「資金繰りが厳しいので、忘年会費は社長が立て替える」「今月の支払いは社長のポケットマネーで」
一部の企業では、このように社長が会社にお金を「貸す」ことが珍しくないかもしれません。しかし、それを繰り返して、長年にわたり放置するのはたいへん危険です。多額の税金や思わぬ不利益につながります。
今回は、「社長が会社にお金を貸すとき」におちいりやすい盲点を解説していきます。
社長が会社に貸したお金に課税される!?
会社のお金が足りないときに、社長が個人資産を運転資金に充てると、会計上は「会社が事業主から資金を借り入れた」と処理します。帳簿に記載する勘定科目は「借入金」で、資産ではなく負債にあたるため、課税対象ではありません。
社長はもしかすると、いずれ業績が回復したら、会社からお金を返してもらおうと考えているかもしれませんが、実際のところ、会社に貸したお金は、なかなか返ってきません。経営を上向かせるのが至難なうえに、仮に経営が安定して資金繰りに困らなくなっても、余剰資金はなにかあったときの備えや、新しい設備投資に回したくなるかもしれません。
実はここに税法上の落とし穴が潜んでいます。社長からの借入金が常態化・長期化し、お金を返していないと、借り入れたお金が実質的な「贈与」と見なされる場合があります。贈与は会計上、収入にあたるので課税対象です。これまで蓄積された社長のポケットマネーのすべてに税金がかかったら……考えただけでも恐ろしい話です。
銀行からの評価が下がる!?
社長からの借入金が長期的にかさんでいるともうひとつ危険なのが、自己資本比率の悪化です。自己資本比率とは、会社の総資産がどれくらい自己資本で賄われているかを示す指標。借りたお金、つまり負債の割合が多いと借入先の影響を受けやすいので、“経営が不安定”と評価されてしまいます。
会社と経営者間の資金のやりとりがルーズになっていると、税務を含むコンプライアンス上のリスクが懸念されます。そうすると、金融機関から融資を受けるとき、与信判断が厳しくなることも考えられます。
さらに相続税がかかってしまう!?
あまり考えたいことではありませんが、社長が亡くなって相続が発生した場合、会社が社長から借りていたお金は、会計上どのような扱いになるのでしょうか。
社長からの借入金は、会社からすれば「負債」です。反対に社長からすれば「債権」にあたります。債権は財産ですので、社長が亡くなると、残された者に引き継がれ相続税が発生します。たとえ債務が超過していて、株価がゼロになっている会社であっても、貸し倒れになっていない限り、相続財産になるのです。
会社が社長に借りていたお金が多ければ多いほど、相続税の額が上がる可能性も場合によっては考えられます。さらに恐ろしいことに、相続税は原則として現金で納めるものです。会社が困っているときに、貸したお金が会社に現金として残っているはずもなく、現金の回収は簡単ではありません。同族経営の会社だったら、クリティカルダメージとなりかねません。
社長からの借入金を明文化すること
社長の資金をあてにすること自体が、けっして悪いのではありません。常態化・長期化し、知らないうちに額が増えて、経営実態を把握しづらくなっていることがまずいのです。
こうしたのっぴきならない事態を防ぐには、社長と会社の貸し借りを契約書で結ぶなどして、明文化しておくとよいでしょう。具体的には、金額と利息、返済期間と返済条件を定めて書面に残し、役員の承認手続きを経てから、お金のやりとりをします。総務・会計にお願いすれば、それほど大きな手間ではないはずです。
書面上で明らかにしておけば、借入額の状況がわかるので、これ以上は危険だから返済をしておくだとか、さらなる借り入れ計画を作るなどの対処ができます。
面倒に思うかもしれませんが、書面化しておくことは、税務の面から見ても大切です。税務署に対しても、正式な手続きを踏んでいるというアピールになるので、不必要な勘ぐりを防ぐことにつながります。
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