2016.02.01 (Mon)
キーマンズボイス(第11回)
株式会社デジタルハーツ 代表取締役社長 河野 亮 氏
ソフトウェアやコンテンツ開発において発生するバグを見つけ出す作業であるデバッグ。デジタルハーツは日本初のデバッグ専門企業として2001年に誕生し、それからわずか10年で東証1部上場を果たした。(現在は、持株会社体制に移行しているため、株式会社ハーツユナイテッドグループとして東証1部上場)
元フリーターやニートといった人材を積極的に雇用し、アメリカ・マイクロソフト社からも賞賛を受けるというデバッグのプロ集団へと成長した同社の代表取締役社長CEO河野亮氏にお話を伺った。
株式会社デジタルハーツ 代表取締役社長 CEO
河野亮(こうの・りょう)
経歴
平成7年3月 大成高等学校 卒業
平成13年11月 株式会社デジタルハーツ入社
平成23年6月 株式会社デジタルハーツ 取締役就任
平成24年4月 株式会社デジタルハーツ 常務取締役就任
平成25年10月 株式会社デジタルハーツ 代表取締役社長 CEO就任
創業時はアルバイトだった!?デジタルハーツ誕生秘話
――まずは河野さんと創業者であり前社長の宮澤さんとの出会いからお聞かせください
元々、僕や宮澤(創業者・前社長)、そして創業メンバーの多くはそれぞれが個人事業主という名のフリーターのような立場でした。その頃のゲームのデバッグ作業というと作品毎にメーカーがアルバイトを集めてプロジェクトチームを作り、作品が終われば即解散、そしてまた別のプロジェクトがあれば雇われて…の繰り返しで、僕自身デバッグの仕事がない時期は別のアルバイト等をしながら生活をするという日々でした。
そんな感じでメーカーも作品も毎回違うプロジェクトばかりだったんですが、何故か宮澤や創業メンバーたちとは新しいプロジェクトになって顔を合わせる機会が多く、そういった事が重なっていく内に自然と仲良くなっていきましたね。
――そして起業へとつながった。その時の河野さんのポジションはどういったものだったんですか?
僕自身は正式な創業メンバーでは無いんですが、アルバイトという立場で創業時から事業には参加していました。まだまだ僕も若かったので宮澤からの誘いに対して『面白いんだったらいいよ』みたいな感じで軽く答えたのを覚えていますね(笑)
――起業の一番のきっかけは何だったんでしょうか?
先程も申し上げたようにその頃のデバッグ作業というと作品毎にチームが作られては解散の繰り返しですから、結局メンバーもメーカーも毎回違う訳で、そのやり方ではバグのノウハウというものが全然溜まっていかなかったんです。
例えばあるRPGシリーズのデバッグをする時に1作目を担当したメンバーがそのまま2作目も継続して行う方が色んな意味でスムーズだと思いませんか?
宮澤は、それだったらこれを会社にして(会社としてひとつのチームが)継続的に色んなデバッグを請け負った方がノウハウも蓄積され、効率も質も良いデバッグが出来るんじゃないかと考えたんです。そうすることで、アルバイトという立場だった僕たちが同じ仲間と仕事を続けていけるという点も大きな理由でした。
最大の危機から生まれたターニングポイント!?
――御社にとってのターニングポイントはいつですか?
設立してから3ヶ月が経った頃、大手ゲームメーカーのデバッグ作業を我々が請け負える事になり、一気に会社の規模は大きくなりました。いきなり200人程度を雇入れることになり、年間の売上も大きく伸長しました。勿論売上のほとんどがその1社からのものでした。
――そこがターニングポイントだったと?
いえ(笑) 実際それをきっかけに会社は順調に伸びていったんですが、その大手クライアントが日本のデバッグチームを解散するということで、ある日突然売上の9割を失ってしまったんですね。その頃が多分一番大変な時期だったと思います。
そんなある日、宮澤が突然テスターも含めた全社員を集めてこう宣言したんです。『これからの一年、みんなの力を合わせて昨年の売上を1円でも良いから超えよう』『その為にひとりひとりがそれぞれの力で少しずつでも良いから仕事を取りにいこう』と。
――結果はどうだったんですか?
超えました。僕自身正直はじめは半信半疑と言いますか、本当に出来るのかな?という想いもありましたが、どうにかそれまで培った人脈や経験を活かして精一杯やった結果、会社全体で目標を達成する事が出来たんです。
その一年間は大手クライアント1社から仕事を頂いていた時期に比べて本当に色んな意味で大変な一年でしたが、本当に楽しい一年だったとも思います。『このメンバーでこれからももっと仕事をしていきたい』達成した瞬間、そんな風に心から思った事を覚えていますね。
今振り返るとあの日の宮澤の宣言がデジタルハーツにとっての大きなターニングポイントになったと言えるかもしれませんね。
デバッグに一番大事なことは想像力!?
――実際のデバッグ作業においてもっとも大変なのはどういった点ですか?
ゲームのデバッグに関して言えば、ゲームって昔から仕様書がないんですよ。すべてはプロデューサーの頭の中。仕様書が無いという事は何が正しいかたちなのかを示すものが無いワケですから、我々デバッガーはそれを推測しながらバグを探し出さなければならない。
つまりプロデューサーの意図や作り出そうとしている世界観を想像し、理解しながら作業をしていかなければならないんです。そこはやはり大変な部分だと思いますね。
――御社の掲げる“Checked by Japan”についてお聞かせください
あくまで我々の考えですが、日本人って“作り出すこと”はそんなに得意じゃないと思うんです。だけど既にあるものを“改善していくこと”には優れている。0を1にするんじゃなくて、1を100、そして300にしていく事には長けていると思うんです。
例えば車だってそう。生み出したのは欧米人ですが、それを良いものに改善してきたのはやっぱり日本のメーカーだと思うんです。 じゃあ何故日本人がそういった“改善していくこと”に長けているか。そこには欧米人にはない日本人特有のきめ細やかさや遊び心があると思っています。
我々はそういった日本人の特性を活かして、これからもモノづくりの一番最後の部分を担保する、チェックするといったとても重要な役割を担っていければと考えています。
フリーター、ニートは“ニュータイプ”だ!?
――御社はいわゆる“フリーター”“ニート”の方々を率先して雇用されていますが、その辺りの理由についてお聞かせいただけないでしょうか?
僕は彼らの中にはとても有能な人材が多いと思っています。特に彼らの多くは物心がついた時から携帯やネットというものに触れ合っていて、とにかくITリテラシーが高い。
少し変な言い方になりますが、僕や宮澤から見て彼らって“ニュータイプ”なんですよ(笑)例えばあるレースゲームのデバッグをするとします。彼らはいきなり最初に(コースを)逆走をしたりするんです。
それって僕や宮澤には無い感覚であり発想で、でもそういった100人に1人もしない行動の中に意外なバグが隠れていたりするんです。
“フリーター”や“ニート”というとどうしても世間的なイメージはあまり良くありません。でも僕は彼らってきちんとした環境と役割を与えさえすればものすごい力を発揮すると思っています。
彼らの中には人とコミュニケーションを取るのが苦手できちんとした役割を与えられず、能力はあるのに以前の職場で上手くいかなかったという者もいます。でも僕や宮澤は僕ら自身が元々彼らと同じような立場や環境に身を置いていましたから、彼らの気持ちが誰よりも理解出来るし彼らにやる気ややりがいを持ってもらえる環境を作ることが誰よりも出来ると思っています。それには自分自身がやる気を出せる環境づくりをすれば良いだけですから。
今、日本にはフリーターと呼ばれる人たちが約60万人いると言われていますが我々はこれからももっと多くのフリーターの方々に能力を発揮出来る環境を作り、一緒に働いてもらいたいと考えています。
――御社の一番の強みについてお聞かせください
やはりまずは独自の組織力。フリーターやニートといった、他の企業さんで雇用される機会の少ない人材を雇用しその能力をフルに活用しているところは当社の強みのひとつだと思います。それから13年の歴史の中で培ってきた約75万件のバグに関するデータベース。
正直今当社にあるバグのデータを利用すれば、これから出て来る製品も含め大体のデバッグに対応出来ると考えています。
ただ、やっぱり一番の強みは社名にもある“ハート”の部分だと思いますね。社名を決める時に『これから世の中はどんどんデジタル化していく』と考え、デジタルの文字を入れることは最初の方から決まっていました。
じゃあそのデジタルと何を組み合わせるか…それを色々と考えた結果『どれだけ社会がデジタル化されても、やっぱり最後はハートが大事なんだ』という想いでまとまり、今の社名に決まりました。その想いは今も僕や宮澤、創業のメンバーの全員が持っていますし、むしろその後の社員たちにも派生し広がっていると思います。
やはりハートのない商品は最終的にはつまらないし、僕たちはこれからもその部分を一番大事に一番の強みとして歩んでいきたいと思っています。
――最後に現在の社長の思いと他の経営者の方々にメッセージをお願いします
僕自身まだまだ社長に就任したばかりの新米経営者なのであまり偉そうな事は言えませんが、やはり経営者という立場にいる人間は常に笑顔でいなければいけないと思っています。
社長がつまらない顔をしている会社は他の社員たちがどんなに頑張っていてもつまらない会社になってしまうと思うんです。だからこそ苦しい時でも前を向く、その苦しさを楽しむぐらいの気持ちで“苦しいな”を“楽しいな”に変えていく。下を向いてもはじまらない、上を向くことで何かが生まれるんだと、そんな想いを僕も宮澤も常に持つようにしています。また社員にも同じことを言っています。
僕たちが笑って仕事をするからお客さまも喜んでくれるんだと。
だから僕自身というよりも、僕らデジタルハーツの言葉として、本当におこがましい言葉かもしれませんが、他の会社の経営者や社員の皆さんがもし今あまり元気が無いのだとしたら、まずは笑って前を向いてくださいという言葉を贈りたいですね。
――ありがとうございました。
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