2025年4月1日利用分より、フレッツ 光ネクスト(一部サービスタイプ)の月額利用料を改定します。詳細はこちら別ウィンドウで開きますをご確認ください。

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2016.02.01 (Mon)

キーマンズボイス(第10回)

株式会社AOI Pro. 代表取締役社長 藤原 次彦 氏

プロレスラーの武藤敬司氏を起用した「神撃のバハムート」、俳優の役所広司氏と八嶋智人氏が絶妙な掛け合いを見せる「ダイハツムーヴ」など、話題のCMを次々と制作しているAOI Pro. 。
自らもCM制作の現場プロデューサーとして活躍した後、44歳で異例の抜擢を受けて社長に就任した藤原次彦さんに、経営者のあり方や人材育成の秘訣を伺った。

株式会社AOI Pro. 代表取締役社長
藤原次彦(ふじわら・つぎひこ)


経歴
1965年、東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、株式会社東洋シネマを経て、株式会社葵プロモーションに入社。CMプロデューサーとして数々の話題作をプロデュースし、数々の賞を受賞。特に野球評論家の小林繁氏と野球解説者の江川卓氏が“空白の一日”から28年ぶりに再会し、静かに杯を酌み交わす日本酒のCMは話題をさらった。
2004年同社取締役、2010年歴代最年少の44歳で代表取締役社長に就任。2012年7月1日、社名を「株式会社葵プロモーション」から「株式会社AOI Pro.」に変更。
中学時代はテニスで神奈川県代表。趣味のゴルフはH.C.3、ビリヤードの腕前もプロ級。

敵をつくるのが大嫌い。目指すは「八百方美人」!

――まずは藤原さんがCMの世界を志した経緯を教えてください。

小学生のころは「神童」と呼ばれていまして…冗談です(笑) 医者になって事故の後遺症を患っていた父の体を治したいと思っていました。中学から進学校に入ったんですが、テニスに夢中になって成績はガタ落ち。進路を決める高校2年生のときには、もう医学部は無理だと自分でわかっていました。
じゃあどうしようと考えていたとき、卒業生に進路について聞く機会があり、その中に日本大学芸術学部から映像制作会社に入った人がいたんです。その人の話がとにかくおもしろくて、「よし、ここだ!」と。偏差値で測りきれない世界に魅力を感じたというか(笑) 大学卒業時にはCM制作の現場をやりたいと思い、前の会社を経て葵プロモーション(現AOI Pro.)に入ったんです。

――その後28歳という若さでプロデューサーに昇進。数々の名作CMを世に送り出しました。

当時はちょうどCM全盛期でたくさんの仕事に恵まれましたし、私自身、とんでもない量の仕事をこなしていました。プロデューサーは、クリエイター気質の人と営業気質の人に大別できると思うのですが、自分は6:4で営業気質。人と話すのが好きだし、人と人をつないだり、仲を取り持ったりするのも得意。プロデューサーとして人と人の間に入り、起爆剤となったり潤滑油となったり、スタッフのモチベーションを高めたりして、クリエイティビティを支えてきたつもりです。
自分にとってプロデューサーという仕事はまさに天職。敵をつくるのが大嫌いなんですよ。「八方美人」という言葉があり、あまりいい意味で使われませんが、自分は「八百方美人」を目指しています。
地球上の人口が70億人いるなら、70億人全員から愛されたいんです。人から嫌われるのは、意外と簡単なんですよ。誰からも愛されることの方がずっと難しい。

とんとん拍子に出世。社長を辞めるときはいつ!?

――38歳で取締役、41歳で常務、43歳で専務、そして2010年に歴代最年少の44歳で代表取締役社長に就任と、あまりに順調な出世ぶりですが、社長に就任されてから何かご自身の意識に変化はありましたか?

よく「ジュニアですか?」などと聞かれることがありますが、会社には何のコネクションもありません。サラリーマンとして与えられた分野で力を尽くしてきた結果、こうなったということです。
役員になったとき、社内の財政状況や人間関係などを知り、いろいろと思うところはありましたが、基本的にさほど意識は変わりませんでした。実際、プロデューサーと兼務していましたしね。ただ、社長になって風景が一変しました。後ろに誰もいないという、なんともいえない孤独感と激しい緊張感があり、常に切り立った崖っぷちに立たされている感じです。就任当時は、よく眠れない夜が続くこともありました。

――ご自身のことを、社員から見てどのような社長であるとお考えですか?

社長として嫌われていないだろうか、リスペクトされているだろうかといつも考えています。
部下や社員が私の愚痴を言うのは大いに結構です。ただ、私が社長であるうちは、「ウチの社長はあの人しかできないよね」と思ってほしい。私以外に適任の人物が出てきて、社員もクライアントも「この人の方が社長にふさわしい」と考えるようになったときは、喜んで社長の席を譲りますよ。そのような人物を育てることも、私の重要な仕事です。
私は、会社の代表だけは、年齢などで決めるものではないと思っています。他の業務とは全く異なりますから。部下が誰を望んでいるかが決め手になるのです。弊社グループには700人ほど社員がいますが、現在のところは「藤原でよし」と思ってくれていると信じています(笑)

クリエイティブは模倣。ゼロから生み出そうとするな

――数々のユニークなCMをプロデュースしてきた藤原さんですが、クリエイティブなアイディアはどのようにして生まれるものだとお考えでしょうか。

優れたクリエイターの方々がいらっしゃるのに、プロデューサーの立場から語っていいものかと思いますが、あえて誤解を恐れずに言うならば「クリエイティブ=模倣である」と思っています。すでにあるものを上手に研究し模倣し、その上に新しい価値を加えるのがクリエイターの仕事。アレンジ力や経験値が重要なのです。
ただし、真似だとわかると格好が悪い。そのためには、いろいろなものに好奇心を持ち、自分の引き出しを増やさないと。社内のクリエイターたちが煮詰まっていたら、私はゼロから生み出そうとするな、映画館や本屋に行け、と言っています。
経営もクリエイティブな仕事です。私もひとりの時間があれば本屋に行きます。松下幸之助さんやドラッガーなどのビジネス書だけでなく、医学書や小説も含めて乱読し、引き出しを増やすように努めています。

社長はゴルフに行ってしまえばいい!?

――今後さらにIT化が進む中で、どのような展開をお考えですか?

創業50年以上経っている会社は広告制作業界では数社しかなく、弊社は老舗です。“餅は餅屋”というように、自社の得意分野をさらに伸ばすのがまず重要で、AOI Pro.は、今後も映像コンテンツを作るプロダクションであり続けるということです。
その上で新しく始める事業がバリューを生むかどうかをデータやリサーチなどから検討するわけですが、最終的な判断は経営者の動物的な勘です。
IT化が進めば進むほど、デジタルテクノロジーが進めば進むほど、それぞれの媒体に最適化されたコンテンツが求められるようになるでしょう。プラットフォームビジネスを持っているところと組めば、弊社の強みをいかすことができるし、お互いにシナジーを生み出せると考えています。

――藤原流・部下の育て方を教えてください。

自分から部下を好きになり、とにかく仕事を任せることです。任せたら口を挟まない。そして最後は自分が責任を取る。そうできないワンマン社長さんは多いのかもしれません。いつまでも「俺しかいない」と思っていたら、会社は一代限りで潰れてしまいます。そうではなく、任せるところは任せて、社長はさっさとゴルフや会食に行ってしまう勇気が必要だったりするんです!(笑)
私は、仕事に対して7つのキーワードを「AOISM(アオイズム)」として掲げ、社員に徹底するように求めていますが、その中の一つに「随所に主となれ」という言葉があります。1本のCMができるまでには、実に多くの人々の力が関わっていますが、脚光を浴びるのはその中の一握りだけ。しかし、バックオフィスの人間も、自分の持ち場で活躍し主役となるべきです。そして上に立つ者は、わき役に徹する人間の姿もきちんと見届けなくてはいけない。

――長く不況と呼ばれる時代が続きましたが、ともに経営者として日々闘う方々に藤原社長からメッセージをお願いいたします!

「手を取り合いませんか」ということです。その会社で社長という立場にいるのは一人だけ。常にプレッシャーにさらされています。私は他の社長と話をすると勇気が出ますし、私も彼らに勇気を与えているかもしれない。
日本には、非上場も含めると約420万社もの会社があるそうです。あるデータによると、そのうち1周年を迎えられる会社の確率は60%。これが10周年になると2~3%、50周年ではわずか、0.7%。1000社のうちのたった7社しか、50周年を迎えることができません。つまりどういうことかというと、「適当にやっていたら会社は絶対に潰れる」ということです。
経営に悩んだり行き詰まったりしたときは、自分の部下やクライアントさんだけと話すのではなく、積極的に異業種の社長と話をすることが重要で、特に異業種なのにビジネスモデルが近いところに、経営の最大のヒントがあります。たとえば、建設業界の社長さんと話すといろいろ気づくことがありますが、建設業界も受注業なのでCM業界と結構近いところがあるからなんですね。
私は連絡をもらえば、お互いのスケジュールを合わせて業種を問わずどんどん会っています。ですから、他の経営者の方々には、「僕と飯食いに行きませんか?」「ゴルフに行きませんか?」とお伝えしたいですね(笑)

――ありがとうございました。

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