社員に企業のお金にかかわる不正行為が発覚した場合、経理担当はのんびりできません。なぜなら、不正行為で発生した損失を帳簿に付ける必要があるからです。
ここでは、社員の不正行為に対してどのように処理すればよいかをご紹介します。
横領が発覚すると利益が発生する!?
社員による金銭の横領や着服を損失として計上する場合、通常は会社が取得する損害賠償請求権を「益金」、つまり利益として計上することになります。そのため、損害が発生した年度には、損害を節税に利用できない可能性があります。
たとえば企業へ損害を与えた犯人が、企業と関係のない第三者であれば、損害が発覚した時点でこれを帳簿に記入します。その後、実際に損害賠償金が支払われた時点で、益金を記入すれば問題ありません。
一方で社員が犯人の場合は、損失と益金の両方を同時に計上しなければなりません。つまり、企業があとから不正行為を行った社員に対して、債権回収の取り立てをする必要があるのです。
過去にさかのぼって不正行為が発覚すると、さかのぼった期間の延滞税などが加算される場合もあり、大きな打撃となります。これについて確定した判例や学説はないので、会計士などと相談することが必要です。
不正を行った社員からの債権回収処理
とはいえ、企業が多額の損害賠償金を社員(犯人)から全額回収できるのかは疑問が残ります。一般的に横領した社員と相談しながら返済計画を立てさせ、時間をかけて順次回収していくことになります。しかし、回収を途中で断念せざるを得なくなったり、事情によっては最初から回収できない場合も出てくることでしょう。
賠償金の一部、または全額の回収を行えなかった場合、2通りの処理が考えられます。ひとつは未回収金を「貸倒損失」、つまり「回収できなくなった債権」とする処理です。これは社員の支払い能力などから考えて、回収が完全に不可能であると考えられる場合に行います。
もうひとつは、給与として処理する方法です。こちらの場合はなかなかやっかいで、源泉所得税の徴収対象となるうえ、役員ならば役員賞与が損金不算入となるため、泣きっ面に蜂です。可能な限り避けたいところです。
社員の不正行為に伴う「貸倒損失」は損金に計上できるのか
前述の貸倒損失は、相手の支払い能力がなくなってしまい、売掛金や貸付金が回収できなくなった場合に計上される費用です。ですが、必ずしも損金に算入されるわけでなく、単純に返済されなかったというだけでは、寄付金とみなされ損金不算入になります。
ではどのような場合に損金へと算入できるのでしょうか? それは「法律上の貸倒」「事実上の貸倒」「形式上の貸倒」のどれかにあたれば可能になります。「法律上の貸倒」とは、民事再生法や債権者集会などの私的整理による債権カットのこと、「事実上の貸倒」とは、回収先の債務超過や行方不明などで回収が不可能なこと、「形式上の貸倒」とは、取引が停止してから1年以上にわたり回収されていない事態のことです。
社員の不正行為の場合をみると、支払い能力などからみて回収できないと判断されたとき、すなわち「事実上の貸倒」にあたると考えられるので、一定の要件を満たすことで損金への算入ができます。
もしも社用車で事故が起きたら
横領や着服とは種類が異なりますが、社員が社用車を運転中に事故を起こした場合の経理処理もおさえておきましょう。この処理は、事故が業務中に起きたものであるか、過失か故意かによって大きく変わってきます。
業務中に起きた過失事故で、企業が損害賠償を支払うことになったら、その費用は損金に算入されます。ただし、一般の企業であれば任意保険に加入しているはずですから、過剰に心配する必要はありません。
ところが飲酒運転、業務以外の使用、あるいは故意や重過失と判断される事故では話がまったく違ってきます。悪質な事故では保険金が支払われず、社会的な責任として企業が被害者に賠償金を支払います。会計上の処理は、横領時と少しニュアンスが似ており、企業が支払った賠償金は社員への債権になり、後日回収する手はずをとります。もしも回収ができないようであれば、一定の要件を満たすことで貸倒損失になり損金として参入します。
いずれもあまり遭遇したくはないケースですが、企業を長年経営しているといろいろな事件が起こるもの。なにかが起きたときの対処を知っていれば、落ち着いた行動がとれます。以上のことを頭の片隅に置いておくといいでしょう。
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