新型コロナウイルスの感染者数が増え続ける中、民間企業ではテレワークの導入が進んでいます。しかし、2020年9月に大手コンサルティング企業が発表したテレワークの現状調査によると、公務員の在宅勤務実施率は15.9%。依然として浸透していない状況が明らかになっています。実現へのハードルとなっているものやその背景にある事情とは?各団体独自の取り組みなども交えて、自治体職員のテレワークの今をひもときます。
市区町村団体のテレワーク制度導入率は19.9%
総務省が2020年10月に調査した地方公共団体におけるテレワーク取り組み状況の調査報告では、都道府県(47団体)・政令指定都市(20団体)の制度導入率は合計で95.5%に上るものの、市区町村(1721団体)はわずか19.9%。制度の導入すら十分ではない状況が浮き彫りになりました。また前出の、民間コンサルティング企業による公務員1000人に対する調査では、在宅勤務制度がある団体所属者のうち67.4%が制度を「利用していない」と回答。在宅勤務制度をただ導入するだけでは、実施には結びつかない状況も明らかになっています。
総務省によると、テレワーク制度未導入の理由として上位に挙げられたのは「窓口業務や相談業務などがテレワークになじまない」(82.7%)、「情報セキュリティの確保に不安」(78.6%)、「導入コストがかかる」(72.0%)の3点です。個人情報を取り扱い、窓口での応対が重要になる業務内容と、情報セキュリティの問題が実現への高いハードルになっています。それに伴い、業務に使用されるデータのやり取りや保管に行政専用の「総合行政ネットワーク(LGWAN)」が用いられ、リモート作業でもアクセスできる環境の整備にコストがかさむことや、時間がかかることも課題となっているようです。業務の性質上、住民と対面することが求められる福祉分野や、行政サービスという社会生活の基盤に関わる分野で重要な役割を担うからこそ、市区町村でリモート化が難しい状況が伺えます。
緊急事態宣言前に全職員対応の区役所も。導入に向けた独自の取り組みを紹介
そんな状況の中でも、テレワーク実現に向けた独自の取り組みを進める市区町村が増えてきています。
東京都豊島区は、2015年の庁舎移転をきっかけに全国の自治体に先駆けてテレワーク導入を推進してきました。無線LANを利用した庁舎内のフリーアドレス制導入や、ペーパーレス化と合わせて、まずは約100人の管理職にイントラネットワークへの接続が可能なタブレットを配布の上、テレワークを試行しています。その後2019年に管理職以外の一部職員、そして全職員へと対象者を広げ、新型コロナ拡大後の2020年には、政府の緊急事態宣言よりも早いタイミングで全職員のテレワーク対応に踏み切りました。
このとき、使わなくなっていた保管端末の設定を変更して活用したり、テレワーク先を自宅に限定して「自宅出張」とし、就業規則の変更を避けるなどの柔軟な対応が、迅速な導入の後押しになりました。また、テレワーク時の業務内容を各部署で洗い出したところ、感染予防対策で休館した施設や保育園から「施設で使う教材やおもちゃの製作を在宅業務として認めてほしい」という声が上がり、テレワーク下での業務内容を柔軟に考えるきっかけになったといいます。ここから、“テレワーク=在宅でパソコンを使った作業”だけでなく、より幅広い業務を実施の際の対象として捉えられるようになったそうです。
大阪府豊中市は、窓口の手続きをオンライン化することで、利用者の負担減と職員の働き方改革に取り組んでいます。同市は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年9月に「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発出しました。すでに電子申請やコンビニエンスストアでの対応を可能としているものから範囲を広げ、国民健康保険の脱退手続きや児童手当の認定請求、住民票の交付など、業務に利用するネットワーク構成の見直しやペーパーレス・電子決済への取り組みを加速。2022年までに、窓口で行っている手続きの100%オンライン化をめざすとしています。
普及のカギはスモールスタート。民間企業による支援サービスも登場
豊島区の施策では、まず管理職限定の試行で初期の端末準備のコストや負担が軽減されました。また、各部署の管理職がテレワークに対する理解を深めたことで、部下となる職員が心理的に利用しやすい環境が整い、コロナ禍での全職員への対策につながったといえるでしょう。豊中市のケースも、もともと実施していたオンライン手続きをさらに広げる形での取り組みとなっていることが伺えます。
近年では、民間企業による自治体のDXサポートサービスがテレワーク推進を後押ししています。例えば、テレワーク時のセキュリティ対策に関しては、国内のIT企業が、1台のパソコンで庁舎内・自宅の両方から「LGWAN」に接続できるテレワーク・ソリューションを販売し、兵庫県芦屋市が導入。また、2021年6月には国内の医療システムメーカーと電機メーカーが協業で、自治体におけるペーパーレスを支援する電子簿冊ソリューションの提供を始めました。
コストのかかるリモート専用の端末や大がかりなネットワーク環境の準備、規則の整備ありきではなく、まずは一部職員での試行や、現在進めている業務改革の延長といったスモールスタートでの実施を考えてみることが、今後の自治体テレワーク普及の足掛かりになっていきそうです。
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