コロナ禍をきっかけに、不測の事態でも事業継続をするため手段としてのテレワークに注目が集まっています。しかし、必要機器の導入や運用にかかわる資金不足により、テレワークの導入が進まないケースも少なくありません。今回はテレワーク導入を支援する制度と、その活用法を中小企業の事例を交えて解説します。
最大450万円の支援も、まだ間に合う助成金制度
テレワーク導入を促進するため、国や地方自治体は毎年、中小企業を対象にしたテレワーク導入推進の助成金や支援制度を設けています。ここでは、2020年6月時点で申請可能な制度をふたつ紹介します。
ひとつ目は、経済産業省による「IT導入補助金」です。日本国内で事業を行う中小企業・小規模事業者の指定された業種を対象に、ITツール導入費用の半額(最大450万円)が補助される制度です。ただし、補助の対象となるのは、事務局から認定を受けたITツールを導入した事業に限ります。
補助金の交付申請期間は2020年12月末までの予定です。申請にあたっては、経済産業省が運営する補助金申請システム「gBizID」でアカウントを取得する必要があります。3年の事業計画を策定し従業員に共有済であるといった条件や、ITツールを提供するIT導入支援事業者と連携する必要もあることから、それらを踏まえた申請計画を立てるとよいでしょう。
ふたつ目は、厚生労働省による「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」です。在宅またはサテライトオフィスでテレワークに取り組む中小企業事業主のうち、指定の条件に該当すれば、費用の一部を助成する制度です。支給対象となる取り組みを達成した場合には導入費用の3/4(最大300万円)、未達成の場合でも導入費用の半額(最大200万円)が補助されます。
交付の申請は2020年12月1日までですが、国の予算状況によっては早めに締め切られる場合もあります。また、同一年度に同一の取り組みに対して他の補助金を受給している場合には、支給を受けることができません。
製造業や不動産業でもテレワークは導入できる
こういった支援制度を活用しながらテレワーク環境を整えた中小企業には、「製造業」や「不動産業」といった業種の例もあります。
産業用精密機器を扱う製造業の株式会社スリーエスでは、結婚や出産によって働く意欲があっても退職せざるを得ないケースや、親族の介護をしながら働く社員が出てくることなどを見越して、支援制度を活用してテレワークの導入に着手しました。
製造業である同社では工場の生産ラインへの導入は難しいため、まず人事・総務、購買業務などを担当する社員を対象にシステムによる勤怠管理などの就業規則を整えました。携帯電話の内線化やウェブ会議システムなどのコミュニケーションツールを整備するとともに、セキュリティ対策としてVPNを導入。どこからでも社内サーバーにアクセスできるネットワークを構築し、営業社員が出張先からでも受発注や文書管理システムから資料閲覧や共有ができるようになりました。
不動産の再生事業を手掛ける株式会社アトリウムは、10名でのトライアルからテレワークを実施しました。職種や目的によって形態を分け、営業にはノートパソコンやタブレットを貸与しモバイルやサテライトオフィス勤務、事務職社員は在宅勤務としてオフィスパソコンへのリモートアクセス環境を整備しました。
トライアルの結果、社員からは通勤時間を育児や家事にあてることができたという声や、クライアントとの打ち合わせ後にすぐに資料をまとめられるといった声が上がりました。一方で、決裁書類の捺印などのための出社にどう対応するかといった、業務体制をペーパーレス化するためのIT環境整備などテレワーク定着への課題も把握できたといいます。
働き方改革やBCP対策への“先行投資”
パーソル総合研究所が6月上旬に実施した調査によると、テレワークが導入できない理由として、1位が「テレワーク制度が整備されていない」、2位が「テレワークのためのICT環境が整備されていない」という結果でした。また、緊急事態宣言が解除された後のテレワーク実施率は、全国平均で2.2%の減少が見られました。テレワークを行っていたものの、出社をはじめた人の理由を見ると、「制度が整備されていない」という回答が30.3%にのぼっています。
テレワークの制度や環境を整えるには労力とコストがかかりますが、中長期的には、働き方改革による人材確保やBCP対策となる取り組みです。助成金、支援制度をうまく活用しながらテレワーク環境を整備していくことは、自社の競争力を向上させる“先行投資”といえるでしょう。
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