2016.02.01 (Mon)
キーマンズボイス(第14回)
株式会社ネクスト 代表取締役社長 井上 高志 氏
総掲載物件数約448万件(2014年1月度平均)は業界ダントツNO.1。不動産・住宅情報サイト『HOME’S(ホームズ)』は圧倒的な情報量と使いやすさを武器に訪問者数においても常に業界トップクラスを誇っている。
そんな人気サイトを展開するネクストの創業者であり代表取締役を務める井上高志氏に同サイト誕生のきっかけやこだわり、そして住まいさがしの未来予想図について伺った。
株式会社ネクスト 代表取締役社長
井上高志(いのうえ・たかし)
経歴
1968年生、神奈川県横浜市出身。青山学院大学経済学部卒業。新卒で入社した株式会社リクルートコスモス(現、株式会社コスモスイニシア)からリクルートへ出向・転籍後、「不動産業界の仕組みを変えたい」との信念から、1997年、株式会社ネクストを設立。
インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指し、不動産・住宅情報サイト『HOME’S(ホームズ)』を立ち上げ、掲載物件数No.1のサイトに育て上げる。2011年からは『HOME’S』のアジア展開にも着手。
座右の銘は、ネクストの社是でもある「利他主義」。究極の目標は「世界平和」で、事業活動を通じて、「不安」「不満」「不便」といった社会に存在する「不」の解決を目指し、ネクストの事業の他、個人でもベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開している。
“変えたい”という想いからすべては始まった!?
――はじめに創業のきっかけや『HOME’S(ホームズ)』誕生の経緯についてお聞かせください
最初のきっかけは「不動産業界を変えたい、変えなきゃいけない」という想いでした。
私は22歳で就職した会社で不動産業界に足を踏み入れたのですが、入社間もない頃に担当した若いご夫婦のマンション探しを通じてこの業界の事業者本位の構造や慣習の前に、多くの消費者が不安を抱えたまま住宅購入に臨まなければいけないという現実を目の当たりにしました。
住まいというのはおそらく多くの人にとって人生で一番大きな買い物です。平均的な年収の会社員が35年ローンで住宅を購入すると、その支払総額は生涯所得の1/4~1/3になると言われています。
そんな重要な買い物にも関わらず当時の不動産業界では業者側と購入者との間に大きな情報格差、“情報の非対称性”というものが存在しました。
――具体的にはどのようなことでしょうか?
例えばデベロッパーや仲介の不動産会社がそれぞれ多くの情報と知識を持っているのに対し、購入者はそういった情報等を容易に得ることができないような状況に置かれていました。
その結果事業者側では「このお客さまの年収と頭金だったらこちらの物件を当てはめておいた方が当社の利益につながる」といった思惑や駆け引きが、購入者そっちのけで行われていることがありました。
私はその時まだ入社2ヶ月の新人でしたが、そんな状況を許しているこの業界を絶対に変えなければいけないと思いました。
そしてそのためにまずすべきことを考え続けた結果、たどり着いた答えが“(住宅)情報のプラットフォームを作り情報格差をなくす”ということでした。
情報格差をなくすことでデベロッパーや不動産会社はある意味ウソや騙しとも取れてしまうようなオーバートークをすることができなくなり、それがやがてはお客さまの満足にフォーカスするようなサービスへと転化していくだろうと考えたのです。
――そんな井上社長の想いから生まれた『HOME’S(ホームズ)』はいまや名実ともにNO.1不動産・住宅情報サイトの地位を確立したと思うのですが、改めてそのこだわりや強みについてお聞かせください
今も申し上げたように当社のサービスは元々“情報格差をなくしたい”という想いからスタートしております。ですから、できるだけ多くの物件情報を提供するという点においては非常に強いこだわりを持って取り組み、現在、『HOME’S』は国内No.1の約450万件の物件情報を提供するサイトになりました。
一方で、大量の情報の中から求める情報にスムーズにたどりつけるよう、同じ建物の階違い、間取り違いの物件をまとめてみられる表示方式を採用するなど、使いやすさの面でも常に改善を繰り返しています。
今後も、『HOME’S』をみればすべての情報があるという状態を目指して情報量を増やしていきますし、一人ひとりにぴったりの情報を提案するレコメンデーションエンジンの研究開発も進めています。
これはユーザーの行動ログを見ながら「実はこういう物件を探していませんか?」とレコメンデーションをしていくサービスです。そう言うといくつかのECサイトさんで見られるような協調フィルタリングをイメージされるかもしれませんが、不動産事業の場合「この物件を購入した人はこの物件も購入しています」といった薦め方をするわけにもいきませんので、それよりももっと先々を推測し一歩踏み込んだ実用性のあるレコメンデーションをしていくことが求められると考えています。
例えば資金繰りや住宅ローン回りに悩んでいるユーザーには、いきなり物件を薦めるよりもその計算方法や正しい知識を教えることやローンシミュレーターをサイト内に設置することなどもその一環と捉えています。
ネクストが目指す“住まいさがしの未来予想図”とは!?
――そのようなきめ細かいサービスを実現させるため、御社ではシステム開発をすべて内製で行なっていると伺ったのですが?
はい。やはりシステム開発を外注で行うと、どうしてもコミュニケーションにロスが出ます。
その結果スピード感が損なわれたり、思ったとおりのものが上がってこなかったりとさまざまな弊害が生まれてしまいます。特に当社の運営するサイトの多くは金融システムのようなウォーターフォール型※1の開発ではなくスパイラル型※2で日々開発を続けなければいけない特性のものです。
しかしそれを外の人とやっているとスピード感だけでなくノウハウの蓄積や習熟を上手く使えないことにもつながりますので、その部分を内製にこだわることはサイトの質を上げていくためには必要不可欠なことだと考えております。
※1. ウォーターフォール型(ウォーターフォールモデル)
システムの開発手順を示すモデルの一つ。システム全体を一括して管理し、分析・設計・実装・テスト・運用を、前の工程への逆戻りが起こらないように行っていく手法のこと。
※2. スパイラル型(スパイラルモデル)
システムの開発手順を示すモデルの一つ。システムの一部分について設計・実装を行い、顧客からのフィードバックやインターフェースの検討などを経て、さらに設計・実装を繰り返していく手法のこと。
――今後住まいさがしはどう進化すると思いますか?また御社はその中でどのような未来予想図を目指すのでしょうか?
わかりやすい例を挙げると、いちいち不動産会社とやりとりをして現地まで見学にいかなくても“ここでOK”と思ってもらえるようなところまでICT化が実現できれば良いなと思っています。
例えばグラス型ディスプレイをつければ目の前に3Dの部屋が現れて、簡単な操作で家具の設置や壁紙の色などさまざまなシミュレーションを行うことができる。更にはその部屋のベランダに出て、そこからの眺望や広さを確認できてしまうようなそんなものを近い将来つくりたいと思っています。
さまざまな“不”を取り除きたい!!
――今度は不動産情報以外のサービスも含めた、御社が描く今後のビジョンや目標についてお聞かせください
当社は常々“暮らしのインフラづくり”ということを目標として掲げております。それはつまり世の中にある“不”を取り除くことでみんなが暮らしやすいハッピーな世の中を創っていきたいという当社の理念にもつながっています。
“不”を取り除くということは“不満”を“満足”に、“不便”を“便利”に、“不安”を“安心”に変えていくという意味であり、そのような理念のもと既に当社では地域情報サイトの『Lococom(ロココム)』や暮らしのお金を見直せる『マネモ(MONEYMO)』というサイトを運営しております。
『Lococom(ロココム)』は“街”というキーワードを軸に人やお店がコミュニケーションを楽しみながら情報を発信したり得ることができるサイトであり、『マネモ(MONEYMO)』は生命保険、火災保険、自動車保険などの保険に関するさまざまな情報に加え、保険ショップやファイナンシャルプランナーと提携した無料の保険相談サービスなども行なっております。
今後も住まいに限らず、暮らしに関わる情報格差が大きい分野を中心に、ICTなどを活用してさまざまな“不”を取り除いていけるよう尽力したいと考えております。
――御社といえばマーケティングからデザイン、プログラミング等も学べる社内研修制度「ネクスト大学」や、社員の誰もが新規事業を提案できる制度「Switch」など教育や就労環境を充実させる取り組みに熱心だと伺いました。井上流の人材育成、人材活用術などあればお聞かせください
まず一番大事にしている人事のポリシーとしては“内発的動機付けを邪魔しない”ということです。
内発的動機付けとは要は自分がやりたいと思う情熱から溢れ出てくるものなのですが、多くの会社ではこれを容易に受け入れてはくれません。むしろ「君にその能力はないからこっちの業務をしなさい」とか「そんなことより給料をもらっているんだからこっちのノルマをこなしなさい」と言った風にただ否定して終わらせてしまいます。
そうすると結局その人は外発的動機付けのみで働くことになり、やがては情熱を失ってしまいます。
我々はネクスト大学という社内研修制度を作り、社員たちがやりたいと思うことを加速するためのバックアッププランを充実させていくことで、社員個人の成長やキャリアプランの実現と会社の成長を両立していきたいと考えております。
例えば今は営業をしている人が三年後ぐらいにはウェブのプランニングをやりたいと考えているとします。それならばネクスト大学でプランニングについて学んでステップアップをはかることも可能ですし、その人が目標通りプランニングの業務に就いたあと今度はエンジニアリングやマーケティングを学んだとすればやがてはサービスやサイトを事業全体から見ることのできる人材へと成長を遂げてくれます。
そしてその人材は10年後には新規事業を立ち上げて事業部長になり会社に大きく貢献してくれるかもしれません。当社ではそれぞれの部署でミッションをクリアし、前向きな動機でステップアップしている社員にはできるだけ希望を叶えるような人事を心がけております。
母親が作ってくれた人としてのOSとは!?
――ご自身のルーツや影響を受けた人物についてお聞かせください
三人いますね。一人は母親で一人は稲盛和夫氏、そしてもう一人はヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏です。
――その中で特に影響を受けた人を選ぶとしたらどなたでしょうか?
特に誰かを選ぶというのは難しくてできませんが、母親に関しては人としてのOSを作ってくれたことへの感謝の想いがあります。
――それはどういう意味でしょうか?
パソコンはOSがなければアプリケーションがあっても動きませんよね?それと同じで人もOSがなければ論理的思考や語学力、算数や国語といったアプリケーションを持っていてもそれはまったく意味をなさないものになってしまいます。そんな人にとってのOSに該当するのが“自尊心”だと私は考えています。
セルフエスティームとも言いますが人は“やればできる”という自尊心や自己効力感を持つことによって人生の別れ道などに立ったとき「よし、こっちだ!」と自分で決断すること、自己決定ができるようになると思っています。そして仮にその決断が間違っていたとしても自分自身で責任を取り、また繰り返しチャレンジしていくような行動を取れる人になるためにもセルフエスティームは必要不可欠だと考えています。
私の母親はそういった論理をまったく知らずに、自然とそういう育て方をしてくれました。
例えば誰かと比較をしたり「ああしなさい、こうしなさい」といった類のことは一切言わない母親でした。すべてを自主性に任せてくれて、更に私が決断をできないときには「失敗しても良いからとにかく一歩踏み出してみなさい。三日坊主でやめても良いんだから」と背中を押し続けてくれました。
そのようにして母親が作ってくれたOSに経営者としての指針というアプリケーションを与えてくれたのが稲盛和夫氏で、私がよく口にし、当社の社是でもある“利他主義”という言葉も氏の著書からはじめて知りました。ブランソン氏に関してはさまざまな業界の古ぼけた既成概念を壊してきた点やその柔軟な発想が私自身の経営者としての思考回路ととても似ていると感じていて、その点においてとても刺激を受ける存在です。
――最後に他の経営者の方々に井上社長からひとことメッセージをお願いします
日本には創業100年を超える会社が約3万社あると言われています。これは世界の他の国々に比べ圧倒的に多い数であり、中には300年400年と続いている会社まで存在します。
私はその要因として日本には元々『三方良し』(売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売である)という考え方があり、多くの経営者の方がそれを経営の中で実践してきたことが挙げられると思います。
確かに時代の変化やテクノロジーの変化というものはありますし、それに伴う一時的な不況等もあると思いますが、どうかそれに右往左往するのではなく常に正しく目の前の人のニーズに応えていくということを続けていっていただきたいですね。
そうすればきっと道は開けるはずですから。
――ありがとうございました
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