日本の少子高齢化は、大きな社会問題のうちのひとつです。今後、少子高齢化社会が加速し、労働人口が減少すると、消費税や法人税などの税収は減少する可能性が考えられます。税収で運営している自治体は、税収減を見越してさらなるコスト削減に力を入れる必要があるといえるでしょう。
自治体がコストを削減する方法にはさまざまな方法がありますが、今回は業務の一部を民間委託する方法について解説します。
民間委託とは
民間委託とは、国や地方自治体がみずから業務を行わず、民間企業や個人事業者、NPO団体など、外部の機関に委託することを示します。
委託先の企業や団体への報酬は発生しますが、業務に関する専門的なノウハウを有する企業や団体が効率的に業務を行うことが期待できるため、結果的にコストの抑制にもつながり、行政サービスの質の向上にもつながる可能性があります。
住民に質の高い行政サービスを提供することは、住民の満足度の向上につながります。逆に満足度の低いサービスを提供すると、住民が流出する可能性が生じ、税収減につながりかねません。
民間委託が進められている業務は、給与や税金の処理や庁舎の清掃や、ごみ・し尿の収集運搬、学校給食、水道のメーター検針、公共施設の管理など、多岐にわたっています。
民間委託が注目を集める背景
行財政改革の推進
民間委託が進む背景には、行政サービスの必要性と在り方を点検する「行財政改革」の推進があります。
国や地方自治体の公共サービスには、多額の税金が投入されています。しかし、財源には限りがあるため、行財政改革によって「組織を運営する上で非効率なところはないか」「公務員の人数は適正なのか」「効果がない事業はないか」など、運営面の見直しが進んています。
地域の産業振興を進める必要性
国や地方自治体における重要な政策に、地域経済の健全な発展をめざす「産業振興」があります。各地域に所在する中小企業に対して業務を発注することで、地域経済の発展が期待できます。
人々が抱えるニーズの多様化
社会は常に目まぐるしく変化しており、住民のニーズも多様化が進んでいます。こうしたニーズに応えるためにも、専門的な技術や優れたノウハウをもつ民間企業あるいはNPO法人への委託が進みつつあります。
民間委託の事例
足立区(東京都)
約69万人(2022年1月1日時点)もの住民を抱える東京都足立区では、戸籍・住民票等証明窓口の業務を、民間の事業者に委託しました。これによりコストは、区役所の職員が同業務を担当した場合と比べて年間約2,500万円を削減できたといいます。
民間委託によってサービスの質も向上。受付窓口数は8から16に増え、さらにフロアマネージャーも1名から3名に増員されました。
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民間委託の課題と今後
民間委託の場合、「どこまでが行政の責任となるのか」という課題があります。場合によっては、委託事業者が個人情報を外部へ流出してしまうことも考えられます。
こうしたリスクを抑えるために多くの自治体では、個人情報保護条例に基づいた罰則の強化や、弁護士や特定社会保険労務士で構成された調査委員会が、民間委託後の業務で個人情報が適正に扱われているかを評価するといった対策を行っています。
実際に足立区では、2015年1月にこうしたリスクを懸念した住民が、委託契約に基づいて支出された委託料の返還を求める住民訴訟を起こしています。判決は原告の請求を棄却するものとなりましたが、裁判の結果、委託業務の範囲は変更・縮小され、戸籍異動や入力・移記入力などの業務、戸籍の移動にともなう住民異動の受付・入力作業の業務は、区役所の直営に戻っています。
実際に個人情報が外部へ流出してしまえば、自治体に対する信頼はもちろん、民間委託そのものの信頼が失われることとなります。
まとめ
民間委託は、自治体のコスト削減手段のひとつではあるものの、むやみに民間委託をすれば良いわけではありません。どの業務を民間委託し、どの業務は委託しないのか、その見極めが自治体には求められます。
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