羽田空港は2016年、イギリスのリサーチ会社、スカイストラック社の格付けランキングにおいて、空港の清潔さを評価する「ザ・ワールド・クリーネスト・エアポート」部門の1位に選ばれました。
“世界一清潔な空港”の評価を受けた裏側には、700人の清掃スタッフと、それを率いる一人の女性リーダーの存在がありました。
20万人が利用する巨大空港の清潔さを保つ方法とは
羽田空港の清掃部門のリーダーである新津春子氏は、羽田空港で唯一「環境マイスター」の称号を持ち、スタッフの指導や清掃用具の開発に携わっています。
新津氏は、日本人の父と中国人の母のもと、中国で生まれ17歳の時に来日しました。日本語があまり上手でなかったため、清掃の仕事にしか就くことができなかったそうです。しかし、やるからにはその道のエキスパートになろうという気持ちで、より早く、より丁寧に、よりきれいに、といつも小さな目標を持ち仕事に取り組んだとのこと。やがて全国ビル清掃技能選手権で日本一に輝くほどの実力の持ち主になりました。
新津氏が今も働く羽田空港は、1日に20万人が利用する巨大空港。国内線、国際線合わせて3つのターミナルがありますが、洗面所やトイレはもちろん、建物の軒下や手荷物カート、外壁、リムジンバスの停留所まで、全てが清掃の対象です。
この広い敷地を清潔に保つため、羽田空港には、潔さを維持するためのチェック体制があります。通常の清掃を行うスタッフとは別に、巡回して汚れがないかチェックする確認専門のスタッフを配置しました。この仕組みを作ったのも新津氏です。
さらに、決められた清掃時間以外の汚れも放置しないよう、スピーディに清掃する仕組みを作りました。汚れを見つけた巡回スタッフがセンターへ報告。センターから連絡のあった近くの清掃スタッフはいったん持ち場を離れて、すぐに清掃を行います。実は羽田空港のフロアーの一角には、目立たないように清掃用具が置かれており、道具を持ち歩かなくても清掃できるようになっています。巡回スタッフだけでなく、役職者も随時見回りを行い、クレームが入る前に処理できるようにしているそうです。
掃除だけできれば良いわけではない、マニュアルに頼り過ぎない
新津氏ら清掃スタッフが常に心がけていることの1つに、 “サービス業としての清掃”があります。これは「空港という場所で清掃する」という、シチュエーションを考慮したものです。
空港の清掃は、搭乗客のいる時間帯に行うことが多いものです。そのため、身だしなみや動作、表情を意識するのはもちろん、案内もできるように準備しているそうです。スタッフへも清掃だけやっていればいいという考えでなく、顧客満足度を優先した意識を持つように指導しているとのことです。
また、「マニュアルにこだわりすぎない」ことも特徴の1つです。広い空港の清掃のクオリティーを保つためには、作業手順や注意事項、効率的な方法など、当然ながらマニュアルが必要となります。同空港でもマニュアルは導入されていますが、新津氏によれば、「マニュアルだけでは上手くいかない」とのこと。スタッフの性格や考え方も考慮できるよう、700人ものスタッフと顔を合わせ、話をする機会を設けているそうです。
新津氏は自らを「職人」と呼び、仕事に探究心を持ち続けています。仕事への誇りがあるからこそ、こだわりが生まれ、その結果、「世界一清潔な空港」という評価に結びついたのです。
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