2016.02.01 (Mon)
キーマンズボイス(第8回)
株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一氏
1992年、日本で初めてインターネットの商用化を目的とした会社として設立されたIIJ(株式会社インターネットイニシアティブ)。そのサービスは官公庁や大手・中堅企業を中心に約8,500社に導入され、ネットワーク技術の分野においての“イニシアティブ”を取り続けている。
今回はそんな同社の創業メンバーであり日本インターネット界の先駆者の一人、鈴木幸一会長に、日本におけるインターネットの変遷とその未来像について伺った
株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長
鈴木幸一(すずき・こういち)
経歴
1946年生まれ。早稲田大学文学部卒業後、(社)日本能率協会入社。同協会に於いて、インダストリアル・エンジニアリング(IE)、新規事業開発などを担当。1982年退社。退社後、(株)日本アプライドリサーチ研究所 取締役就任。ベンチャー企業の育成指導、産業、経済の調査・研究、地域開発のコンサルテーション等を行う。1992年12月(株)インターネットイニシアティブ企画を創立、取締役に就任。1994年4月(株)インターネットイニシアティブ(IIJ) 代表取締役社長に就任。以来、日本における商用インターネットサービスの先駆者として、20年にわたり新しい通信インフラ市場を切り拓く。2013年6月、代表取締役会長兼CEOに就任。引き続きIIJグループの事業全体を統括するとともに技術開発分野を主管し、新たな技術基盤やサービス開発の指揮をとる。
1992年、日本にITという言葉は無かった!?
――まずは設立についてお聞かせください。
当時(1992年頃)のインターネットは、一部の技術者を除いて誰も知らないような存在でした。「2000年頃には数千万人の人が利用している」と書いた事業計画書を持って銀行に行っても「今まで聞いた事のないような大ボラだ」とまったく相手にされませんでした。
アメリカでは既に商用化が始まっていましたが、日本では“IT”という言葉すらなく、“ニューメディア”や“マルチメディア”等と呼ばれていました。そんな中で「日本でもインターネットを商用化しよう」と会社設立に向けた動きが生まれて、私の所に話が来たのです。
――それから20年経ち、インターネットはこれだけ社会に普及しました
私自身はインターネットが今のような姿になるだろうと、60年代、70年代の頃からある程度予測していました。電話という音声通信のために作られたインフラが、コンピューターサイエンスによってインターネットのようなものに取って代わられるだろうと。むしろ想像していたより遅いという印象です。特に放送とかマスメディアの仕組み、社会の仕組みについてはもっと影響を受けて変わるだろうと思っていました。
――その一番の原因はなんでしょう?
やはり日本という国では、技術的に可能でもそれを利用する仕組みの部分がそう簡単に変わらないという事でしょう。ましてや大企業や国は、新しいものを受け入れて進めていく時に、まずはリスク面を考えてしまう。だから制度的にも中々変わらない。
あと日本とアメリカを比べてみると、日本は“使えない人に優しい国”です。例えば役所での手続等の仕組みを変える時も「新しい仕組みを使えない人はどうするか」と考えてしまうのが日本。アメリカだったら「最低これぐらい使えないとこれからは生きていけない」という考え方で一気に進めてしまいます。アメリカでは、事業税もネット経由で申請しなければ、余計に払わなくてはならないくらいです。
インターネットの先駆者でありつづけるIIJの魅力とは!?
――まさに日本におけるインターネットの先駆者であり、今なおその先頭を走り続けるIIJですが、その一番の強みをお聞かせ下さい
全般的には信頼性と品質の高さだと思います。おそらく日本のインターネットサービスにおける殆どのプロトタイプはIIJが主導して作ってきたものだと思います。また、インターネット上に、商業ベースのサービスが出来はじめた頃から、セキュリティ等それを使うための道具立ての部分をずっと作ってきたことも強みです。
当時は日本でインターネット接続の提供会社がIIJぐらいしか無かったので、殆どの技術者がIIJに集まりました。その中で培われた技術的蓄積や経験は何処よりも豊富だと自負しています。
――業界を牽引する企業として「誰もしたことがない」ことを実行するという立場にたつことがあるかと思いますが、その際の指標や企業運営についてお聞かせください
まず日本は企業や国だけではなく、ユーザーもどちらかというと保守的です。そういう意味では「誰もしたことがない」ことを実行するには難しい部分が多いです。
例えばアメリカのように「面白いものが出来たから使おう」と、魅力があればすぐに受け入れるという訳ではなく、「誰かが既に使っている」という事例を徐々に積み上げて、ようやく受け入れるのが日本です。そうは言っても日本でサービスを展開している訳ですから、その性質に適したサービスを常に意識して作っていく事が大事です。
インターネットはこれからどうなる!?
――ここ数年でのスマートフォンやSNSの普及など、インターネットを取り巻く環境は日々変化しています。そんな中で鈴木さんが今までに衝撃を受けたものはありますか?
20代の頃から色々と見ていますが、本当に凄いと思ったものは正直少ないです。あえて言えばちょうどIIJが事業をはじめる頃に「WWW(ワールドワイドウェブ)」が実用化されて、インターネットを多くの人が使いやすいものにしました。あとは「Skype」や、検索の可能性を広げていった「Google」は非常に面白いですね。
――インターネットはこれからどのように変化していくんでしょう?
インフラの部分は技術的にそれ程大きくは変わらないでしょう。光の速さが変わらない訳ですから。今既に出来ている技術が、何かに具体化していく事が、次の段階にあるのかもしれません。例えばスマートフォンもパソコン文化の流れの中で、ワイヤレスという技術を利用して発展しましたが、ワイヤレスというもの自体はずっと以前からあった技術です。今は、新しい端末が出る事で、通信そのものが変わっています。そういう意味ではこれまで我々通信事業者が担ってきた枠組みを、逆に端末側が作っていく流れはこれからも続いていくかもしれません。
最近の若者はおとなしい!?
――鈴木さんは若い技術者の育成にも熱心だと伺っておりますが、鈴木流・人材育成術のようなものはありますか?
そのようなものはありません。技術者を育てるのは中々難しいです。ただ僕自身はIIJが大企業だとは思っていませんので、そういう会社が大企業と戦っていくには一人一人が最大限能力を発揮すること、そしてその発揮できる環境づくりが大事だと思います。
――そのために最も必要なことはなんでしょう?
やはり人には向き不向きがあるので、早目に向いている事を見抜き、それを一生懸命させてあげる事が大事だと思います。みんなやりたい事や希望を持って入ってきていると思うので、そのモチベーションを上手くこちらがすくい取ってあげる事です。もちろん口でいうほど簡単な事ではありません。
最近は、おとなしい子が増えました。あまりこれがしたいと自己主張しない。そこは結局育ってきた環境の違いです。僕の場合は食うや食わずの中で育ってきましたが、今はそんな子はいないでしょう。ただ逆に今の若い人たちは子供の頃からインターネットが身近にある環境に育っているので、我々の世代とネットに対する考え方や感覚が違います。そういった部分がプラスに作用すればという期待もあります。
――影響を受けた人物はおられますか?
若い頃から幸運にも様々な著名な方と接する機会に恵まれたので、本当に色々な方から影響は受けました。例えば、本田技研工業の創業者である本田宗一郎さんは面白い人で、金型に負けない迫力がありました。著名な人たちはみんなある種のパッションを持っていました。
――最後に今の若い経営者に、鈴木さんからひとことお願いします
やろうと思った事を「出来るんだ!」と自信を持ってやる。そしてそれにすべての力を注ぐ。これが大事だと思います。やはり、多くの若い経営者は、慎重すぎる気がします。リスクに対する恐怖心を振り払うには確かな技術の裏付けしかありません。それをきっちりと磨いていく。そして常に自分の周りで何が起こっているのかを勉強しておけば、絶対に成功できると思います。
――ありがとうございました。
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