SDGsの達成やサステナブルな社会の実現に向けてさまざまな取り組みが進む中で、「グリーンボンド」が注目されています。グリーンボンドは、グリーンプロジェクト(環境改善活動)を目的に発行される債券で、2014年日本国内で約337億円だった発行総額が、2022年は2兆円を突破。発行件数も増加傾向にあります。本記事では主に自治体関係者に向けて、グリーンボンドの概要や活用事例などを紹介します。
世界で急拡大するグリーンボンド市場
自治体や企業の活動において、環境問題対策は欠かせない項目になりつつあります。とはいえ、太陽光や風力発電設備の設置など、対策には多額の資金が必要になるケースが少なくありません。そこで注目を集めているのが、グリーンボンドです。グリーンボンドは自治体や企業、金融機関が発行する債券で、「環境債」とも呼ばれます。集めた資金は、再生可能エネルギー、省エネルギー、廃棄物処理や水管理、環境負荷の少ない交通、気候変動への対応など、環境問題の解決に貢献する事業(グリーンプロジェクト)に使われます。
グリーンボンドは、2008年に世界銀行グループの国際復興開発銀行が初めて発行しました。国内では、2014年に日本政策投資銀行が初めてグリーンボンドを発行して以来、市場が拡大を続けています。
一般的にグリーンボンドは、自治体や企業、金融機関が発行し、証券会社などが投資家に販売します。そこで得た資金で、自治体や企業、金融機関はグリーンプロジェクトを実施し、投資家は利子や元本の返済という形でお金を受け取ります。なお、集めた資金がグリーンプロジェクトに適切に使われているか、監査法人などの外部機関がチェックすることがあります。
グリーンボンドは、国際資本市場協会(ICMA)が策定したグリーンボンド原則において、資金調達の使途、管理、レポーティングなどに関する規定が定められています。この規定によるとグリーンボンドには次の4種類があり、償還・原資などの違いがあります。
Standard Green Use of Proceeds Bond(標準的なグリーンボンド)
標準的なグリーンボンドで、借りたお金は特定の財源でなく、発行体全体のキャッシュフローから返済されます。
Green Revenue Bond(グリーンレベニュー債)
公的なグリーンプロジェクトで発生したキャッシュフローが返済に充てられます。事業による収益、公共施設の利用料、特別税などを原資として償還します。
Green Project Bond(グリーンプロジェクト債)
単一または複数のグリーンプロジェクトのキャッシュフローを原資として償還します。当該事業の収益のみを原資とします。
Secured Green Bond(担保付きグリーンボンド)
グリーンプロジェクトに係る資産を担保とします。資産がほかの債権に優先して担保になります。
自治体がグリーンボンドを発行するメリットのひとつは、イメージアップにつながることです。環境問題の解決に取り組んでいることをアピールでき、住民の関心を高めるきっかけにもなります。また、グリーンボンドに対する投資家からの需要が大きい場合、比較的好条件で資金を調達できる可能性も見逃せません。
投資家のメリットとしては、債券投資による利益を得ながら、サステナブルな社会の実現に貢献できる点が挙げられます。また、2050年カーボンニュートラルの取り組みの中で、再生可能エネルギー事業や省エネルギー事業などのグリーンプロジェクトは、大きな投資需要があると考えられます。さらに、グリーンボンドは、通常の債権などに比べて価格変動の可能性が低いと言われている点も特長です。
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グリーンボンドを発行する自治体が増加
日本の自治体でグリーンボンドを最初に発行したのは東京都で、2017年に200億円を発行しました。資金の使途は、五輪関連施設の環境対策、スマートエネルギー都市づくり、気候変動影響への適応(中小河川整備など)、公園整備による緑化などでした。東京都は、2030年カーボンハーフ、2050年ゼロエミッションを宣言しています。2018年以降も毎年グリーンボンドを発行していて、2022年は約400億円に上りました。
ほかの自治体では、2020年には長野県が、2050年にCO2排出量実質ゼロの達成と、自然災害の被害の緩和を実現するために50億円を発行しました。また同年には、環境改善効果が見込まれる河川改修、海岸護岸などの整備事業を進めるため、神奈川県が50億円のグリーンボンドを発行しています。
2021年には川崎市、2022年は福岡市、三重県、仙台市、兵庫県、静岡県、大阪府、京都市、愛知県などもグリーンボンドを発行しました。資金の使途としては、福岡市の場合は雨水整備事業など、三重県の場合はクリーンな輸送、省エネルギー、自然資源・土地利用の持続可能な管理などの事業が挙げられます。2023年度は少なくとも52自治体が機関投資家向けに発行予定で、今後も自治体のグリーンボンド発行は増える見込みです。
ただし財政規模が小さい自治体にとって、何十億円もの債券を発行するのはハードルが高いという問題もあります。そこで総務省はグリーンボンドを自治体が共同発行できる制度づくりを進めています。複数の自治体が対象事業を持ち寄ることで一定の発行額を確保できるようにして、発行にかかる費用を抑えることができます。
国が2050年カーボンニュートラルをめざす中、環境改善活動はどの自治体にとっても取り組むべきものであり、その内容は多岐に渡ります。さまざまな自治体の発行事例を参考にしながら、グリーンボンドを検討してみてはいかがでしょう。
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