日ごろから明朗な経理を心掛けている、いかに清廉潔白な経営者でも人間である限り、魔の差す瞬間はあるもの。会社経営者の場合は、自分の財布と会社の財布の境界があやふやになりやすいので、誘惑も多いことでしょう。
しかし、税務調査官は、所得と資産状況を補足するプロフェッショナルであることを忘れてはいけません。帳簿やパソコンの中はもちろん、家の外装にいたるまで、あらゆる箇所に目を光らせ、不正を白日のもとにさらします。ここで紹介する税務調査の統計資料や調査官の仕事を見て、より一層気を引き締めていきましょう。
税務署の事務年度は7月から
日本は申告納税制度をとっており、事業者が自分で税金を申告し、税額を確定させて納付します。適正な申告をしているかは税務署がチェックし、内容に疑問点があれば調査を行います。これが税務調査といわれるもので、例年7月ごろから始まります。計算ミスや勘違いで、申告額が少ない場合は追加の課税処分があり、悪質な所得隠しが露見すると脱税として刑事罰が問われます。
税務署・税務調査官の仕事は、いってみれば不正を見付けること。数え切れないほどの案件をとおして蓄積された知見から、事業規模や業種に応じたおおまかな所得額、資産の構成と運用方法、事業主の行動パターンを熟知しています。年間に税務調査を行う件数にノルマがあり、調査を行うからには結果的に問題がなかったという空振りをよしとしていません。
つまり、申告漏れがある可能性が高いところを選んで調査に入ります。「国税庁レポート2015」によれば、2013(平成25)年度に所得税・源泉所得税・法人税・消費税が問題となった実地調査件数は、38.9万件。法人税だけで見ると約9.1万件で、そのうち6.6万件、金額にして7,515億円の申告漏れが見つかっています。約7割という高い発見率です。
税務調査官が気になるのはどんな会社か?
税務調査というと、伊丹十三監督の映画『マルサの女』が思い浮かびますが、劇中に出てくる強制査察は、実際にはまれな例です。これは極めて悪質な脱税と判断される場合に講じられる手段なのです。通常は任意調査といって、事前通告があって強制ではなく、調査を断ることも可能な方法がとられます。
しかし、税務署からの印象が悪くなるので、任意調査の拒否は推奨されていません。前述のように、調査官は問題がある可能性が高いと踏んで調査に入るのでなおさらです。
一般的に以下のような会社が、税務調査の対象になりやすいといわれます。
・前回の調査から一定の年数が経過している
・現金での売上が多い
・急激に成長している
・多額の経費計上など、例年にない動きが見られる
・同業他社と比較して申告額が著しく少ない
・決算、申告において異常な数値が目立つ
・メディアに取り上げられ知名度が急上昇している
・過去に問題が見付かったことがある
また、税務調査で増差額が多く見込める業種を「重点調査業種」「注目業種」として設定しています。近年では、パチンコ関連などが重点調査業種、情報サービスなどが注目業種でした。もしも自社が当てはまっていれば、注意するにこしたことはありません。事前に税理士に相談してみるのもひとつの手です。
税務調査官による準備調査で、疑念が確信へ変わる
税務調査官は、ある会社に疑念を持つと、内偵調査や外観調査といった方法を使って丹念に調べてから税務調査に入ります。
内偵調査では、身分を隠した調査官が、客を装って事業所を調べます。特に帳簿のみからは経営実態を把握するのがむずかしい飲食店や小売店で行われる方法で、きちんとレジを打っているか、お客さんの数や回転率、おおよその客単価や従業員の数を見ます。
外観調査では、経営者の自宅や事務所、土地を保有している場合はその使用状況を見ます。この調査で調査官は、普通ではあまり考えない部分に注目します。一例をあげると、自宅建物の修繕の有無。もし、外装に修繕や改装が発見されれば、その費用を会社の損金に計上していないか確認します。ほかにも土地の一部が有料駐車場になっている場合は、その収入がきちんと計上されているかが確認の対象となります。
ベテラン税務調査官は、雑談から情報を引き出す
入念な準備・勧告を経ていざ税務調査となると、本題の前に雑談や世間話からはじまり、通常は2、3日ほどの時間を要します。生まれはどこか、これまでの職歴は、子どもや孫の結婚、といった具合です。まったく税金と関係ない話題に聞こえますが、実のところ調査官は明確な意図を持って質問をしています。
出身地がわかると、過去に住んでいた場所で利用していた金融機関までわかり、それが申告から漏れている可能性が考えられます。もしも、親が地元の資産家であれば、相続資産も調べる対象として浮上します。次に職歴は、これまで働いて稼いできた総収入額を検討する材料になります。仮に子どもや孫が最近結婚していたら、結婚の費用、新居の購入費を援助していないか、質問を重ねてくるでしょう。
場数を踏んだベテランの調査官ほど、自然な会話を作り出し、知らず知らずのうちに情報を引き出していきます。
いかがでしょうか。プロの目がどれほど厳しいか、その一端が垣間見られたのではないかと思います。ありもしない腹を探られないためにも、普段から意識を高めておきましょう。
連載記事一覧
- 第1回 企業版ふるさと納税で、節税とイメージアップ 2016.04.26 (Tue)
- 第2回 日々の業務で実践できる節税対策 2016.07.07 (Thu)
- 第3回 税務調査の傾向と対策を知っておこう! 2016.08.03 (Wed)
- 第4回 税金なのにインセンティブあり?「予定納税」の秘密 2016.09.05 (Mon)
- 第5回 社長が会社にお金を貸すときの思わぬ落とし穴 2016.10.31 (Mon)
- 第6回 社長が会社からお金を借りるときは「利息」に注意 2016.11.15 (Tue)
- 第7回 社員の不正行為が発覚!会計処理はどうすれば? 2016.12.06 (Tue)
- 第8回 事業継承時にかかる「税金」が企業の首を締める? 2017.02.01 (Wed)
- 第9回 決算期直前でもできる節税テクニック 2017.02.06 (Mon)
- 第10回 2023年10月導入のインボイス制度。まずは、これだけ理解しよう2023.01.30 (Mon)