顧客満足度の向上に縛られ、顧客が求めてもいない過剰なサービスを提供し、従業員の負担になっているケースがあります。「いいものをできるだけ安く」「お客様は神様だ」とする姿勢がその典型です。放置するとやがては優良企業でさえも、経営を圧迫する材料になりかねません。
なぜ顧客に対して過剰にサービスを行ってしまうのか? それは価値観が多様化し、ニーズが簡単につかめなくなっている現代ならではの社会構造に関係しています。
成熟した社会における商売の難しさ
マイホーム、自動車、家電。現代を生きる私たちは、すでに生活で必要なものをあらかた手に入れ、物質的には満たされています。さらにそれら製品の性能は、高いレベルに到達しており、性能の向上によって購買意欲をたきつける商法は難しくなりました。これ以上テレビの画質が上がったところで、それを心から待ち望んでいる消費者は一部に限られるでしょう。
モノへの飢えが少なくなって、性能のよさではなく、個人の趣味嗜好に刺さるものでないと売れない時代に入り、マーケティングや顧客満足度調査なしではメーカーはやっていけません。
とはいえ、価値観が多様化しているため、顧客が求めているものをつかみ取るのは非常に難しく、何が正しいのか、疑心暗鬼におちいる企業もあります。明確な未来像を描けなければ、とりあえず目の前のお客さんに滅私奉公する、という選択肢に行き着くのも無理はないでしょう。過剰な顧客満足主義に捕らわれる思考は、こんなふうに生まれて来るのです。
SNSで顧客のニーズをつかむテクニック
なんとか顧客の真のニーズを知る方法はないものか……。多くの企業が、さまざまな工夫を凝らして取り組んでいますが、そうした取り組みを行う企業に共通しているのはSNSを重要視していることです。
顧客満足の向上には、まず顧客が本当に求めているものがなにかを見極める必要があります。そのときに無視できなくなっているのがSNSの力です。
現在、スマートフォンとSNSの急速な普及によって、個人の情報発信が活発になっています。おいしい店を見つけたら、仲間に知らせる。反対に、ホスピタリティに不満を感じたら、それを具体的に書いてアップする。その情報はオープンなので不特定多数へと拡散していく。このように、個人が親しい人に商品や会社を紹介する動きが、大きな力を持つようになりました。
そこで顧客のニーズを測る調査でも、個人的な趣味思考をピンポイントに聞く質問が、大事であると考えられるようになっています。紋切り型の質問ではなく、対象となる人に血の通った重い質問をします。
例えば「これは、あなたの家族にもすすめられる商品ですか?」といった質問です。人は、自分が大切に思っている人に対しては、本当にいいものしかすすめないからです。
もちろん、すすめる相手は「家族」だけが対象ではありません。会社や遊び仲間、ネットだけの友人と、世の中にはさまざまなコミュニティがあります。そのため、より多くのコミュニティに関係を持つ人に、核心をつく質問をぶつけるのがポイントといえるでしょう。
同業者に加えて異業種の動向も知る
ニーズを把握したら、次に行うのが同業者の調査です。顧客は数ある同様の商品やサービスから、自分に合ったものを選びます。いかに同業と差別化を図り、選ばれるポイントをいくつ用意できるかを考えなくてはなりません。
ここまではよく知られている内容かもしれませんが、現代においては「同業者」だけでなく、「異業種」の動向もうかがう必要があります。なぜなら、さまざまな業種で既存のビジネスへの異業種参入が活発だからです。
たとえばある大手フィルムメーカーは、現在では化粧品も製造するようになりました。精密機械を作る町工場が、スイーツの製造販売に乗り出すといったような、ダイナミックな参入例があります。
既存の業種の企業にとっては厳しい時代といえますが、裏をかえせば外に出ていくチャンスが増えているとも考えられます。異業種と積極的に協力関係をとりつけて、両者にとって利益が出るWin-Winのビジネスを生み出すことも、決して珍しい話ではありません。
従業員満足は顧客満足と連動する
顧客満足を過剰に向上しようとすると、スタッフが疲弊し、従業員満足が下がってしまいます。しかし、顧客満足と従業員満足は連動しているため、決して従業員満足もおろそかにしてはいけません。
スタッフの側から見ると、気持ちよく働ければ気持ちの余裕が生まれ、より丁寧に顧客を考えることができます。おもにサービス業で顕著に見られる傾向といえるでしょう。
従業員満足を高めると、従業員が質の高いサービスをするようになります。こうして顧客満足が上昇し、SNSなどによる拡散で顧客が増えて、従業員の満足へとフィードバックされる。このような社内外の好循環を作り出すしくみを「サービス・プロフィット・チェーン」といいます。
顧客満足だけに捕らわれていると、身内の従業員のことがあと回しになりがちですが、どちらも会社にとって貴重な存在であることを忘れたくないものです。
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