションを実現するには、まず滞在拠点を確保しなければなりません。そこで注目したいのが、拠点を確保するためのウェブサービスです。
ワーケーションに特化した宿泊情報サイトや、毎月一定の金額を支払うことで全国各地の家に住むことができるサブスクリプションサービスなど、すでに多彩かつユニークなサービスが台頭しています。なかには法人契約ができる施設やサービスもありますので、興味をもったら、まずは下記に紹介するような「ワーケーションサービス」「多拠点/無拠点生活サービス」を調べるところから始めるとよいでしょう。
●Workations(ワーケーションズ)
ワーケーションができる宿泊施設を紹介する総合情報サイト。デスク、チェア、Wi-Fi、コワーキングスペースなどの有無がわかるようになっており、希望に合った仕事環境がある宿を見つけられる。
●なっぷ!
キャンプ場予約サイト。「Campsite Workation」と銘打った特設ページを設置し、Wi-Fi、電源、デスク、オフィス用品などが揃った「仕事ができるキャンプ場」を紹介している。
●HafH(ハフ)
全世界300以上のドミトリーやゲストハウスに宿泊できるサブスクサービス。月額利用料は3,000円~。月に2日だけ利用できる「おためしハフ」や、10日利用できる「ときどきハフ」、定額住み放題の「いつもハフ」など、多彩なプランが揃う。
2020年8月には不動産情報サービスの株式会社LIFULLが、「2023年までに100カ所のワーケーション施設を整備する予定である」と発表しました。他に、和歌山県白浜町、長野県軽井沢町でワーケーション施設を運営している三菱地所株式会社も、施設を増やしていく方針だと話しています。今後、ワーケーション制度を導入する会社の数だけでなく、ワーケーションが可能な施設の数も拡大していく見込みです。
「アドレスホッピング」や「デュアルライフ」など、多拠点生活が当たり前に?
「ワーケーション」とともに注目を集めているのが、「アドレスホッピング」という言葉です。アドレスホッピングとは、特定の住まいをもたず、ホテル、別荘、シェアハウスなどを移動しながら生活すること。学生やフリーランスを中心に受け入れられており、ビジネス誌では「近未来の暮らし方」「企業での受け入れもいずれ進むのでは」と報じています。他に、大都市と地域など二拠点を行き来しながら生活する「デュアルライフ」(二拠点生活)という言葉も、近年話題になっています。
これらのワードからは、地方回帰、多拠点生活の傾向が強まることが予測できます。ワーケーションだけでなく、アドレスホッピングやデュアルライフなど、ビジネスパーソンの選択肢は多種多様に。コロナ禍を契機に、さまざまな可能性を視野に入れ、今後の働き方、暮らし方を大胆に考え直すことができる時期が、すぐそこまで来ているといえそうです。
連載記事一覧
- 第1回 テレワークの課題1位は「相手の気持ちが読みにくい」 2020.05.14 (Thu)
- 第2回 ウェブ会議の「音切れ、時差、聞き取れない」解消法 2020.05.14 (Thu)
- 第3回 テレワークの「肩凝り、腰痛、ダラダラ作業」解消法 2020.05.21 (Thu)
- 第4回 コロナ禍でも絶えない“はんこ出社”の解決策は? 2020.05.21 (Thu)
- 第5回 最大450万円、まだ間に合うテレワークの助成金制度 2020.06.26 (Fri)
- 第6回 オンライン名刺交換は次代のビジネスマナーとなるか 2020.07.10 (Fri)
- 第7回 オフィス再編が活発に、5割縮小する企業も 2020.08.05 (Wed)
- 第8回 ビジネス創出の好機に? JALに学ぶワーケーション 2020.10.08 (Thu)
- 第9回 これだけは知っておきたい、オンライン名刺のキホン 2020.12.01 (Tue)
- 第10回 最大1,100万円! いまテレワーク移住の助成金が熱い 2020.12.23 (Wed)
- 第11回 成果が出るテレワーク、出ないテレワークの違いとは 2020.12.23 (Wed)
- 第12回 テレワークでやりがちなうっかりミス、実例と対処法 2021.02.26 (Fri)
- 第13回 テレワークで地域活性化、4億5000万円の経済効果も 2021.06.15 (Tue)
- 第14回 テレワーク実施率15.9%、自治体で導入進まない理由 2021.09.14 (Tue)
- 第15回 漁港もリノベ!大型補助金で増えるテレワーク拠点 2021.10.29 (Fri)