2016.02.01 (Mon)

キーマンズボイス(第20回)

株式会社学研ホールディングス 代表取締役社長 宮原 博昭 氏

1946 年に教育者であった古岡秀人氏が創業した学習研究社(現学研ホールディングス)は「ずっと、いっしょに “まなび”をたのしく! ワクワク☆ドキドキ創造企業」を旗印に教育分野に特化した出版社として確固たる地位を築いた。
教育分野以外でも趣味・実用・エンターテイメント分野など、あらゆるジャンルにおける出版事業を展開するほか近年ではデジタル端末を活用した教育ICT にも力を注いでいる。
同社および教育ICTの現状と未来について、現代表取締役社長である宮原氏に伺った。

株式会社学研ホールディングス 代表取締役社長
宮原博昭(みやはら・ひろあき)


プロフィール
昭和34年(西暦:1959年)7月8日 広島県呉市出身
昭和57年3月 防衛大学校 卒業
昭和61年9月 (株)学習研究社 入社
平成15年12月 同社 学研教室事業部長
平成19年4月 同社 執行役員 第四教育事業本部長 兼 学研教室 事業部長
平成21年6月 同社 取締役(事業戦略、CSR 担当)
平成21年10月 (株)学研ホールディングス 取締役(事業戦略、CSR 推進 担当)
平成22年5月 同社 取締役(経営・事業戦略、CSR 推進担当)
兼(株)学研塾ホールディングス代表取締役社長
兼(株)学研エデュケーショナル代表取締役社長
平成22年7月 同社 取締役(経営・事業戦略、CSR 推進担当、デジタル事業戦略担当) 兼(株)学研教育出版代表取締役社長
平成22年12月 現職

“売れる”よりも“本物”を伝えたい!?

――“教育”という分野に特化した出版社として68 年の歴史を誇る御社が、創業から変わることなく持っている理念やこだわりについてお聞かせください

やはり“お客さま視点に立ったもの作りをする”ということ、これについては創業以来変わらない理念として強いこだわりを持っています。
ただ教育という分野においてはお金を払う人と利益を受ける人が違うものですから、そのなかでも私どもはお金を払う保護者の方や先生方ではなく、利益を受ける子どもたちの視点に立ったもの作りということにこだわってきたつもりです。

――その点についてもう少し具体的にお聞かせいただけますでしょうか?

例えば昆虫の図鑑。他社さまから出ている多くのものは表紙にかわいらしいイラストが使われています。
それは何故かというと、そのほうが買われるお母さんたちにはウケが良いんです。ですから顧客満足度を考えると私どももそれに倣うべきなのでしょうが、当社では、各種ある図鑑のほぼすべてが本物の昆虫の写真を表紙に使用してまいりました。
そこにはなにより子どもたちに“本物を伝えたい”という想いがあります。

――しかしそれでは肝心の売上げの部分に影響が出るのではないでしょうか?

はい。短期的に見ればそうですが、中長期的には必ずお客さまの信頼を得ることができると信じています。そして私どもの考えとして、子どもたちに最後はやはり本物に触れて欲しいという想いがあります。
例えば動物園や近所の公園で、動物や昆虫と直に触れ合い、そこで嗅覚や聴覚といった五感を使って学んで欲しい。そして図鑑というものはそのための導入部分であるべきなのです。だからこそ私どもは図鑑を作るときなどは、売上げ以上に本物にこだわったもの作りということを心がけております。

ICT は“教育”をどのように変えたのか!?

――以前、宮原社長が他のインタビューで“日本には優れた学びのノウハウある”といった趣旨の発言をされているのを拝見しました。その点について詳しくお聞かせいただけますでしょうか?

私は日本人というのは元々“教える”“伝える”ということがとても上手な国民だと思っています。
保護者の方が子どもに、先生が生徒にというのはもちろんですが、例えば匠の世界などでも自分の持っている技術を弟子たちに上手く伝えることでその伝統を伝承していく。途上国への技術移転でもそう、造船、鉄鋼、電機、自動車産業などジャンルを問わず、日本人は他のどの国よりも“教える”ということに長けているように思います。

――その要因はなんだと思いますか?

やはり一番大きな要因としては“親身になる”ということだと思います。そして全員に対し画一的に教えるのではなく、相手の環境や立場に立って教えようとする。これは意外に難しいことで、海外における教育では上から下への一方通行ということが多いようです。
しかし日本では昔から教育とは“教え育む”ことであり、学習とは“学び習う”こととして、うまくバランスを取ってやってきました。

――御社では学研教室をはじめとする学習塾なども展開しておられますが、そちらでもそういった点を重視しておられるのでしょうか?

はい。私どもが展開する学研教室やプレイルーム、ほっぺんくらぶでは、まだ塾が教科学習の場であった時代から一貫して“人間力をつける(知育・徳育)”という点に重きを置いてきました。
ですから今後は教材コンテンツだけでなく、そういった日本人の素晴らしいところである“ティーチングやコーチングの技術”というものについても積極的に海外に発信していくべきだと思いますし、私どもとしては、そういった“教育サービスの海外輸出”を新たな成長戦略のひとつにつなげていければと考えています。

――近年発展著しいICT ですが、ICT が教育分野に与えた影響などについて宮原社長はどのようにお考えでしょうか?

これはあくまで個人的意見ですが、ICTというものの登場が教育に与えた影響については、もはや進化や発展というレベルではなくイノベーションだと思っています。
例えば算数の教え方などといったものは大昔からほとんど変わっていません。しかしその(昔から変わらない)教え方では、いまだに教えられたことを理解できない子どもが存在する。それは結局教える側の先生の力量に左右される部分が大きかったということです。
図形や割合や比などでも同じです。図形についてわかりやすく教えるのには紙の上だけではどうしても限界がありました。しかしそれらがICTの発展により、電子黒板やタブレットを利用することで、教える側のレベルに左右されることなく、子どもたちによりわかりやすく理解させられるようになりました。
また、さまざまなハンディキャップを持った子どもたちや長期の入院などにより学校に通えない子どもたちに対する教育においても、教育コンテンツのデジタル化による効果は飛躍的に伸びてきているといって良いでしょう。

ICTで広がる“学びの場”の可能性とは!?

――引き続きICTが教育分野に与える影響について伺いたいのですが、今後教育分野におけるICTの活用はどのように進んでいくとお考えでしょうか?

いま現在の学校教育におけるICTの活用は(佐賀県)武雄市が行なっている反転授業や一部の実験校を除いて、電子黒板を用いて授業を行うなどの“授業のICT化”にとどまっています。
しかし今回私どもが品川区と協力して実施する「品川区トータル学習システム」事業では、子どもたちが自宅までタブレットを持ち帰ることが可能になりました。
確かに電子黒板などを用いた“授業のICT化”も既存の教え方をわかりやすくするという意味で大変有意義なものではありますが、タブレットを自宅に持ち帰って学習ができるということは、極端に言えば(学習を受ける人の)いままでの学習レベルをもう一段も二段も飛躍的にレベルアップさせることが可能になるといった可能性を秘めています。
例えば有名校や実績のある塾の数が少ない地方の子どもたちが、タブレットを通して都市部の子どもたちと同じ教育を受けることができるようになります。これによって、いままでは能力がありながら環境の影響で機会に恵まれなかった子どもたちの能力を伸ばしてあげることができるようになります。つまり教育の機会均等や、地域格差や所得格差をなくすことができるのです。

――今後、ICT化を進めていくうえで御社としての課題などはありますでしょうか?

やはり教育が、他の分野と大きく違う点としては、どれだけICT化が進んだとしても最後はやっぱり「教育は“人”」だということです。
ただただICT化だけをすれば良いというものではなく、ICT化されたものをチェックしコーチングする人間がどうしても重要になります。ですから私どもは今後もICT化を進めるとともに、並行してそれと関連するリアルの場もたくさん作っていきたいと考えています。

――ICTが御社の事業そのものに与えた影響などはありますでしょうか?

やはりビジネスチャンスが大きく膨らんだことが一番に挙げられると思います。コンテンツのあり方という意味で、ICTの発展により、それを記録することや多言語化することができるようになったことで、海外進出が容易になりました。
むしろICTの存在なしでは先程申し上げたような“教育サービスの海外輸出”はとても成り立たないとさえ思っています。

――御社の今後の展望、特に力を入れていきたい分野やサービスなどはありますでしょうか?

やはり当社としては、引き続き教育分野に力を入れていきたいと考えています。そのなかで、初等・中等教育を特に大事にするということはもちろんですが、それに加えて今後は高齢者向けの学びの提供というものについても積極的に進めていきたいと考えています。
既に当社では全国に84棟の高齢者向け住宅事業を展開しており、それらの施設の食堂などを利用して居住者のみならず地域の高齢者の方々に“もう一度学んでもらおう”という場を作ろうとしています。
例えば、既にサービスを開始しているものとしては、認知症予防のための脳活性ドリルといったものがありますし、今後はそれに加えて日本書紀や俳句といった高齢者に人気の高い趣味の分野の学びについても積極的に提供していければと考えています。

積極的なコラボレーションで更なる成長を!

――宮原流、人材育成術についてお聞かせください

人材育成術といって良いのかわかりませんが、私が社長に就任してから研修制度については少しだけ変えさせていただきました。
ひとつはジュニアボード制度の導入。これは他の企業さまでも近年導入されているケースをよく目にしますが、若いうちから自分が取締役になったつもりでいろいろなこと経験していく。具体的にはまず経営者として必要な知識等をグループワークで学び、そこで得たものから実践テーマを自ら設定し、1年間かけて実行していく。それらのなかから最終的に優勝者を決めて、場合によってはそれを実際に事業化するところまで進めるケースもあります。

――過去にどういった事業がこちらの制度からうまれたのでしょうか?

この制度は既に三期目が終わり現在四期目なのですが、例えばあるグループが考えたプロジェクトから生まれた“マレーシアに日本式の高齢者介護のサービスを輸出し、人材を受け入れる”という事業は既に運営を開始していますし、別のグループが考えた“保育園へのICTの導入”といったプロジェクトもスタートしました。
また、いま申し上げたジュニアボード制度は経営層をめざす一部の社員が対象のものなのですが、それとは別に全社員を対象としたG-1 グランプリ(Gは“GAKKEN”のG)という制度があり、その第1号優勝者が“日本における最高峰の幼児教育”を提供するための新会社を立ち上げるなど、具体的に活躍しているといった例もあります。

――最後に他の経営者の方々に宮原社長からひとことメッセージをお願いします

いまは昔と比べ一社だけで準備をし、なにかを作り上げ、成長していくということがなかなか厳しい時代になってきたと思います。
ですから考え方、志の合う企業さまとは今後積極的にコラボレーションをして共にひとつのものを作り上げ、マーケットを拡大し、海外へも進出していければと考えていますので、そういった部分で協力関係が築ければ嬉しいかぎりです。

――ありがとうございました

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