2016.02.01 (Mon)
キーマンズボイス(第18回)
株式会社朝日ネット 代表取締役社長 土方 次郎 氏
創業以来24年連続の黒字を達成、過去10年の売上高営業利益は24%と高い収益性を誇る朝日ネット。
各種調査機関によるプロバイダー満足度調査結果において、10年連続顧客満足度第一位を獲得。 教育支援システム「manaba」の導入実績も、東洋大学、立命館大学など200件以上と好調だ。 安定した成長を続ける極意について、土方社長に話を伺った。
株式会社朝日ネット 代表取締役社長
土方次郎(ひじかた・じろう)
プロフィール
昭和46年滋賀県出身。京都大学法学部卒業。平成5年株式会社朝日新聞社入社、平成10年株式会社エースネット(平成13年当社と合併)取締役、平成12年株式会社アトソン(現在の当社)取締役、平成14年当社代表取締役社長、平成16年東日本電信電話株式会社入社、平成20年当社取締役副社長、平成 25年より当社代表取締役社長。
少ない会員数でも安定成長を続けられた理由とは!?
――御社は高い収益性だけでなく、高い顧客満足度も維持しています。御社のサービスの特徴や強みについてお聞かせください
我々のサービスの特徴は、月々のご利用料をいただくストック型であることです。そして、同じストック型でも、例えばメーカー系や通信系キャリアの大規模なISP(インターネット接続事業者)さんの場合は、まず大きく設備投資をし、そこにどれだけお客さまを収容できるかを考えていくと思いますが、我々の場合はまずお客さまありきで、お客さまとともにサービスを作り上げ、そこで生まれた利益で規模を徐々に拡大していきました。
つまり、身の丈に合った大きさでお客さまとともに成長してきたプロバイダーです。他社さまが二倍三倍と業績を伸ばしていったとき、実は我々は物足りないくらいの伸び率でした。大きく作って後から埋めるのではなく、少しずつ利益を出しながらうまく成長してこられたことが、創業以来24年連続の黒字や、過去10年の売上高営業利益24%という数字につながったのではないかと考えます。
また、効率的にサービスを運用することも、スタート時からの重要な価値観としてありました。
――御社における、運用の効率化のポイントとは?
システムを自社開発していることにあります。新しいサービスを作る場合は自社にこだわらず外部の多くの才能を活かすことにもメリットがありますが、システム運用の面では自社で行ったほうが、委託費や打ち合わせの時間などを節約することができます。
また、自分たちのシステムなのだと思えば、さらに磨きをかけるようになり、自発的に改善点を見つけることにもつながります。これはお客さまにとってもメリットとなるのではないでしょうか。
新規の顧客獲得も大切だが、ベースは既存の顧客を満足させること
――運用の効率化も、顧客満足度につながっているということですね。そのほか、顧客に対するケアとして、御社ならではのものがありましたらお聞かせください
何か特別なこと、他のISPさんではやっていないサービスがあるというわけではないと思います。
我々の場合、比較の対象にもよりますが、会員が何百万人という大手のISPさんと比べると会員数は少なめ(2014年3月末現在55万人)です。
しかしその分、「顔が見える」というとおこがましいのですが、このサービスはどこまでやるべきかなど、ちょうどいい落としどころが見えやすいという利点があります。ASAHIネットはもともと『ASAHIパソコン』誌の読者向け無料パソコン通信サービスとして始まりました。当初はASAHIネットの知名度は高くなかったのですが、わざわざ選んで入ってくださったからには、何か理由やこだわりがあったはずです。自分が選んだASAHIネットが顧客満足度一位になると、それを見たお客さまは嬉しいし、さらに好きになってくれます。お客さま自身が我々に代わってASAHIネットの伝道師となり、別のお客さまを連れてきてくれたり、評判を上げてくださったりしました。
一方我々は、そんなコアなユーザーの方に見限られないようにしっかりやっていかなければいけません。その循環がうまくかみ合い、今日に至ります。 会社が成長していくと、新規のお客さまと既存のお客さまの割合が常に変わっていきます。
新規のお客さまをどれだけ獲得できるかということもありますが、既存のお客さまに対して満足していただけるサービスを提供できているのかも重要です。このバランスを取るのが難しいところですね。
「情報を発信したい」という人間の根源的な欲求にこたえていく
――ICTの発展が御社に与えた影響についてお聞かせください
朝日ネットは1990年の創業以来、「交流と創造」を企業理念として掲げ、一貫して業務に取り組んできましたが、今年の6月に新たに「つなぐをつくる、つなぐをささえる。」というコーポレートメッセージを制定しました。このメッセージには、ICTの技術革新によって交流の形がより多様化する中、よりスマートなコミュニケーションの場を創造したいという我々の思いが込められています。
人間は他の動物と違い、複雑なコミュニケーション(交流)をとることができます。コミュニケーションから文化や知識が生まれ、文化や知識はコミュニケーションからしか生まれません。
インターネットは、人類にとって、言語や文字の発明に匹敵する重大な発明だと思います。インターネットの登場で通信が飛躍的に拡大し、WEB、ブログなどの登場で情報発信のコストが一気に下がりました。
そもそも人は情報を発信したいという欲求があるんですね。我々はICT技術を使って情報を効率よくスマートに交流させる場を創造することで、人類の発展に貢献したいと考えています。我々が提供したプラットフォームで人々が交流し、そこで新しい価値が生まれること。
これが、我々がこれまでも、これからも目指していくところです。
――これから御社が目指す具体的なビジョンについてお聞かせください
コンシューマ向けのISPはそろそろ頭打ちと言われていますが、モノがインターネットにつながるようになれば、さらにコミュニケーションが多様化していきます。これからネットにつながる可能性があるモノは、一説によると現在のインターネット人口に匹敵する2千万から3千万もあると言われています。モノがインターネットにつながることにより、我々のビジネスチャンスも大きく広がっていくでしょう。
例えば、すでにつながりつつありますが、店舗のPOSレジや駐車場の精算機など、さらに便利に使うための工夫の余地はまだあると思います。コンシューマ向けISPやmanabaで蓄積したノウハウを活かし、クライアントさんとのパートナーシップに立って開発していきたいですね。これが、「つなぐをつくる」の部分です。
「つなぐをささえる」は、我々の作ったものが完全に生活のインフラになり、いい意味で忘れていただけることだと思います。
例えばコールセンターの対応が迅速・丁寧であることは非常に大切ですが、我々はそれ以上にそもそもコールセンターに問い合わせる必要がないという状態を目指しているのです。
200件を超える導入実績! 教育支援システム『manaba』とは?
――2007年に開発された教育支援システム「manaba(マナバ)」とは、どのようなものなのでしょうか
教育現場でのICTの活用には大きく二つの機能があり、一つはラーニングマネジメントシステム(LMS)と呼ばれるもので、履修管理や出欠確認、小テスト・レポートなどの出題、回収、採点を行う講座をベースとしたもの、もう一つは、学習の成果を蓄積するポートフォリオと呼ばれる学生をベースとしたものがあり、manabaにはその両方が備わっています。
時々間違えられることがあるのですが、e-ラーニングではありません。“ICTの技術でリアルな教育現場を支える仕組み”とイメージしていただくと良いかと思います。
実はmanabaは、綿密なリサーチの結果「次は教育だ!」と見定めて動いたのではありません。我々が創業当時に作ったグループウェアを使い続けてくださっていた大学さんから、「LMSを導入したいのだが、一緒に作ってくれないか」と持ちかけられたのがきっかけです。
それまで教育界ではICTの活用が進んでいなくて、大学側からすると、小テストを出し、回収し、採点し、返却するといった煩雑な作業に大学教員の時間が使われていたということになり、LMSを導入して教員の時間を本来の業務に使ってほしいという目的があったのだと思います。
一方我々にとっては、教育の世界とISPとは共通点がないようですが、お客さまからの大切な情報を預かるデータデンターでのセキュリティ技術や、さまざまなアクセス手段からの認証管理、同時に多くのアクセスに耐えられるシステムの堅牢性など、これまでISPで培ってきたノウハウを十分に活かせるものでした。また、LMSは学生と教員、相互の交流を促すものでもあり、これは朝日ネットがやるべき仕事だと、逆に気付かせていただいたと思います。
――現在manabaは、東洋大学、立命館大学、同志社大学など、200件を超える導入実績があると聞きました。広がっていった理由はどこにあるとお考えでしょうか
manabaの営業を始めた頃、教育現場ではクラウド型であること、つまり学生の情報を外部に出していいのかという抵抗感が大きくありました。
しかし、大学で大きなサーバを抱えてしまうと、人や時間など膨大な管理コストが必要になります。また社会的な認知の変化も追い風になりました。
わかりやすくいうと、手元に現金100万円がありますが自分の財布に入れますか? 銀行に預けますか? ということと同じで、プロでない人がセキュリティに労力をかけるより、プロに任せることが、むしろ安全であるという理解が広まっていきました。
こうした流れを受けて、2010年頃からmanabaが加速度をつけて導入例が増えていきましたね。
信頼関係があれば、お互いのポテンシャルを最大限に発揮できる
――土方流・企業と人の育て方とは?
自分は創業者ではなく、先輩方が汗を流して苦労して築き上げた成果を引き継いでいます。スタートアップではないからこその難しさをしっかり認識してやっていくことが大切なのだろうなと思います。私の役割は、成長スピードを維持しつつ、継続性を持つこと。「ずっと存在する」ということが、社員にとっても、お付き合いのある会社さんにとっても、そしてお客さまにとっても、重要な要素であると考えています。
そのために気を付けなければいけないのは、「会社が後出しじゃんけんをしない」ことです。会社の現状を謙虚に見定めたうえで、変えるべきものは穏やかにきっぱりと変える。その際、まず会社が変わり、それに賛同して社員が変わっていくことが必要だと思います。
一方、捨ててはいけないもの、捨てられないものもあり、それを守っていくためには、言葉を大切にすることが大切なのではないでしょうか。同じことをいろいろな場面で繰り返し話して、社内で共通認識を持てるようにする。
こうしたことでお互いに信頼関係が築かれていくものだと思います。
――座右の銘などはありますか?
座右の銘というか、好きな言葉を一つあげるとすれば「岡目八目」ですね。
囲碁をやっている本人より、まわりで見ている人の方が八目分先まで見通せるという意味で、「第三者の意見は尊重すべきですよ」というときに使う言葉です。 私自身は、あるシチュエーションに入って余裕がなくなったり、自分を過剰に守ろうとしているようなときは、自分の能力がそがれるという意味だと解釈しています。
いつも自然体でいて、相手から自分はどう見えているんだろうと想像できると、八目分自分でも先を読める。自分の本当の実力は、そこにあるのだと思います。お互い信頼に基づくコミュニケーションができると、お互いに八目分先を読めます。組織としても、そういうコミュニケーションがベースになっていれば、自然と各自のポテンシャルが生かせるのではないでしょうか。
私は、人を信じて過ごしていたいんですね。相手を信頼して謙虚な態度でいたい。いつも相手を信じるというのは難しそうですが、まず自分が相手を信頼すれば、それで半分解決なんだと考えるようにしています。
――ありがとうございました
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