デジタルの力を活用して地方の社会課題解決をめざす「デジタル田園都市国家構想基本方針」が、2022年6月に閣議決定されてから1年が経ちました。この方針の中では、「地方への人の流れの強化」も重点課題に挙げられています。この記事では、地方自治体の移住定住施策を紹介しながら、地方へ人を呼び込むためのデジタル活用について探ります。
ZoomやSNSを活用して街の魅力を伝える
少子高齢化、若者の人口流出による労働力不足は、地方の経済活動を停滞させ、産業の空洞化や経済縮小の大きな原因となります。このような問題に対して日本政府は、「デジタル田園都市国家構想基本方針」を2022年6月に閣議決定しました。「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」を掲げ、①地方に仕事をつくる、②人の流れをつくる、③結婚・出産・子育ての希望をかなえる、④魅力的な地域をつくる、⑤地域の特色を活かした分野横断的な支援、を柱にしています。具体的には、キャッシュレス決済、サテライトオフィスやサテライトキャンパスの設置、母子オンライン相談、母子健康手帳アプリの開発、遠隔医療、ドローン物流などの実現をめざしています。
こうした流れの中で自治体はデジタルの力を使って人を呼び込むためのさまざまな施策を行っています。そのひとつがZoomやTwitterなどの積極的な活用です。
例えば、島根県はIターン移住者を獲得するために「しまね移住体感オンラインツアー」を実施。移住を検討している人に向けて、島根での暮らしや仕事、住まいについての情報、先輩移住者の声などをZoom配信で届けています。移住に興味のある人がどこにいても参加可能なことやリアルな暮らしぶりを気軽に体感できると人気を集めています。この取り組みの効果もあり、第一回目のオンラインツアー開催翌年にあたる2022年4~6月に島根県へUターン・Iターンした移住者は、前年度に比べて12%増の1,026人になりました。
京都府福知山市は、Twitterを利用して、「空き家」バンクの制約率を高めています。住宅全体に占める空き家の割合は地方を中心に高くなっていますが、福知山市では市が中心となって空き家を斡旋。2009年の制度開始以来、登録された空き家バンクの成約率は51.9%、このうち約80%が市外在住者で、空き家の利活用による移住促進が進んでいます。成功のポイントは、インターネット中継で内覧できるオンライン見学会の実施に加え、子育て環境のよさをTwitterで発信するなど、子育て世代にも注目してもらえる発信を積極的に行うなど、デジタル技術を活用している点にあります。2022年度には、過去最大となる27世帯71人がこの制度を利用して移住しました。
【自治体向け】ミライeマチ.com
地域のミライを皆さまと一緒に支えていきたい。NTT東日本は、公共・自治体のお客さまとともに、地域課題の解決を通じて、まちづくりのコーディネイトと地域活性化を支援いたします。
データを活用をしてターゲットに合った情報を提供する
自治体の中には、デジタルツールの活用に加え、データ分析なども行って施策効果の最大化を狙うところも出てきています。
愛知県蒲郡市は、2030年の目標人口を7万7,000人と定めて、移住定住政策に力を入れています。同市はICT企業と協業して、移住定住希望者の属性情報、デジタルコンテンツの閲覧データ、イベントへの参加データ、セミナーなどのアンケートから得たデータなどを統合。移住定住希望者一人ひとりに最適なタイミングで最適な内容をメールなどで配信して、プロモーションサイトや先行移住者アンケートといった移住コンテンツへの興味を喚起し、アクションを起こしてもらえるよう取り組んでいます。
データ分析による最適な情報提供という点では、長崎県も取り組みを行っています。同県は、移住に関心のある方を対象としたLINE公式アカウント「ながさき移住ナビ」を運営していますが、ICT企業の協力を得て、移住検討者の状況に合わせた段階的なアプローチを行っています。
まず、LINEスタンプやLINE広告で、移住に興味関心を持ってもらうための情報拡散を行い、「ながさき移住ナビ」の友だち追加を促進。次に、長崎県庁の既存の会員登録データベース「ながさき移住倶楽部」とLINEを連動。登録情報に合わせたセグメント配信を実施します。これにより、移住検討者は仕事や住居など、パーソナライズされた情報を受け取ることが可能になります。そして最後は、1対1の個別相談につなげようとしています。
ほかにもデータ活用という点で、岡山県笠岡市の例を紹介します。同市は、Instagramの公式アカウント「カサオカスケッチ」を運営し、おすすめのスポット、イベント、グルメ情報などを紹介して、同市の魅力を移住定住希望者にPRしています。Instagramの運用にあたってはビッグデータでトレンドをこまめにチェック。上昇キーワードや検索推移を参考に、ハッシュタグと投稿タイミングを設定することでフォロワー数の増加につながりました。
今回紹介した事例からも、地方自治体がDXに取り組むことで、全国の移住定住希望者に向けて、地域の魅力をわかりやすく発信することができます。加えて、データを活用・分析することで、移住定住希望者一人ひとりに合った情報発信が可能になります。コロナ禍のリモートワークの普及により、どこに住んでいても働ける環境が整いつつある今、地域の利点を知り、その魅力をいかに発信し、移住者を呼び込むか。自治体のデジタル活用力が問われています。
連載記事一覧
- 第1回 DX推進から窓口業務まで、自治体の業務アウトソーシング事例2022.03.31 (Thu)
- 第2回 国や自治体のコスト削減のカギを握る「民間委託」 2022.03.31 (Thu)
- 第3回 自治体DX加速を導くローコード・ノーコードの可能性2023.06.14 (Wed)
- 第4回 東京都は約400億円!環境政策の財源確保に「グリーンボンド」を導入する自治体多数2023.06.14 (Wed)
- 第5回 過半数が「訓練未実施」。自治体の情報セキュリティ対策2023.06.20 (Tue)
- 第6回 移住定住希望者に最適な情報を発信。自治体のDX活用事例2023.06.20 (Tue)
- 第7回 なぜ人口2万人の市がスマートシティ化しているのか2023.11.22 (Wed)