1980年代の「相手を打ち負かす戦略」から、「売り手、買い手、社会が共存共栄するような戦略」へと移行した現代。CSR(企業の社会的責任)に代わる概念として、CSV(Creating Shared Value)が注目されています。経済的な価値と社会的価値を同時に実現することを目指す戦略で、日本でも受け入れられている考え方の1つです。ユニクロを展開するファーストリテイリングでもCSVを実践し、柳井社長のリーダーシップをアピールしています。
CSV誕生の背景
ハーバード大学のマイケル・ポーター氏などにより提唱されたCSV。その背景には、インターネットの普及によるコミュニケーション構造の変化や、世界貿易機関(WTO)の誕生により、世界貿易の統一ルールができたことなどが挙げられます。それまでの競争優位の戦略では、実社会とのギャップが生じていました。それにより世の中は、敵を打ち負かす考えから、共栄共存する考え方へ移行していったのです。
CSRとCSV
CSRという概念は以前からあり、多くの企業が実践してきました。しかし本来、寄付などの社会貢献活動と利潤の追求には隔たりがあるものです。また、CSRはどの企業が行っても活動内容に大差はありません。
一方、CSVは企業の強みを生かし、ビジネスとして社会問題の解決を目指しています。
例えば、自動車メーカーによるハイブリッド車の開発は、環境問題の解決と同時に新しい市場を生み出しました。CSVへの取り組みが、それまでなかった付加価値を創造し、新しい製品やサービスを誕生させるのです。
もともと日本には、古くから「三方良し」(売り手良し、買い手良し、世間良し)という考え方があり、CSVに通じる部分があります。このため、日本でもCSVが受け入れやすかったと考えられます。
ユニクロのCSV
ユニクロを展開するファーストリテイリングもCSVを実践する企業のひとつ。古代から普遍的な価値とされる“真善美”を、服を通じて提供し、世界を良い方向へと変えることを目指していると言います。
本当に良い服、新しい価値を持つ服を創造すること。世界中の人々に良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供すること。服のもつチカラで社会や人々の生活を豊かにしていくこと。こうした考えをトップである柳井正氏は常に発信しています。結果、トップだけでなく現場でもその考え方が共有できているようです。現場にまで考え方を浸透させようとするリーダーの真摯な姿勢が、CSVをベースにしたリーダーシップにつながるのかもしれません。
ファーストリテイリングのCSV活動は、ウェブサイトで随時報告されています。リサイクルのための商品回収、難民キャンプや災害地域への衣類の提供、環境負荷を減らすための生産工程の工夫など、その取り組みは多岐に渡っています。
伊藤園のCSV
他社の例を挙げると、伊藤園が取り組んでいる茶産地育成事業があります。企業は原料の安定調達や品質の向上、低コスト化が見込め、生産者は契約栽培により安定した農業経営を行うことができます。地域社会には雇用が生まれ、活性化や耕作放棄地の減少が期待できます。
これからのCSV
多くの企業がCSRに代わる社会貢献として、CSVに取り組んでいます。しかし、CSRとCSVは似て非なるもの。CSVに力を入れたとしても、完全にシフトしてしまうのではなく、無償の社会貢献活動も必要なのではないでしょうか。
そしてCSVは、企業の特性を生かして、さまざまな社会貢献が考えられます。今後は、さらに多様なタイプのCSV活動が誕生するかもしれません。
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