顧客満足と経営のほどよい関係(第12回)

なぜレゴの大規模リストラが肯定的に報道されたのか

posted by 田中靖子

 2017年9月5日、組み立てブロックで知られる玩具メーカーで、世界的大手企業でもあるレゴグループが、大規模なリストラを発表しました。2017年内に従業員の約8%に当たる約1,400人を解雇する予定です。

 レゴグループは欧州のデンマークを本拠地とする企業で、アメリカ、イギリス、中国、シンガポールに主要なオフィスを構えています。それゆえレゴグループによる大規模なリストラのニュースは、世界各国から注目を集めました。

 企業としては、リストラ発表=業績不振といった報道をされることによって、自社のイメージが低下してしまうことは、避けるべき事態の1つです。しかしレゴグループのリストラに対して、各国のメディアは概ね肯定的な報道を行っています。レゴグループはどのようなリストラ発表を行なって、企業のイメージ低下を防いだのでしょうか。

レゴの大規模リストラ報道は、欧米では肯定的

 レゴグループのリストラについて各国の報道について、アメリカの大手メディアであるCNBCは「一度きりの大規模な改革である(One Off, Big Move)」というタイトルで報じました。タイトルの“One Off”というフレーズは、「避けることのできない偶然の事故」というニュアンスです。このフレーズから、「組織に根深い問題があるではない」という記者の意図がうかがえます。経営者を非難する文言は、少ない記事でした。

 ニューヨークタイムズは「リストラによって組織がシンプルとなる」「巨大化した企業をリセットするための手段である」という表現を使い、リストラを行なうことで期待されるプラス効果を紹介しています。

 CNNのニュースは、リストラが必要となった理由として、「組織として複雑になりすぎており、効率化するためには人員削減が必要である」と分析して掲載しています。その中ではレゴの収益低下の原因を詳しく解説していますが、経営方針を批判するようなものではありません。

 イギリスの大手メディアであるBBCは「組織が複雑化し続けると経済成長が止まってしまう」と解説し、リストラを支持する立場を取っています。記事でも、レゴグループがアジア各国で大きな収益を上げていることや、玩具メーカーとして世界トップクラスの地位にあることを紹介しており、今後のレゴグループが再び成長に転じることを印象づけるものです。

レゴの経営判断が肯定的に捉えられた理由

 リストラというネガティブなニュースが、肯定的に報道されたことには、ある理由があります。

 その理由は、レゴグループの経営者がリストラを発表する際に、その意図や目的を単純明快な言葉で表現したことです。経営者は、リストラを「リセットのボタン(the reset button)」と表現しました。この言葉は、ニュースの記事に使いやすいコンパクトな表現であったため、CNNやニューヨークタイムズを始めとする多くのメディアが「リセットのボタン」というフレーズを用いて報道しました。“reset”には「やり直す」という意味があり、「リストラによって、複雑になった組織がリセットされて、再び競争力を取り戻す」という今後の経営戦略にマッチした単語でした。

 記者発表の場では、他にも「リストラによってより多くのチャンスを見出すことができる(find more opportunities)」など、ポジティブな言い回しや単語が数多く用いられていました。前向きな言葉で、企業が今後の展望を語ったため、「レゴグループは将来に向けた明確なビジョンを持っている」というポジティブな印象を与えました。

 同時に収益低下の責任については「全て経営者の責任である」と経営者自身がはっきりと述べています。責任の所在を明らかとしているため、記者が不明瞭な部分を追及して、発表の裏にある真実をあぶり出すといったような取材攻勢も起きなかったようです。結果として、経営者の責任を非難するような報道は影を潜めました。

欧米と日本でリストラに対する考え方は違う

 日本は「企業には従業員の雇用を守る義務がある」という考えから、リストラに対しては、マイナスのイメージが強くあります。またリストラを発表する際には、経営陣が「従業員の家族に申し訳ない」「経営者としては苦渋の決断である」という雇用を守れなかったことに対する謝罪の言葉を口にしがちです。背景に加えて対応からも、リストラを行う企業には否定的なイメージが先行した報道になる傾向にあります。このような報道から、業績不振の企業であるというネガティブな印象が付いてしまうと、企業イメージを回復するまでには長い時間がかかってしまいます。

 もちろん、経営者が従業員に対して申し訳ないという気持ちを持つことは道徳的には自然なことです。内部の従業員に対しては、謝罪や後悔の念を伝えることが経営者の誠意の表れとなるでしょう。しかし、ネガティブな言葉は社内発表の場に留めるべきです。社外発表の場で後悔の念を強調しすぎると、かえって企業にマイナスの影響を与えるおそれがあります。

 その点でレゴグループは「なぜリストラを行うのか」という分析と、その理由を述べています。売上高や営業利益などが10年以上に渡り2桁の成長率を続けてきたが2016年から鈍化した。それは現体制が複雑になりすぎたことが原因であるとしています。だからリストラによって、組織をシンプルにして競争力を取り戻すという将来に向けたビジョンへつながるように説明し「これから企業が目指すもの」を強調しています。結果としてリストラ発表は、各国で肯定的に報道されることとなったのです。

 リストラのようなネガティブな知らせを社外に発表することは、経営者としてはつらい仕事です。しかし企業が苦しい状況にあるからこそ、過去の経営についての後悔ばかりを述べるのではなく、将来のビジョンとともに企業の未来像を打ち出してみてはいかがでしょうか。レゴグループの事例のように、経営者が将来に向けて明確な分析とビジョンを語ることは、イメージの低下を回避し、今後の経営戦略に内外から賛同を得るチャンスの場という考えで臨んでみてはいかがでしょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年10月23日)のものです。

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https://www.cnbc.com/2017/09/05/toymaker-lego-to-cut-8-percent-of-staff-as-sales-decline.html
http://money.cnn.com/2017/09/05/investing/lego-job-cuts/index.html
http://www.bbc.com/news/business-41160743
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ05HYN_V00C17A9000000/

田中靖子

田中靖子

法律家ライター。東京大学卒業後、2009年に司法試験に合格。弁護士として知的財産業務、会社設立等のビジネス関連の業務を扱う。現在はアメリカに在住し、法律関連の執筆や講演を行っている。

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