2024.11.22 (Fri)
自治体が抱える課題とは(第8回)
エビデンスに基づく政策を!「EBPM」がもたらすもの
「EBPM」という言葉をご存じでしょうか。これは「エビデンスに基づく政策立案(Evidence-based Policy Making)」の略語で、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。
すでに内閣府をはじめとした中央省庁では推進されており、自治体においてもEBPMに取り組む事例が登場しています。本記事では、EBPMの概要とその取り組み方、自治体におけるEBPMの取組事例を紹介します。
行政はデータを軽視している!?「EBPM」とは
日本は現在、少子高齢化や厳しい財政状況といった社会課題を解決するために、さまざまな対応策が打たれています。しかし、2017年に首相官邸から報告された「統計改革推進会議 最終とりまとめ」によると、日本の政策立案では、「統計や業務データが十分に活用されていない」という問題点が指摘されています。
そうした問題点を解決すべく生まれたものが、冒頭で触れた「EBPM」です。EBPMは、統計や業務データを積極的に活用し、国民により信頼される行政を展開するために推進するためのものとして、同報告書に明記されました。
政府全体でEBPMを推進するための組織「EBPM推進委員会」が2021年に発表した「EBPM課題検討ワーキンググループ取りまとめ」という資料によると、EBPMの基本的な考えとして、「政策目的の明確化」、「政策手段と目的の論理的なつながりの明確化」、「つながりの裏付けとなるデータなどのエビデンスを可能な限り求めたうえで政策の基本的な枠組みを明確化する」の3点があるといいます。
こうしたEBPMの基本的な考え方が定着・浸透していくことで、より良い政策形成、国民に対する説明責任の向上、政策手段を社会の変化に応じて弾力的に改善していく文化の醸成など、政策立案の質向上にもつながると期待されています。
EBPMは、「PDCA」ではなく「PPDAC」で進める
EBPMの推進は、中央省庁だけで行われているものではありません。総務省統計局が運営する自治体向けのデータ利活用サイト「Data StaRt」では、自治体においてもEBPMが推進されているといいます。
同サイトでは自治体がEBPMに取り組む際の進め方も公開しています。そのひとつが「PPDACサイクル」です。
PPDACサイクルとは、problem(問題)、plan(計画)、data(データ収集)、analysis(分析)、conclusion(結論)の頭文字をつなげたものです。それぞれの頭文字に沿って、EBPMを推進するための5つの手順が紹介されています。
最初のproblemは、問題の把握と明確化を行います。クリアすべき課題から問題の構造を明確化し、さらに問題の程度を定量的な数値として設定します。次のplanは、問題解決のために必要な仮説を設定し、そのために必要なデータや資料の収集および調査計画、仮説を検証するための分析計画を立てます。
3つ目のdataでは、planで設定した各計画を基に、データを収集・整理します。ここでいうデータとは、「e-Stat」や「統計ダッシュボード」といった公的な統計データを指します。
4つ目のanalysisでは、手順3のdataで収集・整理したデータを基に分析を行います。分析する際には、全体の傾向や分布を見ること、年齢や居住地などで分類や比較をすること、時間による変化を見ること、これらのデータから今後のデータ推移を推測することが必要といいます。最後のconclusionは、分析結果を明確に示し、problemの手順で設定した問題に対して解決策を提案します。
このPPDACサイクルで打ち立てた政策に新たな課題が見られた場合は、再度PPDACサイクルを行うことで、EBPMの精度を高めることが可能です。
自治体でもEBPMを採り入れた例がある
実際にPPDACサイクルをベースに、EBPMに取り組んだ自治体も存在します。
神奈川県横須賀市では、市内の財・サービスの生産・消費・分配の様子を一つの表にまとめた「横須賀市産業連関表」というデータを作成し、市独自で開発したツールを用いて分析を行っています。
同市で開催されているANAウインドサーフィンワールドカップにも、EBPMが活用されています。2018年に開催された同イベントでは、宿泊客の経済波及効果が日帰り客の7倍になること、宿泊客は県外からの来場者が多いといった分析結果が出たとから、2019年開催では県外からの宿泊客を誘致する広告宣伝を行ったところ、2018年開催時に比べ、宿泊客割合は1.8%、宿泊客数の推計は2.4倍に向上しました。
自治体がEBPMを推進することで、より一層地域社会の課題を的確に把握し、課題解決に向けて柔軟かつ効果的に取り組めるはずです。未導入の自治体も多いかもしれませんが、その存在だけは覚えておいた方が良いでしょう。
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