2016.11.15 (Tue)

もっと税金を知ろう!(第6回)

社長が会社からお金を借りるときは「利息」に注意

posted by 町井 徹

 前回掲載した「社長が会社にお金を貸すときの思わぬ落とし穴」では、社長のポケットマネーを会社の運転資金にするときに、しっかりと契約書を作って、正規の手続きを踏むことが重要だと解説しました。

 そこで今回は反対に、社長が会社からお金を“借りる”場合のポイントを見ていきます。

 基本的には同じく契約書を取り交わすべきですが、借りたお金に対する利息の処理が異なるので注意が必要です。「身内のやりとりなので利息なんて考えない」と思うかもしれませんが、ここで利息を設定しないと、のちのち面倒なことになってきます。

会社が社長にお金を貸すときの会計処理

 経営者であれば、会社の運転資金を自分の個人資産で充当する場合もあるでしょう。一方で、その逆のケースも起こり得ます。たとえば、現行の事業とは異なる別の事業を立ち上げるために、会社からお金を借りるなどの場合がこれにあたります。同族経営の会社であれば、このように慣習的に会社の資本金を借りている経営者もいるかもしれません。

 特に後者においては、賃借契約書を作らない場合が見受けられます。しかし、それは会社の経営状態が不透明になるばかりでなく、税務署から疑惑の目を向けられる格好の対象になります。加えて、会社法と照らし合わせても、会社から社長に対する貸し付けは、利益相反行為にあたると考えられ、法に抵触しかねません。

 以上の点から、いかなる場合も、きちんとした賃借契約を結ぶのが無難です。具体的には、金額と金利、返済の期限と方法を記載した契約書を準備し、役員会などの承認を得る正規の手続きを経ましょう。

「利息ゼロ」の盲点

 賃借契約を結んだとしても、会社に貸したお金の利息をとろうと考える経営者、会社から借りたお金に利息を付けて返そうと考える経営者は、実際のところほとんどいないでしょう。いわば身内のあいだのやりとりなので、貸し借りに利息を付けるのはおかしな話のようにも思えます。しかし、実はここに意外な落とし穴が潜んでいるのです。

 社長がお金を会社に貸す場合は、金利(利息)ゼロでも税法上の問題は特に発生しません。ところが、社長が会社からお金を借りる場合は、金利ゼロだとややこしい事態になってきます。

 その“ややこしい事態”を、順を追って紹介します。たとえば、当座の運転資金が想定外の出費で足りなくなり、経営者が会社に100万円を貸したとします(金利は年利10%と設定)。その1年後、会社から経営者に100万円を返済する際、経営者は金利分の10万円は受け取らず、利息を放棄します。こうした個人による利息の権利放棄は、税法上でも利息のやりとりが発生したとは見なされず、基本的には問題になりません。

 次に、逆のパターンを見てみましょう。経営者が新しい事業を始めるために、会社から100万円を借りたとします。金利は年利10%で、1年後に経営が軌道に乗ったため、経営者は会社に100万円を返済しました。この場合、金利分の10万円を「なし」と判断し、返済しませんでした。

 これは会計上ではアウト。会社、つまり法人が受け取るべき金利を放棄した場合は、「一度10万円の金利を受け取り、その10万円を贈与した」と処理する必要があります。

仮に会社が金利を放棄したときの会計処理はどうなるのか?

 なぜこの違いが生じるかといえば、ひとつに会計や税務の考え方が関係しています。会計と税務は、会社のお金の流れをできるだけ正確に記録することが使命です。そのため会社については、個人よりも厳しくルールが決められているのです。

 会計上の処理も重要なポイントです。会社が経営者より利息分の10万円を受け取ると、会社には10万円の収入が計上されます。そのあと、10万円を支払う処理で「役員賞与」や「寄付金」などの勘定科目を使うと、その額は経費として認められず、課税対象となってしまいます。一方で、金利というかたちで徴収しておけば、このような煩雑な手続きと、余分な税金は発生しません。

 ややこしい話ですが、似たようなお金のやりとりだとしても、異なる会計処理をする理由はあるのです。会社からお金を借りるときに、契約書を作るのは面倒ではありますが、必要な手続きですので、しっかりと手順を踏みましょう。

町井 徹

町井 徹
【記事監修】

公認会計士、税理士。税理士法人はやぶさ会計代表社員、株式会社はやぶさコンサルティング取締役副社長、はやぶさ監査法人代表社員。一橋大学社会学部卒業後、三井信託銀行株式会社(現中央三井信託銀行)入社し、事業会社融資業務に従事。その後、監査法人などを経て、株式会社PAS(現はやぶさコンサルティング)設立に参画し、国内金融機関・上場会社への会計・税務等アドバイザリー業務などに従事する。

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