2016年度開始予定の企業版ふるさと納税
専門の書籍までが登場し、大人気となっている「ふるさと納税」。個人を対象としたこの制度は、地方自治体に寄付をすると、税金の還付に加えて、相当額またはそれ以上の特典が得られます。この高い人気を受けて、政府は「企業版ふるさと納税」の創設を検討、2016年度の実施を目指しています。
減税効果が2倍ともいわれ、個人版と同様に期待が集まる企業版の中身を見てみましょう。
いまさら聞けない個人版「ふるさと納税」のしくみ
ふるさと納税とは、名前に税の文字が入っているものの、本来は自治体への「寄付」のことです。個人が2000円を超える寄付を行うと、その額に近い住民税が控除・還付されるしくみになっています。いわば寄付による税金の前払いで、寄付をした年の翌年に税金が戻ってきます。
これだけではさして話題にならなかったでしょうが、寄付したときにその自治体から返礼に特産品や工芸品が届くしくみで、特に豪華な食品が目玉となって人気が爆発しました。
例えば佐賀県上峰町に一定額をふるさと納税すると、黒毛和牛の牛肉セットが届き、そのため同町は大好評の納税先となりました。同じく和牛が返礼品の北海道上士幌町の場合を見ると、2014年に10億円もの寄付が集まっています。
納税先は自分の生まれ故郷である必要はなく、魅力的な特典を用意している自治体から選べます。寄付したお金の使い道を自分で決められる。複数に自治体を支援できることも特徴です。2015年4月の税制改正からは、個人住民税の特例控除額の限度額が個人住民税所得割額の2割程度に拡大し、確定申告時の手続きが簡略化されています。
「企業版ふるさと納税の概要」とは
さまざまな特典で人気に火が付いた「ふるさと納税」ですが、原則として対象を個人としています。企業もふるさと納税をできなくはないのですが、個人に比べると魅力は大きく減っています。現在政府が検討中の「企業版ふるさと」納税は、こうした点を改善すべく作られる制度です。
まず企業版では、寄付金を送ることができる対象がしぼられます。対象となるのは、地方自治体の公共事業のうちで子育て支援や地元企業の雇用促進など、地方活性化に高い効果があると政府が認めたものになります。新設のふるさと納税制度には、現在の寄付による効果(A)に加え、(B)の効果が得られます。
A.現行制度の税効果:(寄付金額)×(法人実効税率=30%)
B.企業版ふるさと納税導入後の税効果:(Aの税効果)+(税額控除[=(寄付金額)×約30%])
仮に企業が1000万円の寄付を自治体に行ったとすると、税負担が約600万円分減ることになります。また寄付の返礼については、「公共施設の優待券」など、規定範囲内の公共性の高いものであれば認められるようになります。「企業版ふるさと納税」は、企業にとってみれば優秀な税金対策であり、イメージアップを図れるCSR事業となり得ます。それに縁もゆかりもない自治体・事業とのつながりができる可能性があり、新しいビジネスチャンスのきっかけ作りになるかもしれません。
もともと「ふるさと納税」は、拡大する地方間格差を是正する目的で作られた、地方創成プロジェクト。「企業版ふるさと納税」は、寄付の文化が根付いていない日本において、寄付のかたちをとりながらも実質的に「企業が任意の自治体に納税」ができる貴重なシステムといえるでしょう。金額に対して、企業の実質負担が少なくて済むこともあって、多くの企業参加が期待されます。
新たな利権構造を生まないクリーンなシステム
企業から地方自治体への寄付で、規定の範囲内で地方からの返礼がある。なんだかその他にどんな返礼があるのかを邪推してしまいますが、安心してください。寄付した企業へ入札で便宜を図るといった行為は禁止されています。
いわゆる政治と金の問題を解決するのは、非常に困難だと誰もが知っているでしょうが、「企業版ふるさと納税」ではその対策が講じられています。一例として、財政的に豊かな自治体は、寄付の対象から外されます。潤沢な資金があって、積極的に公共事業が行えるような、利権構造が発生しやすい自治体への寄付はできません。またそもそも、自治体は寄付金の使い道を明確にしないと、政府から寄付対象と認められません。
ただし事実がなくても、イメージが先行し、疑念を持つのが人の世の常。制度を利用するにあたっては、目的を明確にし、それを社内外にわかりやすいかたちで示す広報活動が大切になってくると考えられます。
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