超高齢化社会を迎えている日本では、70歳を越える社長や経営陣というのが、珍しいものではなくなりつつあります。しばらくは現役で働きたいと考える経営者も少なくないでしょうが、世代交代はいずれ訪れる、避けては通れない問題です。
スムーズに世代交代するためには、在任中から後継者を育て始めることが重要です。先送りにすると、いざというときに混乱が生じる可能性があります。
今回は、企業の世代交代をスムーズに進める事業継承のやり方を考えてみましょう。
社長交代による「株式譲渡」で借金を背負うケースも
事業継承でもっとも重要なポイントが、社長の交代です。もう少し細かく表現すれば、社長交代による「株式譲渡」が問題になります。
外資系企業のような“雇われ社長”が交代するならば、株主総会だけで完結できます。しかし日本の企業は、社長が自社株を持っているケースが多く見られます。その場合、事業継承の実態は「株式の相続」が問題となります。
一般的な事業継承の流れは、後継者が前社長の株式を相続し、大株主となって強い発言権を持ち、株主総会で社長に就任する、というものです。しかし、株式は財産なので、相続税が発生します。もしも株式の評価額が高い場合は、税額も高額になります。加えて、相続税は原則として現金で納めなければならないので、後継者が借金を背負うことになるケースも珍しくありません。
そうならないためには、相続税を理解し、どう相続するのが都合が良いのか、準備をしてしておきましょう。
納税は避けられないが「贈与税」にはメリットが
相続税を節約しながら、株式を移転する方法はいくつかあります。ひとつは売買による移転で、社外の人材を後継者とする場合などに用いられます。
同族間での株式売買も可能なため、相続前にできるだけ安く売買して節税しようと考えたくなりますが、残念ながら総合的な節税効果はあまり期待できません。というのも、株式を時価よりも低い価格で売ると、手に入れた側に経済的な利益が生じるので、今度は贈与税がかかってしまいます。贈与税を利用した相続税の課税逃れを防ぐために、贈与税の基礎控除額と税率は、相続税よりも高く設定されているため、大きな節税効果はまず得られません。
節税効果はないものの、こうした「生前贈与」による同族間の自社株売買にはメリットがあります。第一に、経営者の突然の不幸による事業継承の混乱を防げること。第二に、株式を売った側は資金が手元に残るので、相続財産は減少しないため、その資金を元にさらなる相続税対策を講じられることです。こうしたメリットを得るためであれば、生前贈与も十分に意味のある選択肢となるでしょう。
納税できない場合は救済措置アリ
相続や贈与の問題によって、事業継承が難しくなっている状態を救済する対策が施されています。それが「改正版事業承継税制」です。
この制度は、後継者がすでに保有する議決権株式(株主総会において議決権を行使できる株式)を含め、発行済の議決権株式総数の3分の2まで、贈与税全額の納税が猶予されるというものです。猶予された贈与税額は、先代経営者または後継者が亡くなると免除され、さらに贈与税が免除される代わりに発生する相続税も、8割の納税猶予と免除が認められます。
まとめれば、この制度を恩恵を受ければ、事業継承にかかわる税金を、通常の2割程度まで減らすことができるわけです。
しかし、この税制を受けるためには、高いハードルを乗り越える必要があります。たとえば事業継承後も雇用の8割以上を5年間維持するという要件があり、もし守れない場合は、猶予されていた税金を、利子付きで納めなければいけません。
もちろん、免除を受けられれば、その効果は抜群です。税理士・会計士に一度相談してみる価値はあります。
経営者が引退するまでには5年かかる
税制のほかに引退で生じるもうひとつの大きな問題は、後継者を見付けることができなかったり、後継者を上手に育てられないといった「後継ぎ」問題です。後継ぎが育てられず、事業を売却する余裕もないまま倒産してしまうケースもよく見られます。
おもな原因は、後進の育成にかかる期間を見積もれていなかったことにあります。一般的に後継者の育成には最低でも3年。スムーズに業務を引き継いで現経営者が引退するには5年かかるといわれています。その間に後継者は社長業を覚え、社員のひとりである自覚を持つ必要があります。同時に、取引先から後継者に対する信頼を得ることも重要です。
かつて60歳とされた経営者の引退年齢は、高齢化社会の影響もあり延びる傾向にあります。もしものことが起こる前に、予め先手を打って準備をしておくのが賢い選択肢といえるでしょう。
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